歴史サイクル:マグ・レーナの戦い3

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 オーエンと共にやって来た外国人たちはというと、多大な我慢を強いられ、スペインに帰りたいと願っていた。そこでオーエンはコンとの休戦を破る理由を探していた。ムグ・ヌアザが彼の領有する南半分の大巡回に出かけ、最後にアース・クリアス・ダブリンに到着して、そこに船着き場を見に行った。(補足:ダブリンは南北分割の境界であるため北はコン領、南はオーエン領であったのだが)彼よりもコンの領分のほうに多くの船が来港していたのを見つけた。このためオーエンは嫉妬に駆られ、馬と武器と防具、そして海洋の利益を平等に分割しない限り、共同統治の取り決めに従わないと述べた。そしてコンにこの平等な分割を要求する使節を送った。コンは武器、衣服、防具については領土と同じように分割することはないと回答した。オーエンはこれを聞くと即座に停戦を放棄してマンスターに戻り、外国人たちに如何にしてコンから紛争の原因を受け取ったかを話した。そしてフロイヒと彼の戦士たちはこの演説を聴いて大いに喜んだ。それからムグ・ヌアザによりマンスターとレンスターの貴族たち及びスペインの王子フロイヒ・ミレーサハが保有する武装した二千名のスペイン人が召集された。そして現在ではブルーリーと呼ばれているドゥン・コヴサハで九つの戦闘大隊を一ヵ所に編成した。
 そして彼はコンの領分の境界を越えて、アイルランド全土を我が物にするべく戦うために進軍した。その夜マグ・ミンに到着してそこで夜営して、全ての天幕の前面をコンの領分に向けた。そしてその翌日にはトレン・マグのトルガンに行き、夜はそこに滞在した。それからブリー・ジャ・エウァル・イン・エリーに行った。それからブリー・ジャ・セン・マグ二つの古い平野の丘に行き、そこからコル・ナ・グラン大森林の樹木の西にあるドルム・トルスガーに行った。そこで彼らは眼前に広がる荒涼とした平原を見た。
「この平原の名前は何というのだ」
このようにオーエンが言うと、彼らが答えた。
「マグ・レーナです」
「コンとの分割の我が方の境界は、どちら側なのだ」
このようにオーエンは言った。
「今まさにここの、こちら側になります」
エオガンはこれに応えて言った。
「そうであるならば、奴らの領分を犯すため、北側に向かいここを通ってコンの領分で宿営しようではないか」
 そして頑強な冒険者オーエン・ティーレハは吉兆と共に意気揚々と軍勢を行進させ、高貴なるマグ・レーナの中央の広大な丘に熱心に勇ましく果敢に進んで行った。なぜなら確かなことに月と自然の摂理の算定から、七日は幸運の巡り合わせであり八日へと進む一歩として数えられているとわかっており、武運と武勇の助けとなる十五日の特定の時間にこそ彼が敵を上回る力を得ると決めたていたのだから。しかし今や確かなことは、一つである。この時に彼らの予知から知識が隠され、偽りの予兆が占い師に示された。運命は彼らの感覚を硬直させ、誇りが理解を拒ませた。そして猛々しく過分な野望が長たちを陶酔させ、熱狂が王たちを衝動的に行進させたのである。そのため、その行進は軍勢にとっては三倍の苦しみ、善人にとって九倍の痛み、勇者にとっての不運となり、うぬぼれと冷酷な静けさがしかるべき時に身に降りかかるであろう。
 そして背の高い戦士たちはマグ・レーナの高らかな丘の中央に整列され大きく広がった軍営や多くの通路に休憩所を設営した。彼らはなだらかな丘に王侯貴族の色とりどりの小天幕を建てて、選り抜きの森林で労働者たちの班に熱心に働くようにと、葦原になっている沼地で技術者たちに準備するようにと命じて、これらの班は選り抜きの柱や精緻な枝細工や集めた。そして大きく立派な樹木も豊富なイグサも。彼らは重たく積み上げられた木材や、柱と枝細工の材料と良質なイグサを一ヵ所に運び、そびえたつような倉庫と密集した立派な住居とちょうど良く分散した美しい建物、美しく輝く列を為す素晴らしい宮廷を造営した。そして王たちや大軍のために、通りや十字路や小道や行進できる道路を建設するように命じ、槍を並べ、武器を柱に掛けて、鎧を長い棚に置き、寝台にはそれぞれの勇士たちの携帯武器を置いた。その後に、囲い地と市場を作り、設営し商業をさせ、監督と準備をして、ごちそうを用意し、音楽を奏で、寝床を作るように命じた。
 彼らはその夜休息して、翌日、陽が昇って明るくなるまで眠った。それからマーティンの活動的な王たちとクリアフの勇猛な戦士たちとクリーナのけんかっ早い軍勢とスペインの貴公子たちが起床した。彼らは堅牢な主君の館に賢明な言葉を聞きに行き、慎重かつ控えめに彼に話しかけた。
「オーエン様、我々が思うにこれらは十分なほど長いものでした。トゥアサル・テフトウァルがタラの王権を握ったこと。アルスターの者たちがアイルランドの序列を決めたこと。フェリミ・レフタウァルがアイルランド島を支配したこと。カサル・モールが皆から名誉を得たこと。
そしてコンが概して諸国を支配すること、アンガス・フェルトの息子のコナルコノート王コナルのことがマンスターの人々に対して置いた家令に指図すること、シャノン川の軍勢がシュア川に対する攻撃を行い悩ませること、レンスターの人々がタラに旅をすること、ブレガの者たちがブルーム山地を嘲ること(つまりブルーム山地を越境してマンスターに攻撃をしていること)、マスティンにミースの家令が置かれていること、アイルランドの南部は北部に対して苛酷な奉仕をしていること。
それゆえ今後、我々は自らの都合と秩序によりアイルランドを見て、我々の仲間である外国人がアイルランドの国境を所有し、モーン川の流域を隷属させ、オーエンの秩序をエウィンに課す時であると考えました。我々にはついに部族を率いてタラに行く者、そして力づくでアルスターを対話の席に着かせ、コンの特権を、コナルの犯罪を、アルスターの思い上がりを止めさせられる勇士が現れたのですから。」


補足:オーエンの家臣たちの上記の発言におけるアルスターについて
アルスターといいつつも、念頭に置かれているのはコンの勢力である。これは後世の歴史的情勢を反映した発言だろう。アルスター地方に流れるモーン川の東西はコンの子孫を称した北イー・ネール王族の勢力圏だった。史跡『グリーナン・オヴ・エラー』はこの王族の居城である。


 オーエンは軍勢と貴族たちの戦意が高く、外国人たちが一触即発となっているのを見て、彼らに言った。
「我々はこの平原に高い土塁と塹壕を備えた砦を三つ築くべきだ。それゆえエベルの息子のフロイヒ・ミレーサハをフェリミ・レフタウァルの獰猛な部族の領土に襲撃させることで、タルスクに彼の武力が及び、クルアハンから貢納を受けさせ、タラまで国境を押し出し、タルティウを贈与し、コンの領分のあらゆる方面からの貢納を彼の裁量に任せよう。以後、その塁壁はあなた方貴族を大いに喜ばせ、他のアイルランドの大いなる一族たちをも喜ばせる理由になるだろう」
 そして彼らは三つの強固な砦を建て、三重の組み立てられたそびえたつような壁と三重の堅牢な石壁を造るように命じた。そして掘削し、線を引き、境界を引いて定め、区画して、清掃し、概形を作り、整形し、切削し、設計し、施工し、強固に三つの砦を建設した。これらの険阻な三つの死地は敵に対して軍事力を主張し、悪意ある部族から資産を守るものだった。そしてマグ・レーナの中心で勇敢な人々によってこのように建築される過程で彼らは家族らに基づく伝統的な労働を直面するのだった。
 さて、一方その頃、アルスターの主な王であるムレダハ・マルの息子のオヒー・ムンダーグはこの蜂起を聞きつけ、三つの刈られた藁束三つのとりでのたとえと、三つの悲しみの涙と、コン王とその軍列に押し寄せる三つの津波に歓喜した。それというのも彼は復讐者であり、彼の胸の裡のコンに対する炎が三つの悪意ある骨の腫瘍を皮膚に浮き出させるとをわかっていたのだ。なぜならコン王たちはオヒーからブレガの三つの象徴と、ミースの愛着あるものと、アイルランドの三つの特筆すべき集会、つまりウシュナの大集会を召集し、タルティウの祭祀を差配し、タラの祝宴を準備する権利を切り離したからである。彼はそこですぐに貴族の熱烈な全体集会を開くと、タラに向かって進軍し、焼き払い、荒らし、略奪し、討ち滅ぼした。彼らは中心地に向かってブレガとミースと略奪し焼き払い、タラの平原の城壁に迫った。それでタラから海まで、カラからグレンまで、リー川から堂々たるボイン川まで、その国土は一つの広大で暗く燃えさかる火煙の森のようになった。ついにブレガの国は略奪の中心地となって、包囲軍から来た徘徊する者たちによる強奪が横行した。属国が反乱を起こし、上王を追放するために部族間で手を組んで、戦士たちが騒々しく入り乱れて戦意が膨れ上がっているとコン王が聞いたのはそれからのことだった。しかし、今言える一つのことがある。それは、上王がこの危機を払いのけたり避けるということはさながら二つの災いの間でかじ取りを行うようなことに同じだった。つまり、頑強で勇猛果敢なオーエンと、彼らの王を取り巻く英雄的で高貴で不滅であるアルスター軍の間でかじ取りをするということは、二つの荒々しい波頭のうねり狂う猛烈な大波の間を朽ちて狭い小舟で航海に乗り出すことに他ならなかったのである。
 それからコン王は即座に立ち上がり、テヴァの国とコノートを出て強力な敵と略奪者に向かい、タラとその資産を守るために進んで行って、ブレガの土地のボイン川の畔にたどり着いた。そして彼はクリフ・ナ・ゲダハの境界上にある大きな砦に行った。(補足:おそらく現在のオファリー・ミーズ・キルデア三州の境界付近だろう)そこにタラの部族とフェリミ・レフタウァルの末裔たちが上王への報告のために来て、彼らの窮状を述べた。コン王はというと、いきり立つとともに、彼らを勇気づけた。そしてフェリミ・レフタウァルの末裔たちを情熱的に焚きつけて、その場でこの詩を作った。

トゥアサル・テフトウァルの血を引く
フェリミ・レフタウァルの子らよ
オーエンは紛れもなく勝利を得た、
アース・クリアスからコノートに対して。
私は永らくタラに座しているが、
快く思ってこなかった。
オーエンはアイルランドの半分を領有するということを
私が持ち掛けられたあの日以来。
我らが大軍を率いるまで、
ムグ・ネドの強力な息子に対して、
間近で戦うまで、
我々は決して平和でいられないのだ。
スペインに追放されていた時の
あの勇敢な王の船が少なかったと言えども、
奴は流浪によって非常に強力な軍を得たのだ、
フェリミの子らよ、お前たちに対して。

 しかし、である。コン王とその軍勢はアルスター軍を捉えるために進軍した。そして彼らは多くの戦利品を得た途上にいるアルスター軍を見つけた。彼らは赤枝の館の国境を越えて来たルアリー一族が戦利品を積み上げて進み、誇らしげに歓喜に沸いているのを見た。そしてコン王は聞いた。捕らえられた牛の嘶きを。乙女や弱者の甲高い悲鳴を。アルスター軍が牛と家畜を屠殺し、貴賤を問わぬあらゆる人々と高貴なる町とミースの国が恐怖と苦痛に苛まれ広大な一面の炎に包まれて積もり未だくすぶる灰燼の下にその全てを調理し肉を切り分けることに高揚している戦士たちの騒ぎ声を。コン王はこれらの惨劇を見ると、庇わんとして真っすぐに勢いよく踏みしめながらアルスター軍の無法の宿営地めがけて突進した。そしてアルスター王が飛び出してくるのをコン王が一目見た時には既に間近に近づいてきており、色とりどりの王の旗が翻っていた。コン王の強力な勝利の楯は彼の顔面を貫く勢いで掲げ、部隊の兵たちが身を屈めて力強く後に続いた。そして分厚いむき出しの槍の穂先が戦士たちの頭上に恐ろしげに林立し、槍先を支えるのは細く滑らかに密集した燃える森のようで、これらの男らしく誇り高く生い茂る森は抜き身の束になって投げられる態勢が整っていた。これらの武器の下で輝かしい兵たちは素早く急行して、寛大で勇敢な王は彼らを鼓舞し、両軍の間で武器を振るい、投げるのにちょうど良い距離までこのような隊列で接近した。それからアルスター王は浮かれつつも大慌ててに槍で武装した騒々しい軍勢に、死や短命を恐れない厳然たる最強の兵士たちの密集方陣を迎え撃つように命じた。そして鋭い武器を持った軍勢は互いに飛びかかった。彼らは打ちのめすべき王子たちや討ち取るべき貴族や跪かせるべき勇者を見定めた。そのため戦士と兵士たちは互いの戦働きにより間近に倒れ伏し壊滅的な状態になった。そしてその時に戦場において敗走と敗北を知らず、撤退において追撃を許さぬ強力な勇士たちである、コン王の五十人の里子兄弟たちはこれを目の当たりにした。彼らは困難極まる窮地にいる主君を見捨てたり、危険に晒しておかない善良な人々だった。彼らとは、百戦王コンの里親であるアンガス・フェルトの息子のクルアハンのコナルの息子たち、クルアハンのコルクとコンラとケドギン、そしてスコットランドのフォトレンピクト人のフォルトリウ王国の王子である一つ目のオヒーと白い膝のオヒー、黄色い髪のクリファンの二人の息子の白い手のフィアハ、彼等の母であるクリウァルの娘のガレフ、コン王が地上に生を受けた時からこの時までの同胞でありフェリミ・レフタウァルの息子にしてコン王の兄弟であるオヒー・フィンとフィアハ・スイーとその気高い従者たち、テファの頑強な王子たちであるマネとダルブレ、そしてフォインとタブリディ、アリルと、アイルランド上王の親衛隊長であり勇者の子であるアサル・モール、アルスターの王である赤い手のイヴハズの息子のロスである。彼らは上王コンの憤慨を見て広範囲に猛烈な突撃を行った。アルスター王オヒーは上王コンの突撃により自軍の貴族が負傷しているのを見て、自軍の貴族や戦士たちからコン王を退かせるため元気よく誇らしげに突進した。この二人の総大将たる王たちは双方とも逃げも隠れもせずに互いの身体に戦闘用の槍を突き刺して、褐色の柄は粉々に砕け散った。その大きな傷は赤い血が洪水のように流れ出し、堂々とした縁の厚い窓のようであった。そして二人が相討ちをしている時に、両軍からそれぞれ最良の二百名の戦士たちが戦場に現れた。彼らは斬り合い刺し合って、地面を凝固した血だまりで覆い、勇敢な者たちは刺し貫かれた。しかし勇者たちは刺突剣コルグや剣を相手に突き立てないうちには、主君の前で物言わぬ亡骸にするまでこれらの傷に満足しなかった。それからアイルランド上王はアルスター王を求めて戦場の中を進んで行った。そして手の中にあった幅広の大身槍で彼を突いたが、大楯の中央の防護金具ボスに中った。そのため、楯は突きによって原型を留めないほどに破壊され、幅広の槍の赤い軌跡が勇士を貫いていき、広範囲をズタズタにして手の施しようのない恐ろしい風穴を残した。槍は過たず彼の楯の穴を通り、致命傷となった傷口を通り、背中から抜けて行った。しかしコン王の後ろに控えていた十八人の護衛が偉大なる王にとどめを刺すために槍で突くまで、コン王はその大槍を引き抜くことが出来なかった。そのためまるで彼の亡骸を貫いた死のハシバミの枝で囲った柵のようになっていた。しかしアイルランド上王が彼に傷を負わせた後にむざむざ血を流させる必要はなかったのだ。それからすぐさま彼らはアルスター王の首を刎ねた。そして貴族や最良の戦士たちが斃れたので、奮闘空しく武運拙く誰も逃げることなく主君の周りで命を散らして言った。
 それからコン王は王都を訪問して進軍を終えた。彼は全ての牛を牧場に戻し、捕虜を帰路につかせ、女性たちを家族のもとに返した。そして彼自身は夜行してタラの宴の残りを平らげた。そしてそこにダナン神族の心強い友人たちが来た。彼らはすなわち、シー・ダヴィラのエイ、エダーのエイオスカーの舅、カランのクリファン、シー・ジェルグのジェルグ、クレンの狡猾なドルイド、カーン・フイブのクリーヴァハ、ブルーのアンガスマックオグのこと、アース・シギルのシャフナハ、誇り高きミーニーンと息子たち、グラン・アイルのガイス・ギーセ、ガイス・ギーセの娘のイーフェ。彼らは切傷を癒し、和らげる薬草や軟膏を持ってきた。そのためコン王と勇士たちは祝宴や祭りやハーリング競技の翌日に起き出したかのように勇壮で傷ひとつない体となった。その後に素晴らしい三人の妖精の恋人、トレガの勇敢な地の出身のトルガンの三人娘、アト、ラン、レンがコン王と話をするためにやって来た。彼女らはマグ・レーナに向かうように彼に促してこのような会話をした。

三つの砦の平原タラのコンよ
あなたが不運にさえ見舞われていなければ。
アイルランド人の土地の南半分を
奪われてしまったのは、公然の事実。
あなたによって快適なアイルランドは分割された。
港湾のレヴ・コンから、
心地よいゴールウェイ湾アース・クリアス・メズリーから、
肌寒いダブリンのホウス岬アース・クリアス・ダブリンにかけて。
偉大なるマンスターを出た者たち、
クル・マルリムリック内の地名の勇者たちは心に決めた。
大地をひっくり返すことを。
コンの正当なる半分の土地に対する非難を。
あなたの臣民の安寧を守るトゥアサルの子孫よ、
諸部族の慰撫をやめて出発しなさい。
広大なマグ・レーナに急ぎなさい、
私たちの友誼を永久に保ちたければ。
あなたはマルの息子を勇ましく殺した、
同じ戦場で彼の軍隊も。
あなたはイヴハズの高貴なる息子を王位につけた、
彼が怒りを収めた虐殺の後に。
強大なオーエンを逃さぬようになさってください。
この怒り狂う獅子を探し、
彼はあなたにマグ・レーナで出会い、
自らの墓を見つけるでしょう。

 それからコン王は行く手を遮るものもなく道を進み、大きく美しい平原を越えて、アース・ルアフラにその夜たどり着き、そこで休憩をとって夜営した。その時の彼は貴石であり、透明な宝石であり、木立であり、木に生ったブドウの房だった。彼の行進は春の大潮のようであり、彼の旅は国中の総出であり、彼の挙兵は勝利を約束されており、大地は彼の名声と偉大さに夢中になり、地と海は共に彼の遠征を喜んだ。かの君主はアイルランドの三大波濤に目に見えてはっきりと歓迎された。三大波濤とはすなわち、ささやいたりすすり泣いたりふざけていたりするような冷たく長大な緩やかな角度のインヴィルの大波、赤に反応する荒々しく猛烈にうねる高貴なるルアリーの大波、そして他の二つの潮流が騒々しく轟く波に応えて君主を心安らかに迎える、曲がりくねり積み重なった高い壁のような白い泡のクリーナの大波である。コン王が生まれた夜にアイルランドに以下のような大きな果樹が芽を出した。これらがビレ・トータンBile Tortanエオ・ロサEo Rosaクリーヴ・ムグナCraobh Mughnaクリーヴ・ダスィCraobh Daitheである。同じ夜に永久に美しい緑に縁どられた三つの湖がアイルランドに噴出した。すなわちコノートのリア湖、ルアハー山地のレン湖、アルスターの輝かしいエサハ湖ネイ湖である。同じ夜に溢れんばかりの三つの川がアイルランドに噴出した。すなわちシュア川、オール川ノア川、バロウ川である。それらは智慧の鮭、あらゆる知識を持つもの、歴史と真実に宝石の如く明白に通じる鋭く明哲な予言者フィンタンが歌っていた通りであった。

コンが生まれた夜、
彼は偉大なるアイルランドに歓迎された。
同じ夜に生まれたのは、
ビレ・トータン、エオ・ロサ。
コンが生まれた夜、
彼は偉大なるアイルランドに歓迎された。
同じ夜に出現したのは、
リア湖、レン湖、エサハ湖ネイ湖
コンが生まれた夜、
彼は偉大なるアイルランドに歓迎された。
同じ夜にあっという間に湧き出たのが
シュア川、オール川ノア川、バロウ川。

 タラで彼が夜に生まれた月曜日からドルム・トゥアレウェで好機により殺される火曜日までの間に、どうして戦士たちが彼に刃向かうということは、影と戦ったり、崖に向けて槍を投げたり、海を目測したり、全てについて考えたりようなすることに他ならないのか。それはこのようにして彼を大地が歓迎し、海は讃えたからである。古き詩人シェンハンが言った通りに。

月曜日の夜にその王は生まれた
ミースの英雄、フェリミの息子。
火曜日の日が昇る時、
ドルム・トゥアレウェで彼は死ぬ。

 そしてかの詩人が言ったように、コン王は五十三年間荒廃させることもなく大地と海の狭間のアイルランドの自らの分け前にあずかった。

百戦のコンは王だった、
五十三年もの間、
荒廃も大火もなく、
生きた人を殺すこともなかった。

 それからコン王は自らの正当性を検めるために安全な場所に行った。そこには彼の勇士や、指導者、将軍、貴族、多数の人々や戦士たちも来た。そしてアンガス・フェルトの息子のコナルもまたやって来たのだった。コン王は彼に対する反乱が引き起こした荒廃や戦争、悪徳や不正を詳らかにした。そしてコナルが応えて言った。
「上王よ、勇者となるためのあらゆることをなさってください。なぜならこの度の挙兵においてあなたは国の守りを固め、戦いに勝利し、勝利の幸運を配下の勇士たちにもたらすという王者の三つの資質を具えているからです」
コン王はこれに応えて言った。
「私は恐れている。逆襲を受けないはずのタラの軍勢が敵によって斃されてしまうことを。貴族や大勢からなる敵軍に抗しえず、コノートの気前の良い軍勢が切り刻まれることを。私がまだ幼かった頃に自らが死ぬとか、危険に陥るとか、敗北するとか、追放されることを経験してこなかった。そして私が行うべき権利とは、死ぬことか私の武勲と名声の両方が永らえることになるかのどちらかで名誉を追い求めることである。不名誉を背負い、逃亡してもいつかは死ぬというのならば、私は敵と立ち向かって死のう」
コナルは彼に応えて言った。
「上王さま、怖気づき、恐れなさるな。不利を恐れず、怒りに対して泰然自若とし、挑戦に備え、疑念には鋭敏であり、議論に注意を払い、口論には沈黙し、戦いや暴力に耐え続けなさい。そのような人が良い人になるのですから。そしてこの度タラの頑強な軍勢があなたを持てる力の全てで守ることは確かなことです。彼らはトゥアサル・テフトウァルの勇敢な支持者たちであり、フェリミ・レフタウァルの威風堂々たる丈夫であり、百戦のコンの頑丈な護り手の柱なのですから。加えてこの度は、コノートの気の良い防衛軍も全力であなたに味方しています。なぜならこの貴族たちは皆があなたの先輩であり、里親です。あなたよりも若い彼らの子供たちは全てあなたの里子です。そして同い年の勇者たちは全てあなたに従う仲間です。ですから、彼らは今回全力であなたを守らなければなりません。それというのも、もしもあなたが先祖より伝わる力で彼等貴族たちをを守らず、高貴な血筋によって権利を守らず、耐え忍び戦い抜くことで彼らを支えず、彼等を守ろうと友情を大事にし決断しなければ、不快なことに、生まれ故郷や正当な権利を有する住居や祖国から追い出し根絶やしにするという、エベル・フィンの子孫オーエンのことからの冷酷で猛々しい恫喝の言葉を聞くことになるのですから。このような理由から、この度あなたを全力で守るため、我々の父祖は我々を古来よりの指揮に委ね、一族郎党の護り手としました。なぜならあなたは高きものを低きに就かせず、低きものを高きに就かせぬ方ですし、強権的な王の宣告を行わず、悪行を正当化することもなさりません。そしてあなたが最初にアイルランドの王の巡回を行ったために、ムグ・ネドの息子のオーエンが我々の手から奪い取るまでは皆が生来の権利を保持していました。」
さらにコナルは言った。
「はっきりと言っておきますが、オーエンの手中にあるアイルランドとは子どもの手中の遊び道具ではありません。アイルランドがあなたの手の中にあるから、これまで先祖の手の中にあったように、カサル・モールの時代から変わらぬのです。我が軍が反撃する間もなく壊滅するか、幾人かの勇士たちの助けも届かずあなたが討ち取られ勝利を収めることによってそれが得られぬ限りは、この度我々が鬨の声を起こすことなく奪われることはできないでしょう。戦いから逃げないでください。なぜなら我々が踏みしめる大地は固く重厚で、我らの頭上の蒼穹の天蓋は時に寒く、雨を降らせ、煌々と太陽が輝くからです。堅く重厚な多様に美しい大地が我々を飲み込むか、全体に霧がかかり雲が重なり雨が降り輝く天の外套が我々の頭上に降ってくるまでは誰一人も一寸たりとて背後の地を譲らぬことを誓います。ですから、我々皆の死に様は敵に立ち向かいこの度全力であなたを助けるという風になります」
コン王は言った。
「よせ、コナル。そのような言葉は窮地に陥った者の戯言、道化師かあるいは愚か者の罪人の言い訳だ。親愛なる養父よ、私は我が方の人々が外国人の恐ろしい暴力により殺され、怒り狂った敵軍に虐殺されるのが恐ろしいのだ。王が孤独でいることは、その資質が失われるということなのだから。率いる軍が少なければ死の扉に通じ、従う者が少なければ弱さが表れているということだ。これらは私にとって切り離せぬ問題だ。このようなわけで、ムグ・ヌアザに譲歩した条件で使者を送りたい」
コナルと集会に集った全ての者たちは言った。
「どのような条件でしょうか」
「現在、彼は戦うことなく三か国を抑えている。そこで、いわば私の軍勢の領地を支える剣であるものの、四つ目の国、アルスターを私から譲ろうと思う。そして彼に対し、侵犯せず災いとならず圧迫せず不正を冒さぬことを太陽と月、朝露、空と海と大地に懸けて誓おう。コノートの国と私の生来の所領であるテファとタラの領土を分かち合うことにはしない」
コナルは言った。
「良い条件かと」
コン王はこれに応えて言った。
「(アルスターは)確かに素晴らしいが、彼に対抗するに十分な数の戦士や勇士を擁していないゆえに、与えることとする」
コナルは言った。
「この和平案を委ねる使者は誰にしますか」
コン王は言った。
「アキルとウーワルの王である黄色い髪のクリファンの二人の息子である、白い膝のオヒーと白い手のオヒーにする」
貴族たちは言った。
「もっと適任な詩人にすべきです」
コン王は言った。
「詩人は送らない。彼らがアイルランドの分割を受け入れたのは我々から提案だと外国とアイルランドの人々が吹聴しないように」
それから恭順と講和と尊重の意思を示す使者がオーエン・ティーレハのもとに到着し、勇壮なる王の堅固な館の内に案内された。そこで彼らは静かに注意深く耳を傾け、もう一人の上王に対して彼らが持ってきた提案という用件について落ち着きを払い、理路整然とゆっくりと話した。その王はすぐに朗々と誇り高く答えた。
「私がアイルランドの集会の中心地、すなわちタラの平原と土塁におらず、宿敵によってそれらが掌握されていることは、実際のところ馬を欠いた娯楽、杯のないエール、音楽のない繁栄、従う者のない主権、ただ働き、見返りのない貸しのようなものでしかない。そして私は自らの幸福のひとかけらを口にしないということはない。自らの尊厳の一部を放ってはおかない。そしてその不名誉を子孫に残すこともしない。これらの和平案を拒絶するのだから」
使者たちは言った。
「我らの友人たちや仲間であるコン王から、和平や条約を申し出ている時に攻撃したり、恭順の意を示している時に怒って見せるのは法に反していると聞いております」
オーエンは訊ねた。
「お前たちは何者だ、若造」
彼らは答えた。
「我々は黄色い髪のクリファンの息子の白い膝のオヒーと白い手のフィアハであり、クリウァルの娘ガレフが母です」
オーエンは言った。
「私の覇権に対しお前たちは誓約を立てるか」
彼らは言った。
「断じてそのようなことはありません、上王陛下。たとえ我ら二人がどのような者でも救助するためにコン王がアイルランドの覇権を放棄なさっては主権を否認することになります。善き息子は家族に恵まれ、必ずやアイルランドを保つでしょう。彼はそれを統治し守る最高の保証人です。講和を申し出ているけれど我々の知るコン王はアイルランドの農村の一つもあなたに譲らないでしょう。彼はしかし、あなたが和平案を踏みにじると期待しているのです」
オーエンはこの言葉に怒り、彼の部下たちに彼らを捕らえるように命じた。
「お前たち、この使者どもをひっ捕らえろ」
しかし貴族たちは言った。
「いいえ、彼らを処刑しようと捕らえるのは、我々の審議に基づいた結論ではありません」
「止めるな。民が公に奉仕し、槍を投げている日に彼らは私ではなく、彼らの朋友たちと仲間である百戦のコンに対して奉仕をしたのだ。彼らをきつく縛り上げ、向こうの見晴らしの良い丘に連れて行き、そこで処刑せよ」
 そしてこれが実行され、マグ・レーナの処刑の丘Riaghaと呼ばれるようになった。コン王が彼の仲間が絞首刑にされたとを聞いたのは昼でも夜のように暗い時間のことだった。あまりにも暗く、軍勢は進軍することができないほどだった。コン王は初子を失って嘆く愚かな少女のように泣き叫んだ。その善良な王は悲しみから苛立ち、懊悩し、憂鬱になって涙を流した。そこでコナルは言った。
「嘆くのはおやめください。勇敢ならば勝利するためにも。剣の権利によって正しい心で朋友の仇を討つのです」
コン王は言った。
「そうせねばならぬ。誓おう、もしもオーエンがあの二人を捕らえ、生かしておいて私とともにアイルランドを出ることを許していたなら、彼が生きている間は一夜たりとてアイルランドに戻ることはなかった。また、農村一つの四分の一を残し、アイルランド全土を私に譲ると彼が提案してきたとしても、戦いを挑み剣の権利により復讐するまでは受け入れることはないと。私にとって悲しいことは、彼らに送り込んだ使者たちのことだ」
そして彼はこの詩を作った。

なんということだ、才気あふれるオヒー、
そなたの脇腹の皮膚の上を血が滴る、
武運長からず、
黄色い髪のクリファンの息子よ。
麗しいクリファンの息子、
緑に囲まれたアイニャの出身、
真っ赤な血に塗れたそなたの亡骸は
作意なく私の心に火傷させた。
紅顔白皙、
顔立ちは華々しく、秘密を闇に葬り、
公正な戦いでそなたらの射撃は荒々く、
乙女との交際は穏やかだった。
天と堅き地と
月と風と太陽にかけて
私は一歩たりとて退かぬ、
敵を倒すまで。
征くぞ、クルアハンのコナルよ
残酷な赤い楯を掲げ、
マグ・レーナへ、栄光ある行い、
哀しみを与える行いをするまで。


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