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炊飯仙人炊翁⑤

煙幕じみた高密度炊飯タキオン粒子に包まれるなかで、全てが光より速い速度で始まり、終わりました。

屠韋汰天狗は頭部が地面に衝突し脳震盪を起こして失神、チャー・レギオンたちは手か足が折られ、関節を外され、一瞬にして無力化されましたが、が死者はひとり出ませんでした。たとえ敵対者でも極力に命を奪わない、炊飯仙人炊翁炊飯のモットーです。

しかしそんな慈悲深い彼でも、やるときはやります。炊翁は殺意に燃えている眼差しを炒飯神太郎に向けています。

(私は詰めが甘かったせいで、このような事態を招いた。)やむなくとは言え、罪なき人々に傷を負わせたことに、彼は悔やみました。(料理を悪事に使うなど言語道断。炒飯神太郎、貴様はすでに走火入魔よ。生かしておけん。光より早い疾さで葬り去ってやろう)

踏み込んで、炊翁は本気の炊飯拳を繰り出しました。炊飯粒子を纏った拳撃は相対性や因果などまわりくどい理論とか関係なく単純に超速い、だから超強い。炒飯神太郎は硬気功で多少はタフネスになりましたが、所詮は骨と肉と構成された身体、超光速のピンポイント攻撃に耐える筈があるまい。接触した瞬間、炒飯神太郎の頭は砕かれ、衝撃が超光速で細胞から細胞へと伝わり、体組織が崩壊を起こし、炒飯神太郎は爆発四散して跡形もなく消滅する。炊翁はそう思いました。

しかし炒飯神太郎の顔まであと数センチの距離で、拳が炒飯神太郎の掌に受け止められました。

「なっ!?」

炊翁は驚愕し、拳を引こうとしますが、叶いませんでした。炒飯神太郎の指が鉄筋のように炊翁の拳をがっちり掴んで離しません。

口胡こぷっ」咳血しながらも、炒飯神太郎勝ち誇るように笑いました。「そう来ると思った。お前のようなスピードに絶対的な自信を持っている野郎は怒れば怒れるほど、子細工を捨てて、右ストレートで突っ込んくると」
「まさか」炊翁は唸るように言いました。「貴様、私が放ったタキオン粒子を利用したのか!?」
「御明察。粒子を吐納し、私も超光速の世界に入れたわけだ。肺が結構やられたけどね、ゲッホ、コッホ!カァァァ......」

苦しそうにむせる炒飯神太郎。超光速のタキオン粒子が肺の中で暴れ回り、肺胞はもうずたずたです。

「くふっ、けれどダメージに見合う成果だった。これであんたはもうちょこまかと動けない」
「それは貴様も同じだッ!」

炊翁は逆の手にタキオン粒子を纏わせ、四指で炒飯神太郎の鳩尾を抉りに行きます。横隔膜を貫通して心臓に打撃を与える、いわゆる穿心手という暗殺拳です。いかに炒飯神太郎はタフネスであろうと、心臓にダメージ与えたら呼吸が止まり、隙が生じる。その瞬間に超光速のタキオン連打で炒飯神太郎を誅する。炊翁はそう思いました。しかし、

「顫ッ!」
「ぐわっ!?」

逆に突き指になった炊翁でした。炒飯神太郎は全身の筋肉が緊張と弛緩を繰り返し、光速のジバリングで超振動を生み出してあらゆる接触を拒む無敵モードを作り出しました。

「なんのッ!」

炊翁は攻め型を変え、左手で炒飯神太郎の胸に連続掌打を叩き込みます。衝撃は傷ついた肺組織に響きます。炒飯神太郎は吐血しながらジバリングで発生した熱エネルギーを右手に集中して赤熱化。まったく無駄がありません。

「こぽあハハハ!こんな軟弱攻撃、あと5千発受けても私は揺るがぬぞ!」

炒飯神太郎の燃える右手が炊翁に襲う。逆に炊翁の打撃はすでに数百発当たっているが大したダメージを与えていなません。タキオン粒子の使い手は光速を突破するスピードを得るが、その分カロリーの消耗が非常に激しい。戦いが長引けば引くほど、炊翁はガス欠に陥って不利になります。

だから彼な思いきった。

「ヌンン……憤ッ!!」

手刀で己の右手を切断!拘束を脱した炊翁はタキオン粒子を振り絞って、自分の家に向かって走り出しました。

(補給……カロリーが要るっ!)

厨房の中に先ほど出来上がった炊き込みご飯がある。それを食べれば傷も治り、エネジーも満タンとなる。今度こそ最速最強の一撃で必ず炒飯神太郎を斃す、と炊翁は思いました。

ジャンプし、炒飯神太郎を殴り飛ばした時に天井に空いた穴から厨房に着きます。そこで彼は絶望的な光景を目にしました。

(続く)


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