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花相の読書紀行№.85『カウントダウン』

自治体は二度死ぬ

【カウントダウン】/佐々木譲
<あらすじ>
市長選に出ろ。オフィスに現れた選挙コンサルタントは、いきなりそう告げた。夕張と隣接し、その状況から双子市と称される幌岡市。最年少市議である森下直樹に、破綻寸前のこの町を救えというのだ。直樹の心は燃え上がってゆく。だが、二十年にわたり幌岡を支配してきた大田原現市長が強大な敵であることに違いはない。名手が北海道への熱き想いを込めた、痛快エンターテインメント。
 
★感想
本作は、自治体の死へのカウントダウンが始まった町の若き市会議員の“森下直樹”が、その町を救うべく市長に当選するまでを描いています。
そのきっかけを作った選挙コンサルタントの“多津美”。
選挙コンサルの映画と言えば、サンドラ・ブロック主演の「選挙の勝ち方教えます」や香川照之主演ドラマ「当確師」などありますが、どちらも未視聴なので機会があれば観てみたいです。
ちょっと違った観点ではあるけれど、戦略を駆使して政治を陰で動かす花形ロビイストを描いた「女神の見えざる手」は、とても面白かったです。

私にとって本作は、非常に思入れの深い小説でした。
小説に出てくる固有名詞は、実在のものが多かったので、より身近に感じてしまったのかも知れませんが、これは当時の私の環境にも起因します。

2006年夕張の財政破綻が公になった頃、当時請け負っていた仕事の関係から、夕張市議会の様子や市職員の様子などを取材するお手伝いをしていました。
本小説は、20年以上にもわたり赤字を隠匿し、膨大な借金を背負い、財政再生団体となる市を夕張の双子町と設定しながら、当時の夕張を再現しています。
その頃の市役所内の雰囲気、市長以下市職員上層部や市議会議員の様子、そこ住む住民たちが当時を知る私にとっては、あまりにリアルでした。

私が住む街も公共事業や助成金などの膨大な支出や過剰人件費に伴う大きな借金(兆単位)を抱えた時期がありました。
ただ夕張破綻当時が問題になる少し前、行政のトップだった市長の早い再建計画により、10年近くの任期の中で黒字転換を実現させ、加えてITにも力を入れ、地域専用の光通信網を整備し、当時は最先端の町として国の行政特区にも指定されました。
これにはトップの手腕もさることながら、それを支える市職員や議会議員たち、痛みを分かち合う市民の理解と協力が不可欠だったと思います。
 
自治体の死…けっして他人ごとでは無いのです。

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