コーチ・フレイムヘッド(邦題:空に向かって撃ち放て!)②
「どうかうちのコーチになってください!分寸曹長!廃部の危機です!」
「あぁぁぁぁ……」
肩の痛みが高まっているに相まってイライラしてきた私はインターホンを手に取った。
「よろしい、こんなに私をコーチに招きたいのなら、私と勝負しろ。もしお前が負けたらもう二度と来るな」
モニターの向こう、黒いポニーテール娘が映っている。「元気な笑顔」以外に取り柄がなさそうなアホ面している。
『……いいでしょう。でも曲射砲の試合は流石に……』
「心配いらん。だれでもできる競技、つまり睨めっこだ」
『睨め、こっ!?』
一瞬困惑したアホ面がぱっと顔が明るくなった。
『いいですよ。わたし、こう見えても強いです!弟以外に負けたことありません!』
ほう、大した自信ね。でも大人は怖いぜ?
「ドアを開けてから開始だ。準備はいい?」
『いつでも行けますっ!』
「じゃあ、ほい」
ドアノブをに捻って、引く、アホ面と直対面。
「ふっふん、負けませんよ!」
生意気なブラウン色かかった目と視線を交わす。ほう、顔半分を覆う火傷に怖じ気つかないのか。しかし私の勝利は確実で約束されている。右目に付けている眼帯を外す。
「あっ、え」
途端にアホ面の笑顔が消えて、驚愕に凍り付いた。想定内の反応だ。なにせ私の右目に瞼はないからね。丸くて、瞳孔が霧がかかったような灰色の目は剥きだしている。火傷で蝋質を帯びたツルツルで赤い皮膚を合せてまるで墓から這いずり出たグールのよう……と知人に言われたことある。とっくに機能していない右目はこんな時に役立つとは。
「ひっ、ぎぃ」娘の表情は驚愕から恐怖に変わり、瞳孔はすでに泳いでいる。睨めっこリーグのルールの沿えば彼女は既に負けているが、もう二度とこっちに来る気が起こさないよう、きっちりとどめを刺してやる。
「どーうした?私をコーチに招き入れたじゃあないのか?」
「びぎぃ!?」
顔をつけつける。距離は10.5㎝。顔をずらして右目をギョっとアピールする。
「それはつまり、この面と毎日顔合わせないといかんことよ。それぐらいの覚悟はできてんだろうなぁ?」
「うぅ……ぐぅぅ……」
娘は完全に視線を外して、いまにも泣き出しそうになった。おっ、泣いた、
「うわぁぁぁぁ~ん!しづれしあしたァ~!!!」
涙目ながら娘は走り去った。私は「ふん」と鼻を鳴らして「平高撃砲部」と書いたジャケットを着た背中を得意げに見送った。そして部屋に戻ると、しばらくアホ面の泣き顔を思い出し、罪悪感を覚えた。
(続く)
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