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大人にはなりたくないと思ってた

「そうすけ、今から俺車出すから温泉行かね?○○も一緒」

正月ボケが抜け切らずダラダラと部屋で携帯を見ていた23:00頃、友だちからメールがきた。大学生にはなったものの、当時まだ実家に住んでいて品行方正な日々を送っていた自分にとって、この時間からどこかへ出掛けるというのはなかなかハードルの高いことだった。しかし、友だちから誘われたという嬉しさが勝った。

「いいね、準備するわ。どこいたらいい?」「家○○の辺りだよな?迎え行くから家で待っといて」「おけ」

なんだかワクワクしていた。飲むわけじゃ無いし、そんなに遅くならないだろうと思って、親にも特に何も言わずに家を出た。免許を取ったばかりの若者にとって、車でどこかへ行くというのは一大イベントだったのだ。

「よっ、久しぶり。そんじゃ行くか〜」
「久しぶりだなそうすけ。なんか曲かけてくんね?iPodとかあるっしょ?」

高校で別れたものの、小中学校と同じ時を過ごした友だち。昔と今の姿がオーバーラップする。自分たちで運転してどこかへ行くなんて、ずいぶん大きくなったものだなぁと、他人事のように思う。

シャッフル再生にしてiPodを繋ぐ。懐かしい曲、流行りの曲、思い出の曲。同じように育ってきたから、何をかけても盛り上がる。同年代ならジェネレーションギャップを気にせず曲がかけられて良い、などと、その頃はもちろん考えもしなかった。見えているものが世界の全てだったし、それが若さと言えばそうなのだろう。

そろそろ温泉に着くかな、という時。

「お、日付変わったじゃん。そうすけ、誕生日おめでと」
「あぁそうかお前誕生日か!おめでと〜。あれだな、酒が飲めるぞ合法的に」
「俺運転してるから今日はやめてくれよ。あ、今流れてるのYUIか。YUIかわいいよな、俺も“恋しちゃったんだ”とか言われてぇ」
「ははは、これは違う曲だろ」

そうか、誕生日か。なんだか浮き足立ったまま車に揺られていたせいで、すっかり忘れていた。

20歳になった。そして、その時流れていたのはYUIの”Thank you My teens”。ピッタリ過ぎだろと内心苦笑しつつ、それでもなんだかジーンときてしまった。そして、きっとこの先ずっと忘れられない誕生日になるだろうなと、ぼんやり思った。

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ということで、最近また一つ歳を取った。32歳。あの時から干支が一周したのか…なんだか不思議な気分だが、思い返してみたらそれくらいの思い出は積み重なっている。
相変わらず地元の友だちとはちょくちょく会うし、お互いの状況が変わっていても関係性はあまり変わらない。バカ話をしながら呑んだくれる。いくつになっても、そういうことが楽しく幸せなんだろう。それが嬉しく、また愛おしい。

どこにいても、みんな元気に過ごしていてくれたらそれで良い。

大変なことがたくさん起こる昨今の世の中を見ていると、本気でそう思う。楽しく過ごしていてくれたら、生きていてくれたら。

でも、きっとそう言ったら「お前は昔からほんとジジくさいことばっか言ってんな」と、友だちには笑われるのだろう。そんなことを、想像しつつ。

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