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なぜ化学メーカーのDXが遅れているのか

世界的なデジタライゼーションの波が押し寄せる中で、IT化が遅れている日本でも徐々にデジタルトランスフォーメーションが浸透してきています。
しかし、まだまだIT導入が進んでいない企業や業界も少なくありません。化学メーカーをはじめとする化学業界でも例外ではなく、中小企業を筆頭にデジタル化に遅れている企業が数多くあります。

そこで、本記事ではこうしたデジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れている化学メーカーについて、業界独自の理由を中心に私なりに考察してみました。

1.ITと化学の親和性が悪い

まず第一に、化学とITの世界が対極に位置していることが原因の一つではないかと考えました。
IT技術はプログラミング言語やOS、プラットフォームなどの「決められたルール」があり、その中で製品やサービスを生み出します。それに対して、化学の世界ではそのような全体をまとめるルールが明確でなく、むしろそれを手探りで調べながらモノを開発していきます。例えば、材料Aと材料Bを混ぜ合わせたら場合の特性値Cは、実際に作ってみないと分からない場合が多いです。(以前取り上げたマテリアルズ・インフォマティクスを活用してあらかじめ予測する試みも増えていますが、まだ適用できない技術検討の方が圧倒的に多いです)
このように「泥臭くコツコツ実際に手を動かす」ことを要求される化学や材料の世界はスマートなITの世界とは正反対に位置しており、業務の中にIT技術を導入することが難しいケースが多いのではないかと考えました。

2.拠点が地方である場合が多い

多くの化学メーカーは都市部ではなく地方や郊外に拠点を構えています。その理由として、大スケールのプラントを立てようとすると広大な土地が必要になること、様々な化学物質を用いるため排水や排ガスを処理する設備を作らなければならない、といった点が挙げられます。つまり、他社オフィスが近所(あるいは同じ建物内)にある他業種とは違い、周りに他の企業がない環境で(隣であっても距離的に遠い)閉鎖的になりがちです。こうして他企業の状況をつかみにくい状況かにあるため、地方に拠点を置く化学材料メーカーの多くは他社のDX動向を掴みにくいと考えられます。
また、DXを進めるパートナーとなり得るITベンダーやサービスプロバイダなどの多くは都市部を拠点としており、化学メーカーからの依頼が受けづらい、あるいはITベンダーから営業をかけづらいことも原因の一つかもしれません。

3.保守的な企業が多い

上記の1、2で挙げた理由によるものなのかは不明ですが、他業種に比べて保守的な会社が多いように思えます。未だに紙ベースの業務プロセスであったり、打ち合わせには紙の手帳を持参して対面でやるなど、昔からの習慣から抜け出せない会社をよく耳にします。「薬品がつくからデジタルデバイスはなるべく実験室で使いたくない」「リモート会議だと試作品の実物を見ながら議論ができない」など化学業界ならではの反論もあります。しかしそんな中でも、できない理由を並べるのではなく「どうすればDXを進められるのか」という前向きな議論検討が必要なのではないかと感じております。

4.新興企業が参入しづらい

化学・材料メーカーの運営には多大な設備が必須です。そのため、一から化学事業を始めようとすると膨大な初期投資がかかるため、ベンチャー企業がなかなか参入しづらい業界です。(さらに言うと、新興企業が他のメーカーと差別化するのがが難しい業界でもあります)
そのため、IT業界など起業が盛んに行われる業種と異なり、企業の新陳代謝があまり活発でないため、デジタル技術を積極的に取り入れる新興企業が台頭せずに昔からの業務プロセスを維持したままの企業が数多く定着してしまっています。


以上が科学業界のDXに関する私なりの考察です。かなり偏った書き方になってしまいましたが、DXにコツコツ取り組んでいる化学メーカーも大企業を筆頭にちゃんと存在します。例えば三菱ケミカルはDX推進部門を立ち上げるなどして、全社的な課題として取り組んでいるようです。

また、私の願いは「事業の発展につながるデジタル技術を積極的に取り入れて、化学技術の発展と従業員の働きやすい環境づくりに取り組む企業が少しでも多くなる」ことです。化学技術の発展とそれに携わる人々の幸せを極限まで向上できたら、私にとってこの上ない喜びです。この願いを叶えるべく、これからも私自身がやれることに果敢に挑戦していきたいと思っています。

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