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詩的散文

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私の書く文章に、主人公は必要ない
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2019年3月の記事一覧

血の抜かれた世界

だんだんと、思い出せなくなってゆく世界がある

それは、夢と現実に、あまり境界線のない世界

その世界は、砂や朽木で全てが構成されていた

夏にも関わらず気温は2度もないくらいだ

おおよそ、生命と感じられるものは存在していなく、

全ては可視化した意識そのものだった

そこでは、一切の関わり合いが無に等しく、また無意味であった

血の抜かれた世界とは、意識であった

なぜなら、この世界は私という

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反省、あるいは治療

季節の変わり目が僕の心を砕き解す

ようやく固まった決意や、板についてきた心情を

春風とともに、いとも簡単に洗い流してゆく。

目的を攫われてしまった僕はまるで

安心して硬い地面を歩きながら、雪解けに目を奪われていると

知らぬ間に泥濘に嵌ってしまった放浪者のようだ。

泥のような倦怠から逸早く抜け出すには

それが乾くのを待つしかないようだ

必死に藻搔いた所で勝ち目はないのだから。

しか

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一頻り落ち込んだ空の表情は、ちょっと浮腫んでいる

その心情には、泣く事で感情を表現しきった後に見られる、ある種の爽快感がある

油絵具をベタベタと塗ったような天蓋を、生乾きの風が慰めると、

雨のせいで、身体の境界を有耶無耶にされた僕の感覚帯は、命を秘めた木々に似て陰鬱に揺れる

自分がまだ水中にいる事を知らない人たちは、地上にいる不幸を嘆いているみたい

濡れた岩肌に張り付く苔

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一瞬

春の息吹が地上を覆う

冬が、温かい眼差しによって命を奪われた

夏への予感を、期待させる

秋の麗しい思い出を忘れる事に成功した

澄んだ碧色の大気圏と

純度百度の新鮮さで満たされた空気

真空の中で、小鳥の声は僕を無視して通過していく

人間から見たら季節の変わり目のこの瞬間も

私達以外から見ればいつも通りの日常

この刹那を感じる事によってのみ、生命の存在を許される