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花相の読書紀行№.112『高瀬庄左衛門御留書』

藩の政争に巻き込まれた老武士の生き様

【高瀬庄左衛門御留書】/砂原 浩太朗
<あらすじ>
神山藩で、郡方を務める高瀬庄左衛門。五十を前にして妻を亡くし、息子をも事故で失い、ただ倹しく老いてゆく身。息子の嫁・志穂とともに、手慰みに絵を描きながら、寂寥と悔恨の中に生きていた。
しかしゆっくりと確実に、藩の政争の嵐が庄左衛門に襲いくる。人生の苦渋と生きる喜びを丁寧に描く、武家もの時代小説の新星、ここに誕生!(「BOOK」データベースより)

第165回直木賞候補作

★感想
時代背景は江戸幕府、架空の藩「神山藩」の郡方を務める下級役人の“庄左衛門”。2年前に妻を亡くし、役務を継ぐ息子を事故で失い、一人残された初老にさしかかる藩士の生き様を、四季を通して語られる物語です。

苦しい生活乍ら日々実直に生きる庄左衛門、彼を通してそれぞれの登場人物たちが色を成していくような描き方に魅かれ、気が付いたらラストを迎えていました。
終盤部分でのさらりと流れる庄左衛門と志穂のくだりも、幾つになっても心が魅かれあえば繋がるもの。そんな部分も人間的で、彼がごく普通の人として、筆者は描きたかったのではないでしょうか?
志穂の凛とした生き方に比べると、自信のなさを伺わせる庄左衛門が、何とも可愛く感じました。(笑)
 
庄左衛門の武士でありながら自然と共に生きる姿と、この先の己の生き方を重ねてしまいます。
時がゆっくり流れるように日々が過ぎてゆく中で、日々の小さな事件に遭遇しながら、それでも己を失わずに命の終わりを迎えることが出来たら、きっと幸せな一生だと私は思えます。

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