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新井敏記さんに会いにいった時の話。

今月号の雑誌『SWITCH』の特集が「ほぼ糸井重里」だということで、糸井重里さんが好きな私は、ひさしぶりにSWITCHを買った。たぶんこの雑誌を買ったのは、2・3年前のaiko特集の時以来、のような気がする。

SWITCH、と聞いて思い出すのは、編集長である新井敏記さんのことだ。

私は大学生の頃、スイッチ・パブリッシングから発行されている『coyote』という雑誌が大好きだった。というよりも、coyoteの「ある号」に書かれていた文章に、衝撃を受けた。

それが、こちら。coyote特別編集号『TOKYO LITERARY CITY』の中の、この文章だ。

特別な本に出会う瞬間がある。
夢中になって物語を読みふけった時間。
そこで起きた感動や喜びや発見は、
何ものにも変えがたく、いつだって今を豊かにしてくれた。

物語の力を信じて書き続ける作家、
作品の声を聞こうと耳を澄ませる翻訳者、
ただ良質な物語を人々に届けたいと願う編集者、
作品世界の最初の扉を開けるブックデザイナー……。
言葉と真摯に向き合う彼らの声に耳を傾ける。
日常の中には、まだ開かれていない世界がいくつもある。

本屋で働きはじめ、「本の持つ力」に少しずつ気付き始めていた私は、この文章を読んだ時、衝撃を受けた。なんていい文章なんだろう。こんな文章を書く人ってどんな人なんだろう。そして、この雑誌は、一体、なんなんだろうー……。

そこから私のcoyoteについて興味深々な毎日が始まった。今回の号は特別に「文芸」特集だけど、普段は主に「旅」をテーマとする雑誌だということ。coyoteの他にも、SWITCHという有名な雑誌を作っている会社だということ。発行している会社の名前はスイッチ・パブリッシングということ。編集長は新井敏記さんという人だということ。ちょうど『MONKEY』という新しい文芸誌を創刊する予定だということ。


そんな時、coyoteのイベントが京都で開かれることを知った。No.49『今こそ、パタゴニア。』特集だ。なんとモデレーターとして、新井さんが京都に来るという。

私はまったくパタゴニアには興味はなく、服を買ったことも、山に登ったこともなかったのだけど、新井さんにお会いしてみたいという一心で、イベントのチケットを買い、京都の今はなき新風館のパタゴニアへ向かった。

(画像:https://7hashimoto.com/blogspot/archives/182)

新井さんのモデレートは、スピーカーの言葉に耳を傾け、話がそれるとそっと静かに軌道修正をかけ、深く頷き、「聴く」姿勢を大切にされているものだった。

イベント終わりに、私は図々しいことに、新井さんの元に話しに行った。


「あの、まだ大学生なのですが、coyoteのファンで、ずっと新井さんとお話したいと思っていて。来週よければ東京へ行くので、少しだけでもお話できないでしょうか?」

そんなことを早口でまくしたてたと思う。今思うと、なんという勇気、なんという図々しさを持っていたんだろう……。でも、新井さんはとてもやさしく了承してくださり、メールアドレスを教えてくださった。

そして実際新井さんにお昼ご飯をご馳走していただいたのだが、緊張しすぎていて「編集者になりたい」という夢は語れず、新井さんの人生のお話やポール・オースターの話、「君には不思議な魅力があるから、哲学者になったらいいよ」というススメをされたことを覚えている。(哲学者…!?)

それからもMONKEYの最新号を送ってくださったりしたのだけれど、就活などで慌ただしくなり、こちらから連絡するのもおこがましく、イベントなどにも参加できなくなって、現在に至る。


けれど、会いたいと思う人には会えるんだ。この体験から、そんなことを学んだ。きっとそれは、年齢とか立場とか関係なく、思いの深さなんだな、ということも。

思いを持つこと。それを行動につなげること。忘れちゃいけない姿勢を、思い出したというお話でした。

ありがとうございます。ちょっと疲れた日にちょっといいビールを買おうと思います。