歴史サイクル:マグ・レーナの戦い4

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 それからコン王は立ち上がって、美しい肌身に防具を着た。すなわちそれは三つの美しい見事な色映えの金の円形ブローチがつけられた濃い灰色の流麗な長いチュニックである。それから赤金で縁どられ、帯とボタンを結びつけられた、房付きの豪奢な約束の国の素晴らしい布によって作られた見事で丁度良い上着を着た。そのため頭の天辺から脚のふくらはぎまで、鋭い槍の切っ先で突かれうるあらゆる場所が覆われた。この外側には鎖頭巾を具えた重く硬い鎖帷子を着た。そして脚にはフィンルーンの精巧な糸で作られた軽くて丈夫な脛当てを着用した。それを着て歩くさまには威厳があり、斬撃に対する抵抗にもなっていた。そして相手を傷つけるのに適した手袋を両手につけた。それは、雪のように白く、戦場で勝利を得るのにふさわしく、昼夜を問わず狙いを違えぬものだった。さらにゆったりとした明るい色の高貴なる分厚い首飾りをつけて、上王の王冠を頭に載せた。その王冠には、東方の希少な五十もの希少な宝石があり、美しく輝く銀と見事な色映えの金とそのほかの貴石が技巧を凝らして取り付けられていた。そして彼は豪華な柄と鋭い切っ先の青い剣を手に取りやすいところに身に着け、強く硬く素晴らしい突起つきの勝利をもたらす楯を背負った。そして分厚く大きな穂先で根元に金の輪をはめた二振りの戦闘用の槍を手に持った。
 その後にコン王は皆の者に訊ねた。
「皆の者、甲冑を身に着けたか。勇士諸君、戦いに応じるか」
彼らは答えた。
「はっ、上王陛下。御身がいずこで戦いに興じられようとも、我らが安全に先導を務めましょう。また、我ら、隘路にある堅忍不抜の要害となって何者であれ通しませぬ。この度、我らの陣中であなたが死ぬことは、王の中の王が死ぬことに同じです。それゆえあなたの周りにいる我ら三千の勇士が死なぬ間には、あなたが死に場所を見つけることはありません」
 その後、コン王は吉兆に恵まれ、軍規を保ち、勇ましく、敵に勝利し駆逐する破竹の勢いで進軍した。その進軍は喜ばしい春の潮流のごとく遮る者はなかった。彼らは燎原の火のごとく進み、マグ・レーナの鹿の尾根Drom Damhの頂上に着くまで猛烈な勢いで進軍した。そこは今ではドラム・スタガドと呼ばれている。そこでコン王の軍勢は槍に体重を預けて柄をしならせながら、その間に軍議を開いた。
「フィン・マックールはどこだ」
コン王は言った。
「はっ、ここに」
高貴な英雄が応えた。そこでコン王は言った。
「そなたは武装した二千の兵を率いてタラと近郊の町を守りに行け。私が生きて戻れば、守った代価をそれらの収益から与えよう。私が生きて戻らなければ、アイルランド人の服従の誓約の保証となる人質はタラにいる。我らよりも生き永らえた若い王たちが君主としてアイルランドを統治し安堵するまでの間、そなたは栄華の時を過ごすとよかろう」
その後に気高き英雄にして有能なリーダーであるゴル・マクモーナが発言した。
「夜襲を敢行して、あなたの配下の勇士たちには戦勝の快哉をもたらし、貴族たちに向けて最後の審判を告げるおつもりでしょうか」
コン王は言った。
「今回はそうしようと思っているところだ。オーエンに対峙するには軍勢が少ないゆえ」
ゴルは言った。
「私は初めて勇者の武器を手にした日から、夜討ちをしないと誓いました。それに私は目が利きませんから、日中でなくてはなりません」
続けて彼は言った。
「ですが、あなたを攻撃する最大の脅威から戦士たちを守りましょう」
コン王は言った。
「ではオーエン・ティーレハを任せよう」
続けてコン王は言った。
「お前たちのうち、誰がシギルの七人の息子たちにあたるのだ」
「我らが奴らと戦います」
コナルの三人の息子のクルアハンのコルク、コンラ、ケドギンたちが言った。
続けてコン王は言った。
「お前たちのうち、誰がスペイン王エベルの息子のフロイヒ・ミレーサハと選り抜きの二千人もの強者にあたるのだ」
「私が彼と戦いましょう」
フォトレンピクト人の王子である隻眼のオヒーが言った。
続けてコン王は言った。
「お前たちのうち、誰が射撃の得意なドガーの七人の息子たちとその配下にあたるのだ」
「我らが奴らと戦います。主君に対する不平等と憂鬱と屈辱を許さぬことを誓ったゆえに」
輝かしきフェリミ・レフタウァルの息子であるオヒー・フィンとフィアハ・スイーと彼らの子息たちが言った。
続けてコン王は言った。
「お前たちのうち、誰がオーエンに随伴するアジアの冷酷な二千人の兵にあたるのだ」
「我らが奴らと戦います。我らの兄弟がオーエンと戦うのに、我らがオーエンの親衛隊を追い払わないことはありません」
三千人の性急で誇り高いモーナの一族たちが言った。
続けてコン王は言った。
「お前たちのうち、誰がオーエンに随伴し、戦士や果敢な一撃を主君に届かせぬことを請け負ったロッホランスカンジナビア?の精強な四百の戦士にあたるのだ」
「我らが奴らと戦います」
フェリミ・レフタウァルの三人の勇敢な貴公子のブレサル、ソラド、ムグ・コルブたちが言った。
続けてコン王は言った。
「お前たちのうち、誰がオーエンの高貴なる養父であるヌアザ・ジャルグ・マクダーリネにあたるのだ」
「私が彼と戦いましょう」
アルスターの王である赤い手のイヴハズが言った。
続けてコン王は言った。
「お前たちのうち、誰がオーエンの祖父、つまり彼の母の愛情深い父であるフラン・マクフィアフラにあたるのだ」
「私が彼と戦いましょう」
アイルランド上王の親衛隊長であるアサル・モールが言った。
続けてコン王は言った。
「お前たち、私とコナルの役割はなんだ」
彼らは言った。
「もう済んでおります。王が任務を押し付けられることは、威厳を欠きます。高貴なる王は配下の偉大な武勲にただ喜べばよいのです。」
このようにして、翌朝の来たるべき戦いに備えて全ての戦士は自らの任務を選んだ。
 コンの話はこれまでにして、オーエンの話を始めよう。オーエンは壮麗な指揮所に行き、そこに配下の最高幹部もやって来て、彼らにこのように言った。
「さて、お前たちは知らないのか。スペインのミレーの二人の息子、すなわちエベルとエーレウォーンが強引に奪い取って移住してからというもの、お前たちの先祖がアイルランドの王位に就く時代は許されてこなかったことを。そしてそれが猛々しい来寇によって、そして野心のため上位の君主によって奪われてきたということを。それに加えて、我々の領有する南半分の三分の二コナラとマクニアの勢力は我々を深く憎悪して敵対している。その証拠に、マクニアが悪意ある指導を行い、コナラがずる賢い奸言をするよりも正規の三個大隊で敵対してくれたほうが我らにとっては良かったのだ。今や彼らは我らに直接敵対して、コンに人質を差し出して服従している。このようなわけで私はスペイン人や他の外国人たちをアイルランドに連れてきた。それは、マクニアがサイヴの微笑みのために我らを見捨て、コナラが気立ての良いサラとの愉快な会話のために我らとの同盟を破棄したようには、彼らが我々を見放さないからである。結果として、南部勢力が私の命や遺産と引き換えにコンの二人の姉妹を手に入れた時に、私はマンスターの人々がコンに世襲の農奴として格下げされて奴隷として貢納し隷属させられることを恐れ、南部のためにアイルランドをかけて戦うべく外国人の大軍を引き連れて来ることを余儀なくされたのだ。私はこの遠征によって彼らが抑圧され奴隷のような貢納を支払わなくてよいようにするつもり所存だ。多くの軍勢が闊歩して戦士たちが戦火を広げることで、私の後の代の子孫には負債が受け継がれず、隷属の貢納をするようなことにならないし、この度の遠征で華を飾れるのならば圧倒的な力を手にできるだろう」
「仰せの通りです、上王陛下」
彼らは応えた。オーエンは言った。
「国のためそなたらの戦働きに期待しているぞ」
「やってみせましょう。我ら皆が草生す骸になり果てるか、我らが上王に国の統治権が代々続くかの二つに一つです」
彼らは言った。その後、オーエンは館に戻ろうとした。そしてそれほど遠くに行ってしまわないうちに、生意気で厚かましい三人の魔女が彼のほうに向かってくるのを見た。彼女らは忌まわしく下卑た声のくしゃくしゃの髪の三匹の妖精、青い髭を生やした恐ろしい三匹のドロフターナゴブリン、長いひげを生やした陰鬱な灰色の恐ろしい顔立ちの三人のゲニド谷の女たちである。そして、三人の青みがかった灰色の頭髪は広く乱れており、左右がつながった眉毛が土気色の頬の上に突き出して、深く窪み頬を濡らしている憎悪に満ちた目に垂れていた。三人は洞窟のような穴の醜く嫌な鼻をしており、重くゆっくりと跳ねるように動く黒く長いおしゃべりな舌を持っていた。そしておぞましい叫び、恐ろしい金切声をあげ、その舌には毒蛇がいた。三人の魔女は、手先が小さく肩口は醜い手癖の悪い六本の腕と、細長く骨ばって曲がった六本の脚を持っていた。貴族たちはその妖怪に震え上がり、オーエンはそのような姿の彼女らをを恐れた。そして大勢の群衆の注目が彼らに集まった。
「この女どもはどこから来たんだ」
貴族たちは言った。
「自分の力で遥々とやってきたのじゃ」
彼女らは言った。
「どのような力なのだ」
オーエンが訊ねた。
「上王さま、お話して進ぜよう。わしらの力は高きところに海を、大地に雪を、広大な平原に一面の雷霆を、人々の姿に変化を、高貴なる家族に妖精の歪みをもたらすものなのじゃ。」
「そのようなわざは良き女性の技能でも、輝かんばかりの気品でも、高貴なふるまいでもない」
オーエン王はこのように言った。
「そなたらの名を名乗れ」
彼女らは答えた。
「わしらはトレガの強大な地のトルアガンの三人娘であるアト、レン、ランじゃ。わしらはこれからの戦いで起こるそなたの死とわずかばかりの余命を伝えに参った」
「お前の知る未来はお前たちとコンについてのことだ。お前たちの悪意は岩と、海の波の中にある。(いわば、死とは自然の摂理でしかないということか?)」
オーエンはこのように言った。彼女らは答えた。
「まことに、わしらはこれまでも、そしてこれからも避けては通れぬ。わしらがそなたに予言するのは報酬のためではなく、そなたの栄光の終わりを教えるために来たのじゃ。全ての一撃がそなたを死に至らしめ、全ての射撃は効果を発揮し、全ての傷は致命傷となり、そなたの首級はコンの軍勢のものとなる」
そして彼女らはこの時に以下の詩を言った。

そなたに伝える知らせに耳を傾けろ
止まる理由はない、そなたの攻撃は頻繁だった。
わしはそなたが耐えきれないような知らせを持ってきた。
無惨な死、勇者は打倒されるだろう。
乱れ髪に血が流れ、
家を炎上させるは寛大なコンの戦。
その手には血濡れた槍、
そして鴉は平原を飛び回ることになる。
血走った目はぎらりと輝き、
誰も彼の乞う慈悲を許さない、
恐ろしい平野、そこは破滅が彷徨う、
悲惨なのは知らせに思い止まらない者だ。

 それから三人のみすぼらしくて足が速くて毒舌な魔女たちはエベルの息子フロイヒ・ミレーサハがいるところに行った。そして彼女たちは憎々しく謎めいた言葉をかけた。

予言を聴け、
戦いの予知を、
諸侯の墓の上に
庭が作られる。
略奪の君主はより堂々として、
傲慢で怒りっぽくなるだろう。
勝利すべきコンはより尊大で、
声望高らかで、偽りはないだろう。
戦いの終わりに、
彼の名声は輝かしくなる。
この広いマグ・レーナにいることを
彼はその朝に喜ぶだろう。
その時にそなたの軍勢を
見ている恐ろしい女、
そなたに向けて叫ぶ恐ろしい金切声、
恐怖が彼女の叫ぶ力となるだろう。
私の知識は最も豊富で、
私の技芸は最も多才、
その朝は恐ろしい。
臨んで聴くがよい。
フロイヒは接近戦で殺される、
貴族たちによって、そして復讐されぬ、
隻眼のオヒーの武器と、
コンの剣によって。聞け!
ゆえに、ゆえにとフロイヒは言う、
そなたの言うことは予知ではない、
そなたの前に最愛の人がいて、
後ろには敵がいますように。

 その後に、三人の幻惑的で素早く毒舌な魔女たちは密集して臨戦態勢の勇敢なるコンの軍勢のいるところに行った。軍勢は皆、楯を持ち、武器を手に取り、剣を手に届くところに帯びていた。そしてこれらの嫌らしく姦しい女たちが百戦のコンのいるところに着くと、煽り立て出発するように説得し始めて言った。
「上王陛下、あなたの掌中には幸運が、足取りには繁栄が宿っております。そして恐れは顔に、試練は戦いの中に宿っております。なぜならアイルランドの王権はあなたの頭上に、素晴らしい土地がはためいているのと同じように浮かんでいるからです。今回、双方の衝突によりアイルランドには、コンに由来するレス・コンコンの半分、ムグ・ヌアザに由来するレス・モガムグの半分という二つの名称が名付けられました。」
 そしてレンは以下の詩を述べた。

朝が来た、良き知らせです、
ランとレンが言うように。
それは幸せな知らせを伝える、
オーエンの死が定まったのだと。
こちらはコンの半分、私が聞いたように、
ルーリーの波の北へ、
あちらは、幸運な戦利品、
ムグの半分です。
まさに彼らが攻撃を受ける時、
痛打のマクモーナよ。
眩い光で美しい朝、
あなたにとって良い時が来たのです。

 さあ、それゆえにコン王は朝の瑞雲を見るや否や、エベルの息子のフロイヒ・ミレーサハと二千人のスペイン人たちが(本隊から)離れてぐっすりと寝息を立てている野営地に一挙に進み、コン王の大軍勢は四方八方から鬨の声を挙げ、彼らを恐ろしげに虐殺し始めた。それからフロイヒは虐殺を行う軍勢や干戈の立てる物音に目を覚ました。彼は怒り狂って館を飛び出したのだが、寝所にあったものしか武器を持っていなかった。しかし彼はこれを使ってコン王の配下の勇者たちを殺戮し、そのスペインの王子の突撃によって五十名の戦士が命を落とした。そしてついにコン王と隻眼のオヒーが共に彼に対決した。その時、彼らはフロイヒに対してあらん限りの憤怒をぶつけ、必勝を期し、武勇の限りを尽くし、敵意をむき出しにした。そして彼らは剛腕を振るって二本の槍を投げて、勇士フロイヒの身体に打ち込んだ。フロイヒは彼ら二人に有効な傷を負わせており、鎧を役に立たなくなるほど切り裂いていたので、その傷は見るからに致命的になっていた。しかし彼らの戦いは対等ではなかった。なぜならスペインの王子は金糸で巧みに飾られたリネンのチュニックしか着ていなかったのだから。他方、二人の勇者たちは武装し、足裏から頭の天辺まで鎧に身を固めていた。その場でそのスペインの王子はコン王と隻眼のオヒーの手にかかって命を落としたのだ。彼らはフロイヒの首を胴体から切り離して、剣を勢いよく振るって十字斬りにして、身体を切り刻み四分割した。
 それからコン王の軍勢は勝鬨の声をあげると、オーエンと彼の従者たちが目を覚ました。そして彼らが装備を身に着け支度を整える間もなくコン王の軍勢は彼等を殺戮し始めた。その後に、高貴なる血を引いた誇り高い双方の集団は次第に怒りが高じ喜び勇んで激情に駆られて互いに攻撃し合った。双方は戦列の前に選り抜きの黄金の堅固な楯を連ねて長大な壁を作り、その縁から重い穂先を付けた槍の枝を伸ばした。その金色の楯は鈍く輝いており、きちんとしつらえられた金属の突起が正面に付けられていた。その分厚く鋭い刃先は良く磨かれていた。それはさながら脳天を貫く炎の柱である。悪を誉れに思い難敵と争えばこれらの林立している槍の列のいずれかに頭が突き刺さることになるのだ。上王たちが戦をけしかけようとする声、戦士たちの反抗する声、猛禽のけたたましい鳴き声、飛び回るハゲワシの苦々しい金切り声、戦いで最初にぶつかり合う音、勇者たちが手始めにあちらこちらへと投げる細い光(=槍)の雨があげる風切り音、それらは聞くだに恐ろしいものだった。そして彼らは白い縁の大きくて堅い楯を貫いて、無垢材の暗い茶色の毒々しい槍の柄の林を素早く互いの胸に突き立てた。滑らかで強く丈夫な柄のついた鋭い槍と鋭利で大きい刃の武器が互いの肩や胴体に振るわれた。そのため迅速な戦いの中で戦士たちは脚を止め、勇士たちは肉を強く打たれて腕を挫いた。男たちはこれらの傷に激昂した。勇士たちが勇ましく道を切り拓いた。輝く鎧は過熱した戦いでの気高い戦士の猛烈な熱により切り裂かれた。恐れを知らぬ勇士たちの胸は数えきれないほどの武器に貫かれてまるで窓のようになって赤く血が流れていた。輝く広大な楯に空いた穴から、柔らかく完全に裂けて開口のようになっていた。大きな傷が槍を赤く染めていた。活発な戦士団は大きく、深く、何度も治らないような傷をつけられて命を落としていった。偉大な英雄たちの素早い強打によって兜は壊れ、果敢な勇士たちの顔が槍や、様々な鋭い武器を打ち込まれぐちゃぐちゃになった。そしてその人々、戦士の一団から流れ出した血が洪水となって地面のくぼみやわだちの中で冷たく厚い塊に凝固していた。このために赤いくちばしの漆黒の鴉が勇士や高貴な戦士の亡骸、兵士たちの広い胸板に舞い降り、大きな叫び声をあげる青い口のバイヴカラスか神かが歓喜していた。それらは広大な戦場で息絶えて冷たくなった者たちの肉というたくさんの戦利品にありついて、陽気にはしゃいでいた。しかし、である。そこにあるのは止めようもない怒りと計り知れない虐殺、救いのない攻撃、高貴な者たちの復讐されることのない全滅だった。亡くなった人の体、胴や頭が無惨にも血の風呂の中に浸かっていた。
 オーエン・ティーレハの軍勢の前衛からシギルの七人の息子たちが堅固に前進してきたのはそれからのことだった。力強く恐ろしげに怒りながらコン王軍のど真ん中まで来た。彼らは広大な血路を切り拓き、ついに勇敢な征服者であるクルアハンのコナルの三人の息子たちに出会った。最初にケドギンに遭遇した。彼はシギルの息子たちに最善を尽くして、ついに彼らの一人一人から傷つけられたものの、その全員を負傷させたのだった。彼らは自分たちに立ち向かってくるこの世のただ一人の人間の力がこのような様子で強まっていることに戸惑った。シギルの息子たちはケドギンに一斉に七つの傷を負わせたのだが、ケドギンは彼の友がシギルの息子たちの友から損害賠償金éraicを取り立てるほどほど勇敢ではないし、他人が彼等を訴えるよりはその瞬間に自らで復讐してしまうほうが良いと考えた。そしてケドギンは彼等に七つの恐ろしい傷を負わせた。そのどれもが一年以内に死に至るものだった。それからコナルの他の息子、コルクとコンラがその戦場にやって来た。彼らは突き合いに対してあまりにも冷静であり無傷だったために、身体を温めるべく戦いに臨んだ。彼らの槍は煮えたぎる血の熱さによって燃えて、身体も槍も互いに損傷した。槍は役立たずに壊れたので、目に見えて千々に裂けて男たちの肉に塗れた。コナルの息子たちは勇気高らかに敵方と戦い、傷を与え、あの勇敢な者たちに男らしく勇敢に重く深刻な打撃を加えて、とうとう七人を斬首してボロボロの切断された胴体を残した。
 ムグ・ヌアザの軍勢の中央から勝ち誇るコン王の軍勢がいる場所にドガーの射撃する七人の息子たちが来たのはその後のことだった。彼らは恐ろしく道を切り拓き、しっかりと包囲をして、大勢の勇士たちの骨を断つ虐殺を行った。そしてちょうどその時にフェリミ・レフタウァルの男らしい七人の息子たち、すなわちフィアハ・アラディ、ビキス・カイフ隻眼、クリーネ、オヒー・フィン・フアス・アート、フィアハ・スイーたちがあらわれた。無慈悲にもドガーの息子たちの武器がその貴族たちに押し付けられた時、父祖の軍勢の一部を率いてきた彼らには、勇者の怒りを爆発させた瞬間に手出しを控えることは出来なかった。そしてこれらの戦いの中でドガーの射撃する七人の息子たちは負傷し、赤く染まり、殺された。フェリミの七人の息子たちは首級を携えて歓喜に沸き立ってコンとコナルがいる場所に行った。
 今やオーエン・ティーレハは部下の貴族が殺され、兵士たちが命を落とし、死に逝く部隊が青ざめていき、切り刻まれた勇者たちが持ち上げられ戦いから運び出されるのを目の当たりにした。その時に怒りの猛烈な波が勇ましい王者の裡に湧きあがり、損害や不利を把握する感覚が肉体から失われた。彼らに復讐するために怒り鋭く、破壊を撒き散らす雷霆の如く進んだ。初めに手ごわく、獰猛に叫び、不撓不屈であり、恐ろしげに怒り、果敢に攻め立て、破滅的な復讐をしたのだから。そして、密集した陣形と堅固な戦列と強固な楯、そして数を恃み、応戦せんとする怒りと驕った心によってオーエンに立ち向かう以外に、たまたまその時に怒れる彼の武器と勇気に遭遇した者は不運だったということは確かである。しかしオーエンが戦って通り過ぎた後には虐殺の痕、切り刻まれ切断された遺体と朽ちて息絶え横たわる者どもと刎ねられて青黒くなった首級が残された。彼によってわずかな時間で数多くの猛者たちが重傷を負わされ、勇者たちが命を落とした。唇は青ざめ、手の甲は切り刻まれ、脚は曲がって吊りさがって、腹は掻っ捌かれた。そして長たちは怖気づき、兵士たちはひれ伏した。しかし、ムグ・ヌアザによって戦闘部隊に大混乱がもたらされたのを、百戦のコンが目の当たりにすると、彼は約束通りに英雄ゴル・マクモーナに配下たちからオーエンを追い払うように命令した。そしてオーエンはコンを探し求めて戦場を九周していたので、コン自身はオーエンの怒りをゴルに引き受けさせるために戦いを避けた。コン王は警護を受けるべく、士気高く勇敢で誇り高いモーナ一族クラン・モーナの間に入った。それというのも、オーエンは、彼が手出しのできるところにコン王がいようものならば、アイルランドの全軍勢でもコン王を自分から遠ざけることは出来ず、追いかけて大勢の戦士を殺すと言葉にして誓っていたのだった。英雄ゴル・マクモーナはこれを聞きつけて、オーエンが勇敢な者を殺し、部隊を全滅させ、軍勢を減らしているところにやって来た。そして二人の切裂く獰猛な獅子は出会うやいなや、互いの大きな楯に武器を男らしく強く突き入れ、そのため堅き楯は大きな穴のあいたふるいのようになった。それらの楯は破片となって彼らの前に落ち、楯の残骸は戦ったり任務を果たしている者の防護できないほど不十分なものとなった。千人ものアジアの輝かしい諸王子の勇士たちはオーエンの近衛隊として随伴していたが、これを聞きつけて救援にやって来て、彼の周りの軍勢や兵士と戦士を破滅させた。彼らはコン王の戦士たちとモーナ一族の大勢を殺戮した。しかし彼ら自身の主だった者たちもまたそこで命を落とした。さて、ムグ・ヌアザの勇気は高まり、高貴なる獰猛な獅子と化した。猟犬も狼も彼に対して敢えて立ち向かおうとせず、ひれ伏した。そしてゴルに厳しい戦いを強いて、とうとう戦士の苦悶の呻き声をあげさせた。大いなるモーナ一族は、戦いで一切の助けを得られず、指揮下に彼を守るような大勢の戦士と勇士たちがいないという窮地の中でゴルが苦しみ悲嘆に暮れていることを耳にして、ゴルを救うために大胆にやって来て、一人一人がオーエンに傷を負わせた。オーエンはゴルと戦いながらも、彼ら一人一人に対して一太刀返した。しかし、オーエンの友軍であるアジアの勇士たちはその戦いで壊滅した。このため彼らの君主の前で死ぬことなく戦いから運び出された者はいなかったのである。そしてムグ・ヌアザの戦友である三人の偉大な王たち、すなわち、ブレガンの塔のライグネン、ドラーの息子のトレスヴィル、ニムロドの塔のオランと、コン王の戦友の三人の恐ろしい勇士、すなわち、ブレク、ソラド、ムグ・コルブが戦いに飛び込んだ。彼らは幅広の穂先の槍で傷つけあい、両側共に命を落として担架で運び出された。その後にオーエンの真の戦友であるマンスターの二人の王、すなわち、彼の祖父であるフラン・マクフィアフラと、彼の養父であるヌアザ・ジャルグ・マクダーリネが果敢に戦いを仕掛け、恐ろし気に激しく乱打し、十字に斬り裂き、手足を切り離した勇士たちの遺体の死に場所を彼らの主君の周りに築いた。そしてとうとう勇者の子、アイルランド王の近衛隊長アサル・モールと、赤い武器のアルスター王イヴハズの息子のロスと会敵した。彼らは互いに激しく打ち合い、わき腹、胸、顔、肋骨をその戦いで切り刻んだ。このため、ほぼ千人の勇者たちがこの戦いで命を落とした。両軍の部隊長や勇敢な兵たちがその場で命を落としたのだが、ムグ・ヌアザは彼の周りに大勢の敵がいて配下の部隊長や勇士たちが死に、外国人たちも壊滅していると思った。そして配下の者どもが窮地にいるのを見て、この勇ましい王者の胸の裡は誇りと高らかな勇気に満たされ、彼の頬は真っ赤に紅潮した。無数の創傷にもかかわらず、痛みを感じなかった。それというのも、彼は戦いに勝利していたならばと考えるよりも、この世のたった一人の傭兵や勇士の手にかかるかもしれないという考えが頭によぎったことを恥じたからだった。そしてこのように言った。
「これまでは一対一の戦いだったが、ここからは一人で大勢を相手にしなければならぬ。ここに誓うぞ、この日、俺が敵に怒りと敵意をぶつける腕前は世界が終わる時まで人々にとって驚異であると」
 それからオーエンは矜持を奮い立たせ、怒りを沸き立たたせ、その勇気は天を衝いた。そしてゴルを乱打し、鷹が小鳥にするが如く弧を描くように襲い、ついにゴルは苦悶し大きく呻いた。それからゴルの家族であるモーナ一族の黒膝のガラドの三十人の息子たちが彼を助けるために駆け付け、一人一人がオーエンに一つの傷を負わせた。しかし彼らの誰一人として、オーエンから報復の傷を受けることなく逃げおおせた者はいなかった。そして彼はゴルとの戦いを続けていた。その後にタラの屈強な軍勢がオーエンに対して敵意を燃やしながらやって来て一人一人がオーエンに一つの傷を負わせたが、彼は一つ以上の傷を一人一人に対して負わせた。そして彼は依然としてゴルとも戦っていた。そしてコン王の股肱の勇士たちがやって来て一人一人がオーエンに傷を負わせたが、オーエンは相応以上の傷を一人一人に仕返して、それでもなおゴルと戦っていた。それからゴルは戦士の雄たけびをあげた。アンガス・フェルトの息子のコノート王コナルはこれを聞いて救援にかけつけ、オーエンに傷を負わせた。しかしオーエンは二倍、そして三倍の傷を負わせ、ついに彼を瀕死に追い込んだ。彼はクルアハンで一年間治療を続けて、これらの負傷の毒がもとで亡くなった。そしてそれからオーエンによってゴルが危機に陥り、コナルが瀕死となり、フェリミ・レフタウァルの息子たちと彼自身の近衛軍が虐殺されるという窮地に立たされている部下たちを見た時、百戦のコンはオーエンに立ち向かった。二人の王の戦いは軽い衝突や茫洋とした影のようなものではなく、遥かなる古代の岩の柱がそそり立つが如く、互いに怒りを孕んだ心を立てるようなものだった。しかし海の砂と森林の木の葉と野原の芝が数えられない限りは彼の手にかかって命を落とした者の数は数えられることがなく、これまでにも数えられることはなかったのである。そして彼を屠るために全軍が周りに集まった。それから、コン王は手にした戦闘用の槍で猛烈な突きを繰り出し、オーエンの肩を貫いた。しかしコン王は槍を引き抜くことが出来なかったその瞬間に、オーエンの長大な槍が交差して彼を貫いて瀕死の重傷を負わせた。彼が気を失ったのは不思議ではない。なぜなら、寿命を縮めるような致命傷を五十か所は負っていたからである。このために彼は剣と槍によってボロボロになっていた。そして本当に恐ろしい煮えたぎる怒りにより、アイルランドの王たちは暗い衝動に囚われた。彼らはコン王が気を失ったのを見て、できる限りの大勢で取り囲んでオーエンに一斉に槍を突きだした。そして槍を掲げ、槍のえじきにしたのだった。その後、彼らは勝利の快哉を叫んだ。外国人たちは勝利の叫び声を聞くと、勇気は不安に変わり、屈強さと不屈の精神を捨て、正気を失い羽ばたき※、後退したいと望んだ。そして人々は弱り、どの部隊も減衰し、重苦しさが降りかかった。気が緩み、衆議は定まらず、葉の鋭い藪が隠れ家となり、全ての森林は逃亡者にとって安全だった。その悲惨な朝の行軍での彼らは気落ちして浮足立ち、恐れおののき、呻き、飢えた軍勢だった。
その後、ゴルは言った。
「その英雄を降ろしてやれ。卑怯者が死んだのではないのだぞ」
そしてオーエンが降ろされた時に、彼の傍らにマンスター軍の二人の指揮官、ライグネン・レサンブレザッハ広い攻撃とフィアハ・バケザが命を落とした。さて、ここに至って生き残った全てのマンスター軍と外国人たちは算を乱して敗走した。しかし彼らは追撃しなかった。なぜならコン王の軍勢のうちで生き残った者は皆深手を負って伏しており、行動することが出来る者は九人もいなかったからだ。それから、コン王が気を取り戻して、マグ・レーナで夜営した。そして彼らは大声でオーエン・ティーレハを褒めたたえ、皆一人一人が彼の戦友や縁者たちを運んで行った。学者たちはヌアザ陣営よりもコン王陣営の者のほうが大勢死んだと記録しているが、前者は敗北し、そこで君主が戦死したのだった。また、著作家は全軍によって殺された者よりもオーエンたった一人に殺された者のほうが多いと主張している。その夜、彼らには陽気な者もいれば、悲しむ者もいた。コン王はオーエンを自ら倒してアイルランドを征服したことを思い出した時に陽気になった。しかし創傷等の負傷からくる痛みや、戦友を失ったこと、あるいはその者の戦傷に皆が哀しんでいた。翌日、ムグ・ラヴァの息子のコナレが彼らのところにやって来てコン王に出迎えられた。コン王はルギドの息子のマクニアはどこにいるのか訊ねた。コナレは答えた。
「ボイン川のロスナリーです。彼はオーエン・モールやマンスターの貴族たちの殺人保証金エリックを受け取り、あなたの娘のサイヴを妻に迎えるまではあなたを信用しようとしないでしょう」
それからコナレは戦いのあらましにを聞いて、ドルイドのフェルドガーが彼に話をして、詩を作った。

麗しいコナレ、ようこそ。
私は断らぬ人間です。
私が聞いた通りにあなたにお伝えしましょう。
マグ・レーナの戦いの知らせを。
武功を誇る重厚な貴公子は、
マグ・レーナでコン王に殺されました。
非難で赤らんだモガの頬が晒され、
詩人たちや人々は悲しみました。
エヴェルの一人息子はそこで亡くなりました。
彼らが野望の遠征に来た時、
クルアハンの勇士たちから、
破滅を受け取りました。
オーエンは我々によって斃されました。
高貴で勇猛なフランも。
がっしりとした胴体の彼は、倒れた。
ブレガンの塔のライグネンも。
私は気分を害することなくあなたに言います。
そこで価値のある、賢い人間が死にました。
だから私たちはここにいて、幸福なのです。
あなたの到着を歓迎します。

コン王はそれからマンスターの支配権をコナレに与えた。コナレは言った。
「マクニアに支配権を与えてはなりません。彼はあなたに服従していませんので。私は王の後継者であることに満足しております」
コン王は言った。
「ありがたいことだ。そなたは私の後を継いでアイルランドとスコットランドアルバの支配権を得られるであろう」
そしてコン王の言ったことは全く正しかった。そして彼らはコナレの言った全ての条件を携えた詩人オヒーをマクニアがいるところに派遣した。つまり、ムグ・ヌアザの殺害保証金と、マンスターの支配権(の一部)と、彼の妻として百戦王コンの娘サイヴを与えた。そして彼はそこで詩を作った。

若者よ、コン王と和解しなさい。
支配権をかけて争うのは愚かなことです。
白髪の王に対して楯と楯、
剣と剣を突き合わせに来てはなりません。
流れるようなたてがみを具えた
暗い色の兜百個があなたに贈られます。
そして、勇敢なる右腕の持ち主よ、あなたに、
どのような富よりも価値があるサイヴを嫁がせます。
そして真実でありますが、平原の
百頭の乳牛が贈られます。
そして手綱をつけた百頭の馬があなたに贈られます。
勇士の勇ましさでご自身の腕前をお確かめください。
フィダド・モール(オーエンの別名)の殺害保証金があなたに支払われます。
青銅の縁の金色の盾、
百の大杯があなたに贈られます。
王と戦わないでください。
百人の奴隷があなたに贈られます、
厳しい力であなたの火をくべるために。
軍勢を屠るために手にする
百本の剣と槍があなたに贈られます。
コン王のご息女サイヴがあなたに贈られます。
彼女はあなたを完全に満足させる価値があります。
あなたはアイルランドの王に条件を突き付けないでください。
感覚を陶酔させるのです、若者よ。

 この時、マクニアはスリーヴ・キーンから海までのマンスターの南部を掌握していた。そしてマクニアは老詩人オヒーに贈り物をした。彼自らダーリねの最良の貴族たちを引き連れて、コン王がいるマグ・レーナに来て、和平を結び友好を重ねた。コン王はマンスターの二カ国をマクニアに与えると申し出たのだが、彼は断り、彼自身とコナレの間で正しく分割することを望んだ。そしてマンスターは彼らの間で分かたれたのだった。そして彼らはコン王に人質を差し出した。その後に彼らはタラに来て、コンの娘のサイヴがマクニアに嫁いだ。贈り物や財宝がマンスターの貴族に贈られ、彼らは故郷に帰った。そしてコン王は騒乱もなく、二十年間アイルランドを統治した。

 完


まじでてきとうなメモらしきもの

ロッホランスカンジナビア?
湖、入り江を意味するLochに由来する言葉であり、通常は北欧・スカンジナビア半島やその人々の植民地であり、特にノルウェーを指すことが多い。また、海と結びつけられて考えられた神話時代のフォモール族に対しても用いられることがある。
しかし、今回の場合はどうもフォモールでもなくノルウェー人でもないようだ。なぜなら、ブレサル/ブレク、ソラド、ムグ・コルブの三人が対峙すると誓ったロッホランであるが、実際に戦うことになったのは明らかに北欧の軍勢ではなく、アジアの軍勢である。「海からの襲撃者」程度の意味合いで理解すべきかもしれない。

ケドギン・マクコナル
コノート王コナルの息子。後にコノート王になった。Cedghin(first-born)という名前からおそらく長子?

正気を失い羽ばたき
いわゆるGeiltという存在になり果てることを示唆している。Geiltとは荒野の生物であり、鳥のように飛ぶ。彼らは戦で敗れる等して正気を失った者たちである。

ライグネン・レサンブレザッハ広い攻撃
UCCではフィアハと共にオーエンの傍らで死んだのはライゲル・ルアスブレザッハ素早い攻撃となっている。

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