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視力回復手術を受ける1

世はまさに大近視時代。

アニメの中ではクラスの中で眼鏡をかけるキャラは多くて2、3ぐらいだが、誰も数インチしかないスマホ画面を、日に4、5時間かけて見つめるのが普通となった時代、近視になっていない方がむしろ珍しい。

私は小学校の低学年から眼鏡は顔の一部だった。テレビやゲームばかりやっていたからだ。度数が上がるにつれて最終的に失明してしまうことを恐れる両親は私に人参を生で食べさせたり、ゲーム機を没収したり、テレビを近視したり、山など緑の多いところに連れて行ったり、気功を学ばせたり(これは特にしんどかった)など視力の悪化を食い止めようとするが、どれも大して効果がなく、成長につれて度数が上がる一方だった。

「この(度数があがる)スピートのままだと、お前は成人する前に度数が1000超えて網膜剝離が起きて見えなくなっちまうぞ!それでもいいのか!?」

というのが昔人参を生で齧らせる際に支配者がよく使った脅しの言葉だ。今は30代となったけど眼鏡のおかげで一応見えてはいる。眼鏡に生かされている。

そんな私が眼鏡と決別を告げるときめた。

眼鏡が嫌いとか否定しているわけではないが、眼鏡をかけている自分はイケてない。

幼い頃、また近視になっていない時はよく言われた。アクズメさんくん目が大きくてきれいね、彫が深く外国人っぽいね、大きくなったらマーロン・ブランドみたいなハンサムガイになるに違いないですわと。でも今はどうだ?分厚いレンズの屈折のせいで目が1.3倍小さく見えてしまい、顔の輪郭に乱れが生じる。せっかくのイケメンが台無しだ。それだけではない。私は体を鍛え、月に2回散髪に行って三分刈りを保ち、ピッタリフィットのシャツを着て常にフィジカルの強さをアピールして周りを怖がらせたい思っているものの、眼鏡のせいでどうしても優しめのインテリマッチョに見えてしまうそうだ。外にいるとよく道を聞かれるし、スーツ姿でショッピングモールを歩くとスタッフだと勘違いされてクレームしてくるぐらいだ。

この現状を変えたい、メンチだけで不良を退けるほどの目力が欲しい。

なので今日は有名な眼科で視力回復手術の術前検査を受けることとなった。検査に使う目薬は一時的に視覚が弱るため運転で来ないでくださいと言われたのでバス+徒歩でクリニックに到着。検査を案内してくれたのは身にスガートにタイツをきめたマブいお姉さんだった。こりゃうれしいね。マブ姉はマブいだけでなく熟練の技士でもあり、Cの方向を答える基本の視力検査から精密機材の操作まで滞りなくこなしていく。機材は青い点が光ったり、赤い線が走ったり、グレンラガンが力を高める時みたいに螺旋状に光を放つやつもあって楽しかった。

「はい、最後に散瞳をさしますね」

とマブ姉に目薬さしてもらった。役得。散瞳はその名の通り、瞳孔を強制的に拡大させる薬剤だ。副作用に一時的に羞明や近いものがよく見えない症状がある。そのため運転で来ないように言われた。想像以上の効力だった。眼鏡をかけると近いものがぼやけて全然見えない。

「それが老眼ですよ。あなたもいずれこうなります」

とマブ姉が言った。残酷だ。老眼で近いものが見えない、近眼で遠い物が見えない。心眼でも開かない限り死ぬしかない。眼鏡がない時代の人間はこうなるとそろそろ死ぬ時だと実感した。

「おめでとうございます、アクズメさん。あなたは角膜の厚さ、眼圧、他もろもろが極めて正常で手術に支障ないと結果が出ました。手術の種類と日程はどうなさいますか?」

来月の北海道旅行が控えているので、傷口が一番小さく回復が早いとされるリレックススマイルというプランにした。一番お金がかかるプランでもある。

手術は2月17日に予約した。眼鏡とおさらばするまであと11日。

(続く)

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