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情熱大陸に選ばれたスペシャリストは今、マネジメントに心血を注ぐ──中村篤史は獣医療の未来に何を見るのか

「ペットは大切な家族」。そう考える人が増える一方で、獣医療の現場には課題が山積みです。医療の質の向上、獣医師不足、デジタル化の遅れ......。そうした問題に立ち向かい、ペットとオーナーの幸せな未来を実現しようとしているのが、A'ALDA  Ltd,.(以下、A'ALDA)です。

日本の獣医療の第一線で活躍してきた中村篤史は、救命救急という先端分野に魅力を感じ、その世界に飛び込みました。命を救うために瞬時に判断を下し、行動に移す。そんな現場の経験を通して、獣医療に関わる一人ひとりの心身の健康の大切さを実感したと言います。

そして2022年4月、中村はA'ALDAに参画。General Director of Healthcare Divisionとして、同社の医療事業の発展を牽引しています。グループ化によるナレッジの共有、デジタル化による業務効率化、グローバル化を通じた新たな価値の創出。A'ALDAのビジョンに、臨床医師と病院経営者の両面を経験したことが、どう生かされているのでしょうか。

現場の獣医師や動物看護師が健全に働ける環境を整備すること。個人と個人のつながりを大切にしながら、チームとしての力を最大化すること。何より、ペットとオーナーの幸せを追求し続けること。中村が重要だと考える理念は、A'ALDAの取り組みにも色濃く反映されています。

日本の獣医療を変革し、世界に新しいスタンダードを生み出す。その先頭に立つ中村の想いに迫ります。

本当は、好きなバスケで生きていきたかった

獣医になったのは、実家が動物病院を営んでいた影響もあります。子どもの頃は、将来の夢を尋ねられても目標がなく、反抗期も重なって、勉学からは遠ざかっていました。中学でバスケットボールに熱中し、将来は実業団入りを目指すようになりましたが、高校1年の時に膝を怪我。夢を断念せざるを得ませんでした。

突然目標がなくなり、文字通りの挫折。
進路については父を見ていたこともあり、獣医学部を受験することに決めました。浪人を経験しながらも大学に進学しましたが、途中で獣医学への適性に疑問を感じ、辞めようかと悩んだこともあったくらいです。でも、仲間や魅力的な先生との出会いが支えとなって、学業を続けることができました。

大学時代、私は常にどのような環境であっても「一番になりたい」という思いを抱いていたんです。実現のために北里大学獣医科を卒業後に、東京大学附属動物医療センターや北海道の酪農学園大学などで研鑽を積み、日本のトップレベルの獣医療に触れる機会を得ました。

そんな中、テレビドラマ『コード・ブルー』や、海外ドラマ『ER 緊急救命室』を観て、救命救急の世界に強く惹かれるようになりました。スピード感と緊迫感、そして最短距離で意思決定し、命を救うというエモーショナルな環境がカッコよく映ったんですよね。

そこで、実際に動物医療の夜間救急の現場で働いてみると、これまでの臨床経験とは全く異なるスピードを体感しました。さらに、人間の医療現場や海外の大学病院でも救命救急の様子を見学してみると、日本の動物医療における救命救急のあり方について疑問を抱くようになりました。日本の夜間動物病院が行っていることが本当に正しい方向性なのか、自分の目で確かめたいと考えるようになったのです。

幼少期の中村少年

獣医療の世界でいち早く、チームビルディングの重要性に注視

そして2018年、私は日本獣医救急集中治療学会を設立しました。獣医療における救命救急の重要性を社会に発信し、この分野の発展に尽力したいという思いからでした。

救命救急は獣医療の中でも非常に魅力的で面白い分野ですが、私が特に興味を持ったのは、そうした過酷な環境下でチームとして人がどのように機能するのかという点でした。

夜間の厳しい勤務体制の中で、患者さんに向き合うといった、糸が張り詰めたような状況下で高いパフォーマンスを発揮するには、スタッフ一人ひとりが心身ともに健康でなければなりません。どうすれば目標を持ち、情熱を持って働き、日々の喜びを感じられるのか。チームとしてどうすれば結果を出せるのか。そうした点に強い興味を抱くようになりました。

私は2011年から「TRVA夜間救急動物医療センター」の開院に伴って院長に就任し、約10年にわたって勤務しましたが、困難な環境下でもチームビルディングとパフォーマンス向上は可能だと確信しました。

これを日本中の動物病院でも実践できるのではないか、そして将来的には海外でも自分の力を発揮していきたい、という気持ちが芽生えてきました。
そんな時、A'ALDAという新たなフィールドに出会ったのです。「ここが自分にとって最適な環境だ」と直感したんです。

獣医療だけ、学べばいい時代ではない

私は、臨床医師と病院経営者という立場を経験してきました。それぞれに課題があり、A'ALDAでは両方にアプローチできるポテンシャルを持っています。

課題を整理すると、まず臨床の現場では獣医療の細分化が進み、ジェネラリストとスペシャリストの区分けが難しくなっています。スペシャリストとして活躍するためには、その領域で生計を立てられるだけの需要と社会的な認知が必要です。しかし現状では、「整形外科」や「皮膚科」といった特定の分野に特化した動物病院はまだ少ないのが実情です。

このように細分化が進む中で、若手の獣医師がどのような道を目指すべきなのか、明確な指針が示しにくくなっています。また、そうしたスペシャリストを受け入れても経営的にも成り立つのかという課題もあります。一次診療クリニックとしての役割、専門病院としての役割など、まだ不安定な状況にあると言えるでしょう。

一方で病院経営の面では、マネジメントの難しさが顕在化しています。経営的な知識だけでなく、人材マネジメントが重要な課題となっています。かつては小規模な病院が地域に根差して運営されていましたが、今は一つの病院で多くのスタッフを抱えるようになりました。

獣医師の養成課程では学ぶことができなかった人材管理というスキル・能力が、経営者に求められるようになったのです。

数字に基づく論理的なマネジメントに加えて、スタッフ一人ひとりの「心」をどう扱うかという定性的なマネジメントが欠かせません。その病院で働くことで、当人の情熱に火がつくような環境を整えられるかどうか。

一般企業でも求められているように、そのようなケアが今、一番必要なのではないかなと。経営の知識と人の心への理解、両方の視点が求められます。

かつて獣医師は、臨床に専念すればよかった時代がありました。でも今は、経営という側面と、マネジメントという側面が加わり、リーダーの負担が増しています。これは獣医療業界に限らず、他の業界でも起きている変化でしょう。獣医療はその流れに数十年遅れて直面しているのだと思います。

獣医療は「感情の仕事」でもあります。動物の命を助けるために、飼い主の願いや思いを、どう受け止めるか。それは人間力が問われる現場とも言えるでしょう。そのためにも、獣医療に携わる一人ひとりの心身の健全さが何よりも大切だと、私は考えています。

身体的にも精神的にも、そして経済的にも健全でいられる仕組みがなければ、バーンアウトする人が増えてしまう。その「歪み」が今、現場で起きているのです。

10年、20年後を見据えると、現役を退く獣医師が増え、業界を支えきれなくなる懸念があります。目の前の課題に加えて、将来的な問題も見えているのが現状です。

この業界には、全体最適の視点を持ち、総合力で結果を出そうというプレイヤーが不足していたのかもしれません。志を強く持ち、あるべき社会の姿を追求する存在が求められていたのだと思います。

A’ALDAの役割は、社会にインパクトを与えるだけではなく、獣医療業界が抱える「歪み」をどう解決していくかにあるのです。

そのためには現場の獣医師や動物看護師など、獣医療に関わる人たちが心身ともに健康であること。それがすべての原点だと私は考えています。経済的にも報われる状況をつくらなければ、何も変わらない。そして、そのためには経営とマネジメントの力が欠かせないのです。もはや獣医療の知識だけ学べばいい時代ではないことは明白ですね。

インドの獣医師たちとも交流も盛んで、活動範囲は海を越える

経営、職場環境構築、すべてでお手本となる必要がある

では、どうすれば獣医療業界の「歪み」を解決していけるのか。そこでは、私たちA'ALDAが掲げる「デジタル化」「グループ化」「グローバル化」という3つのポイントが効いてくると思うので、少し掘り下げてお話ししましょう。

まず、「グループ化」という観点では、A’ALDAの取り組みが社会へ「お手本」として示すような存在にならなければならないと考えています。獣医療業界のあるべき姿、つまりはスタッフが健全に生き生きと働き、一人ひとりが夢を持ってやりたいことにチャレンジできる環境を実現することが大切です。

個人の幸福とスタッフ同士の良好な関係性を基礎に、主体的により高い目標を設定できる。そのために、不安なく働ける待遇を整えるためにも経営もグループとしてボトムアップしていく。そうした主体性を引き出すサポートが経営陣の仕事です。

そして、経営やマネジメントのノウハウを各グループで試行錯誤し、成功事例も失敗事例も共有していく。どこかでうまくいけば、そこから波紋のように優れた取り組みが広がっていく。そうした相乗効果こそが、グループ化の大きなメリットだと考えています。

社会から見れば、グループ病院として全員が生き生きと働き、価値を提供できている姿を示すことが重要です。「A'ALDAができれば、他のグループでもできるはずだ」と思ってもらえるような再現性のある成果を上げたい。それが、日本の獣医療を変える大きなきっかけになると信じています。

先駆者が道を切り拓けば、後続者のハードルは下がる

次に「デジタル化」についてですが、私たちの生活の中に自然と溶け込むような形で進めていきたいと考えています。それこそスマートフォンが生活に浸透したような状況をイメージしたいところです。電子カルテなどの導入も重要ですが、飼い主さんも獣医師さんも意識せずにデジタル化の恩恵を受けられる状態を目指します。

私たちがうまく活用できるシステムを作り上げ、利用する患者さんにも快適だと感じてもらえれば、他の病院にも広がっていくはずです。A’ALDAがデジタル化の先駆者として、自分たちで使って結果を出せるレベルまで磨き上げたいと思っています。

さらに「グローバル化」ですが、本当に未知の世界への挑戦だと感じています。A'ALDA以外に、海外でも本気で動物病院を根付かせようとしている事業者はいないでしょう。私たちの強みは、こういった「どうなるかわからない領域」に投資をして、やり抜こうとしているところが素晴らしいのだと自負しています。

インドの事業はまだ始まったばかりで、伸びしろがあると見られています。日本での展開と照らし合わせながら、各国の文化の違いも理解しつつ事業を進められるのは大きなメリットです。

まだ言葉にしきれていませんが、「未開の地」に本気で広げようとしているA’ALDAのチャレンジ精神こそが、最大の武器なのかもしれません。現地で働くメンバーとの交流を通して、新たな発見や学びも得られるはずです。A'ALDAだからこそできる、ワクワクするような挑戦があると感じています。

先駆者が道を切り拓けば、後に続く人たちのハードルは下がります。野球なら野茂英雄、サッカーなら中田英寿といったように、海外に挑戦した選手たちが存在で示してくれた道をたどり、今はいずれも世界的に活躍する選手も増えてきましたよね。誰もやったことのない領域に真っ先に飛び込んで、成功事例を作る。それがA'ALDAの役割だと思っています。

24年の入社式の様子

獣医療の世界でも同じです。これまでにないことに挑戦し、新しい点をプロットしていく。それが日本の獣医療の可能性を大きく変えていく原動力になるのだと信じているのです。こういった話を、CEOの奥田とはよく話しています。それを夢物語にせず、地に足のついた経営と利益追求にマネージャー陣がコミットメントしながら、現場スタッフにも自然と落とし込めるようにするには、いかにサポートすればいいのか。議論しながら実行していきます。

これからの獣医療の「あるべき姿」がA’ALDAから見えてくる

これからの5年間で、私がA'ALDAの総院長として実現したいこと、そして個人的にも日本の獣医療の発展のために願っていることについて、お話ししたいと思います。

私が何より大切にしているのは、繰り返しになりますが、現場で働く一人ひとりが健全に、楽しく夢を持って仕事ができているかどうかです。個人の力が連携によって掛け合わされ、病院全体の力となる。それが飼い主さんと動物たちを救うことにつながるのです。この理想形を、一つひとつの現場で実現していきたい。そう考えています。

獣医療の仕事は情緒的な側面が非常に大きいからこそ、スタッフが感情に集中できる環境を整えることが何より重要。そのためには、心身ともに健康であることが何よりも大切です。そのサポート体制を築くことが、私たちに与えられた大きな責務でしょう。

獣医療を志す人の多くは、本当に素晴らしい資質を持っています。その力をどう結集し、社会に還元できるのか。常に意識しながら、経営戦略とのバランスも取っていかなくてはなりません。そして、デジタル化やグループ化といった、日本の獣医療業界でもなし得なかった挑戦を続けていく。その意欲を、私は持ち続けています。

世界と比べても、日本の獣医療の技術力は決して引けを取りません。特に現場の臨床レベルの高さは、私自身も実感しているところです。課題があるとすれば、むしろ情報発信力の部分でしょうか。

これから日本の獣医療界がすべきことを、個人的な見解からお伝えすると、卒後教育の充実だと思っています。ジェネラリストとスペシャリストの役割分担など、今のスタンダードがどんどん曖昧になりつつある。そこにどう向き合うべきか。私たちなりの答えを探していかなくてはなりません。 

A'ALDAが目指す「グループ化」の取り組みは、ひょっとしたら新しいスタンダードを生み出すチャンスなのかもしれません。50や100の病院が手を携え、知見を共有し合う。その意味を問い続けることで、これからの獣医療のあるべき姿が見えてくる。

私たちの挑戦が、「最初の一歩」となることを願っています。そこから生まれる成功体験が、後に続く仲間を勇気づけてくれるはずです。獣医療を通して、動物や人との関わり方そのものを問い直していく。それこそが、私たちA'ALDAに課せられた使命なのです。自らの手で、新しい道を切り拓いていく。その志を、私は忘れずにいたいですね。

A'ALDAのカルチャーがわかるスライドはこちら
全方位で、新たな仲間との出会いを心待ちにしています!

(文・構成/長谷川賢人)


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