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炊飯仙人炊翁 ④

「はぁ……はぁ……クソッ」

炊翁の掌打を受けて倒れていた犬たちが体を起こしました。

「やっぱきついわ……お前ら大丈夫か?」
「……何とか」
「ガルルル……」
「おい、シバは返事してねえぞ!?」

シバとは棍棒犬のことでした。頭を強打を受けた彼は痙攣して、口から白い泡が出ています。

「様子がやべぇぞ!」
「くぅーん」
「はよチャーハンボールを食わせろっ!」

犬の一人が団子状に丸めたチャーハンを取り出しました。これはチャーハンボールといって、炒飯神太郎が事前にチャー・レギオンのメンバーたちに渡した回復アイテムです。シバ少年の口にチャーハンボールを押し込みますと、チャー・レギオン自律モードが起動して、口が勝手に動き出してチャーハンボールを咀嚼して、飲み込みます。

「はっ、俺はいったい」

チャーハンカロリーを瞬間にチャージし、意識が戻ったシバ少年。体の傷も完ぺきに治っています。

「目が覚めたかシバ!そんじゃ俺たちも戦いに加勢するぞ!」
「ああ、俺たちはチャー・レギオンの初期メンバーだからな。後輩に負けらんねえぜ!」
「ウワンワッ!」
「っしゃ行くぜー!」

犬少年たちは気合を入れて、再び戦局に加わりました。一方、炊翁は波のように押し寄せるチャー・レギオンに窮しています。

「皆、やめてくれ!私だ、炊翁だ!炊き出しに行った時、私が作った炊き込みご飯は美味しかったと言ったじゃないか!」

炊翁は身体を丸めて、村人の拳と蹴りを受けながら必死に呼びかけますが、チャー・レギオンは聞く耳を持ちませんでした。

「チャーハンと比べて」
「炊き込みご飯など」
「クソ以下だ」
「ぬるぬるでべちゃべちゃ」
「お前のようなものだ」
「ぐぬぬっ……!」

前後左右上下から、拳と足が雨のように降り注ぎます。炊翁はひたすら耐えます。今の左頬を殴ったのは大工のクニミツ、延髄にチョップを入れているのは忍者ワナビーのおタエ、杖で膝を執拗に叩いているのはトラ老、面識ある者ばかりです。

殴られる中、炊翁は思考を巡らせます。

(サルベージ村ははみだし者の集まりであり、村人の多く護身のすべを心得ているが、これほど戦闘的な集団ではなかった……この国、いや地球上にこれほど連携を取れた軍隊が存在し得るか?彼らの動きと言動、まるで集合精神ハイブ・マインドのようだった。つまり考え得る可能性がひとつしかない……)

「炒飯神太郎ォ!貴様、彼らを洗脳したか!?」
「洗脳とな、フッ」炒飯神太郎は嘲笑っぽく答えました。「人聞きが悪いね。私はただ善意的にチャーハンを振舞い、彼らの助力を求めただけ。彼らは私と同じ目標を持つ同志であり……」
「黙れ!戦いがしたかれば自分自身でやればいいだろ!なぜ無辜な人々まで巻き込む!?」
「わかっていないのはお前の方だ、炊翁」炒飯神太郎は指さして言った。「これただの喧嘩ではない。チャーハンと炊き込みご飯、どちらの生死をかけた戦争なのだ!料理は作る側と食べる側あってこそ成立する。私ほどのカリスマシェフであれば、擁護してなんでもしてくれるファンがいる当然!むしろそうしなかった前の方が悪い!」
「料理で人の心を操っていいはずがない!」
「人心を意のままにできるほど私のチャーハンが優秀であることだ!お前のぬるい炊き込みご飯より、ずっっっとォ!」

炒飯神太郎様はこめかみに指を当て、チャー・レギオンに指令を送ります。するとチャー・レギオンは打撃をやめ、十数人で炊翁に掴みかかってをかけて動きを封じました。

「ぐっ、これは!?」
「前回の経験に踏まえて、生ぬるい貴様なら簡単に彼らの命を奪わないと判断したうえで立てた作戦が見事に功を奏した」炒飯神太郎の口調は冷めたチャーハンのように冷たいでした。「これで終わりだ」

そして戦場の上空、屠韋汰天狗にチャーネット経由で指令が届きました。

「嗚呼、最後の一撃の殊栄を僕に譲るというのですか、炒飯神太郎様?」

屠韋汰天狗は信仰的高揚感で身震いしました。

「では、有難くやらせていただきますぜッ!キァーエエエ!!」

屠韋汰天狗が再びダイブ。ダガーのような鋭いクチバシが炊翁の頭頂部、百会に狙い定めている。このままでは炊翁が頭蓋骨を貫通されて脳破壊死してしまいます。

「おのれ……この腐れ外道が……」

炊翁は唸るように呟きました。その目にかつてない怒りの色が宿っています。

「絶ッ、対ッッに!ゆるさんぞッッッ!」

炊翁を中心に、タキオン粒子が爆発のように拡散して、一帯を白く染まりました。

(続く)


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