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【剣闘日記】閉める扉があれば、新しい扉もまた開く

『オーライ、ガイズ、レディーズ、ボーイズ&ガールズ、皆が盛り上がったところで申し訳ないけど、そろそろご退場の時間だ。あたしも、ここもな!』
「ウオー!」「DOOMちゃーん!」
『闘争を避けるな!体を鍛えろ!常に求めろ!明日ドゥームズデイが来るみたいに今日を遺憾なく過ごせ!』
「「「WARRRR!」」」
『WAR FOEVER!愛してるぜお前らぁ!達者でな!』
「「「「「WARRRRRRR!!!」」」」」

「形のあるものはいずれ消えてなくなる、ってか」

 ステージを終え、カードダス時空で、格子柄のオックスフォードシャツとオーバーオールといった作業服でK-138と書いてあるゲートの前で、DOOMは壁にもたれてタバコをふかした。

「これじゃ、あたしの剣闘一週年計画とか、全部どじーゃんかよ。はぁ……」

「それは残念だったな。しかしここの禁煙で、おまえは未成年のはずだ」

 声した方へ向くと、廊下に古代ギリシアの彫像を思わせる厳つい人影が立っていた。その者は男性の身体を模した胸当てを身に着け、ゼウスの形象を倣って作った真鍮の仮面を被っている。露出している両腕と両足が大蛇が纏わりつくような筋肉に覆われている。トレードマークである頭の後ろに束ねたボリュームのあるアメシスト色の髪の毛。彼女こそが奴隷剣闘士でありがなら、数々の武勇で破格にプリムス・ピルス(筆頭百人隊長)まで登りつめた詰めた伝説剣闘士、現人神ムーンシャイン(ローマの姿)である。

 ムーンシャインの咎めに対し、DOOMはタバコを大きく吸い、挑戦的な目で見つめ返した。

「ハァ……虚構人物の年齢にちょっかい出すとは無粋だねぇ。ならどうるす?この場であたしに制裁を加えるか?」

 DOOMの挑発的態度に反応し、ムーンシャインの上腕二頭筋と三頭筋が瞬時に緊張が走り、殺気が膨れ上がった!ヤル気なのだ!

「オーケー、落ち付け!わかったでばよ!」DOOMは急いでタバコを指で捩じって火を消し、吸い殻を携帯灰皿に入れた。「これにてタバコをやめます、これよしてくれ」

「……私は貴女の道徳講師ではない。それよりさっさと仕事を済ませよう」
「ああ、そうだな」

[データカードダスアイカツフレンズ運営よりお伝えします。K-138ゲートの完成停止を確認しました。撤去作業を始めてください]

「だとさあ、始めようぜ」

 DOOMとムーンシャインはそれぞれ壁沿いに置かれたスレッジハンマーと斧を手にとった。

2001年から開店し、かつて世界最大の球体構造建築の記録を持ち、全盛期は24時間営業する時期すらあった京華城(Living mall)が11月30日にて閉店した。剣闘小説で登場した客足が少ないMallとはここのことだ。俺にとって初めてアイカツを体験し、そして剣闘のインシピレーションをくれた想い出の場所でもあるのだ。

「あたしゲートの撤去は初めてだけど、先輩としてなんか教えてくれることないすか?」
「全部壊せ」
「単純明快すね。りょーかい」
「やるぞ。声掛けを頼む」
「オーケイ、せーのー」

「「フッ!」」

 KRAAAAASH!!!踏み込みからのフルスイングがゲートの構造を破壊し、破片が飛び散る!

「「フッ!」」KRAAASH!「「フッ!」」KRAAASH!「「フッ!」」KRAAAAASH!「「フッ!」」KRAAASH!「「フッ!」」KRAAASH!

 剣闘士筋力を込めた斧とハンマーが上げては下ろし、みるみるうちにゲートは原型を失い、廃材に変わり果てた。

「はぁ……はぁ……思ったより重労働だぜ」
「その程度か?」
「うせぇ!」

 ハンマーを杖かわりにつっかえるDOOMが息で胸が激しく上下するに対し、ムーンシャインは息が上がるところか、汗一滴すらかかなかった。

「しかしこれで本当に終わったな、あたしのルーツが。寂しいような」
「今日はここで、一つのゲートがその使命を果たした」ムーンシャインは頷き、超然に言った。「そしと同時に、データカードダス筐体は業者に回収され、またどこかに設置される」

『データカードダスアイカツフレンズ運営よりご報告です。946ドックに新たなゲートが稼働開始しました。どうぞご利用ください』

「ーーそして新しい扉もまた開かれる。その一歩先が次のEntrance」

「新曲宣伝乙。まあ、一番身近の筐体が撤去されたことで、外の奴はまた新しい場所を探さないといけないだろうよ」

「そして新しい戦い方は既に始まっている。先に排出したカードを見よう」
「さっきの?どうでもいいNカードだけど」
「その背面になにかついているか?」
「背面、あっ、あった。何これ?シール」

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カードの右下を見よう。

「要するにポイント集めて景品に交換するイベントだ。詳しくはホームページを参照。PRカード一式を交換するには、シールが30枚必要だ」
「せっこっ!Vol.2が導入して4ヶ月のところでこんなイベントを押し出すとは、新シーズン早々カードを全部集まったガチ勢は涙目だなこりゃ……どの道プレイヤーの財布が大出血するだろうね」
「それでも、プレイヤーたちはまた見ぬPRカードを手にする為、データカードダスにコインを入れ続ける」

 ムーンシャインは嘆き、握っていた斧をDOOMに渡した。

「さらばだ。お前の道の先に、望む未来があらん事を」
「サンキュー、ムーンシャイン。来てくれてうれしいかったぜ」

 離れて行ったムーンシャインを見送り、DOOMは斧とハンマーを担いあげ、ドックから出た。

「さて、外の奴がいつでもやれるよう、あたしも準備するか」

(多々買いがまたまた続く!)

【剣闘用語】
外の奴:データカードダスのモニターを覗き込む人、プレイヤーのことだ。金を出すやつとも呼ばれる。



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