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花相の読書紀行№.86『襲大鳳 羽州ぼろ鳶組』

江戸火消しの矜持、ここにあり!

【襲大鳳 羽州ぼろ鳶組 上・下】/今村翔吾
<あらすじ>
◆上巻
大気を打ち震わす轟音が、徳川御三家尾張藩屋敷に響く。駆け付けた新人火消の慎太郎が見たのは、天を焼く火柱。家屋が爆ぜたと聞き、慎太郎は残された者を救わんと紅く舞い踊る炎に飛び込んだ――。新庄藩火消頭松永源吾は、尾張藩を襲った爆発を知り、父を喪った大火を思い出して屈託を抱く。その予感は的中。源吾の前に現われたのは、18年前の悪夢と炎の嵐だった。
◆下巻
強く澄んだ眼差しは、火消のそれだった―。新庄藩火消頭"火喰鳥"松永源吾は、尾張藩中屋敷を襲う猛火の中、もう一人の鳳と邂逅を果たす。火事が特定の人物を狙った謀殺と看破した源吾だったが、背後には巨悪の影がちらつく。ぼろ鳶組の面々、同期の火消たち、そして妻深雪と子平志郎との絆が、源吾を一個の火消たらしめる。技を、想いを、火消の意志を繋げ!
 
★感想
羽州ぼろ鳶組シリーズ第10作目。
今回は上・下巻と言う大作になっていますが、まったく長さを感じず読み終えてしまいました。
これは物語が文句なしに面白いからに他なりません。
前作のスピンオフ『黄金雛(こがねびな)』を読むことで、今回の柱である火付け事件の背景が分かります。
先ずは、こちらを読んで頂きたいです。
 
幼少のころから源吾が憧れた火消し“炎聖・伊神甚兵衛”の話に触れながら、八重州河岸定火消の頭“進藤内記”の隠された苦悩や思いが語られる部分も注目です。
内記もやっぱり“黄金の時代”の火消しの一人。その心意気は、立場は違えど源吾のそれと同じなのです。
 
百七十一人の仲間の命を無残に奪われ、復讐に走った伊神甚兵衛が火消しの心を取り戻す。
“―皆はここにいたのか”
甚兵衛のその心のつぶやきが、源吾の父“重内”の最後の言葉が報われた瞬間だったと思うと、ぽろっと涙。
一火消しとして、火焔から人々の暮らしや命を守るため立ち向かうとき、その思いの中に仲間が居ると気付いた瞬間です。
 
第十章の場面。
伊神の己に憧れ立派な火消しとなった源吾への慈愛に満ちた眼差しや物言いが、グッと心に突き刺さります。
世話になった村の民を救うため、人命のためなら己の命をも厭わぬ源吾を守るため、自ら危険な火事場に立ち向かっていく姿が、鮮明に心に映し出され、思わず号泣。

今回も、心に熱い想いを残す物語を有難う御座いました。

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