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辛い麺メントIN TOKYO⑨ #ppslgr

「S・Gのジュクゴ力でなんとかならね?」H・Mは空中に字を書くみたいに指をなぞるながら言った。「『悪霊退散!』とか」
 H・Mの発言に対し、S・Gは頭を左右に振った。
「ジュクゴ力は安易に使うものではありません。確かに悪霊退散のジュクゴはM・Jをもとの姿に戻せるかもしれないが、欲望、闘争心、中二病などジュクゴに悪と見なされた部分が妖狐の人格と共に消え去って、彼の性格を歪める可能背も否めません」
「つまりM・Jは創作における必要な邪念を失って腰抜けになっちまうわけか。A・Kにとっちゃあライバルが一人減ってむしろご都合じゃね?」
 意味深な笑みをこっちを見てくるH・M。
「確かにパルプスリンガー飲み会爆殺は俺の持ちネタだけどさ……もしかしたら俺がなんとかできるかもしれん」
「ワオ、マジ?」
「何ができたら、とにかく早くしたほうがいい。マッポが来たらせっかくのフライデーナイトが終わっちまうぜ」R・Vは腕を組んで促した。先ほど手に持っていた長ドスは完璧にコートの裏に隠した模様。

 俺は上着の裏ポケットを探り、黒い剣が描かれたカードを取り出した。テキスト欄に「ダークネスグラディエーター:Killer-刃-」と書いてある。そのカードを見たダーヴィと王子は難色を示した。

「Dude、そのカードはまさか」
「またもっているのか?」
「ああ」

 暗黒剣闘カード、それは俺がおま国の現実に打ちのめされ、闇に支配された時に俺の心より実体化した四枚のカードのことだ。詳細はこちらに参照。Killer-刃-はその中のアクセサリーカードに当たる。

「何度捨てても、必ずバインダーに現れるもんな。俺がおまくにに対する怨念が消えないかぎり、カードも無くならないと思う」
「ほえ、呪われアイテムじゃん」
「で、そのキラー何とかは、何ができるんだ?」
「よく聞いたR・V。この剣の最大の特徴は、人間の負の想像を吸い取って、成長する」
「……ニチアサにありふれた能力だな」
「名前もかなりいかがわしいですね」
「どこからどこまでがパクリだ?」
「コホン!とにかくね!」咳払いしてツッコミの浪を止める。「これをマラーラーにぶっ刺すんだ。暴走したM・Jのイメジネイションを吸収するって寸法よ!」
「ジュクゴ力の案と大差ないと思うが……」
「わからないのか?この狐っ子を見ろよ!」

 俺は刀剣の枝で拘束され、悶えているマラーラーを指さした。

「一つ、狐だ。これがM・Jの作品碧空戦士アマガサに出てくる雨狐の形象に似ている、おまけに妖怪要素も。二つ、こいつはことごとく辛い物に拘って、技まで辣油とかチリソースに関連している。そして三っつ、特撮要素。こいつは一見完全に特撮に出る怪人だし、主人公と色違いのウェポンを使っている。多分ライバルあるいは中ボスのキャラ付けでしょう。これらの要素を合わせて、マラーラーはM・Jの暴走した辛い麺欲から生まれた人格、すなわちイマジナリーフレンドの一種であると判断しました!どうですか!?文句あるんですか!?」 
「ワオ……理にかなっている……ただのコーン喰い野郎だと思ったけどちゃんと自分なりの思考を持っているんだな」とH・Mは驚いたそうに瞬きながら言った。ひどい言い草だ。
「うむ、イマジナリーフレンドに関してこの中に一番詳しいA・Kがそう言うなら、そういうことだろう」R・Vは腕組姿勢を崩せず頷いた。「よし、やってくれA・K」
「おうよ」
「みんな、気をつけた方がいい。前回A・Kがこのカードを使った際は、闇に飲まれて普段より遥かに強い実力を発揮していた。今回もそうならないとは限らない」と王子が警告した。
「わかりました」S・Gは進み出て、右腕に「一撃必殺」のジュクゴを刻んで?拳を握った。「もしA・Kがそのような兆候を見せたら、この必殺拳で仕留めます」
「ひぇ、勘弁なしてくださいよマスター!」
「大丈夫だ兄弟、お前がもし死んだらまたコンビニ店員に100万Az払ってリサッシテイション・ブレンド買ってやる。無論あんたの通帳からな」
「そりゃどーもー!やるぞ!やってやるぞ!むむむ……」

 俺はカードを指で挟み、目を閉じて想像力を高めた。カードに封じ込まれたデータを抽出し、実体化するための必要な過程だ。

 そしてふと周りが静かになり、目を開けると自分が暗闇の空間にいた。少し離れたところで、ショートソードの形を取ったKiller-刃-が怪しく緑色の燐光を放って浮遊している。それを掴むべく、俺は手を伸ばした。

 しかし、剣と手に入れることは叶わなかった。俺より早く、暗闇からガントレットを嵌めた手が柄を掴んだ。その者は冥王サウロンを想起させるトゲトゲしいフルプレート鎧を着こんでおり、身長は余裕に7フィートを超えて、Killer-刃-と同じく緑色の燐光を放っている。俺はこいつのこと知っている。彼こそが無念の化身、虚無に蝕まれた者のなれ果て、怒り狂う告発者。

『我の名はモラエナイト!もらえぬ者たちの代弁者なり……なり……り……』

✝貰えずの騎士✝
⚔モラエナイト⚔
(完全体)

『憤怒ッ!……ぬ……ぬ……』

 モラエナイト完全体はKiller-刃-を振るうと、刀身がクレイモアぐらいの長さ伸びて、刃が変形して鋸状の小さな刃が生えてより邪悪な形になった。

「モラエナイト」俺は勇気を振り絞って、モラエナイを見上げた。兜の目や呼吸穴から覗かせる中に顔がなく、完全の闇と虚無が充満している。「あなたの力が必要だ。Killer-刃-の力を、私に貸せ」

『厚顔無恥なり……り……り……そなたは既に一度私を拒んだ……だ……だ……何故貴様に力を貸す?……す……す……私は都合のいいビッチではない……ない………ない……』

 モラエナイを包む燐光が勢いを増し、まるで燃え上がっているようだ。こええわ。

「騎士さまだって、腹は空くんだろう?とっておき美味なイマジネイシヨンを献上すると約束する!」
『ほう……お……お……確かに、私は腹ペコである……る……る……』

 モライナイトは片膝つき、その虚無で満たされた頭を近づかせた。やめてくれ。

『良かろう……ろぅ……ろぅ……案内せよ……よ……よ……私がそのイマジネイシヨンを喰らい尽くす……す……す……』
「あ?お、はい。ヨロシクオネガイシマス」

 交渉成立のようだ。案外ちょろいな。それともよほど腹を空かせているのか。

 闇がKiller-刃-に吸い込まれ、意識が現実に戻った。右手にカードから還元した黒い剣が握られている。

「どうですか王子?この神も殺せる拳をぶち込みますか?」S・Gは輝く拳ををかざして王子に尋ねた。
「いや待って……鎧まで実体化していない。ということは」
「俺は正常だよ。いちいち殺したがるな。さて」

 俺はKiller-刃-を握り直し、マラーラーに向けった。

「マラーラー、本当はもっとこう、『おまえの本当の目的は何なんだ!?』『辛い麺は人を傷つけるためのものではないッ!』と特撮っぽいせりふを言い合ってから倒そうと思ったが、あんたはちょっと強すぎたんだよ。だからこれで終わらせてやる」
『ヌゥーッ!』

 マラーラーは一際強く震えた。俺は両手でKiller-刃-の柄を掴んで、剣先をマラーラーの胸に当てた途端、夥しい赤い霧が噴き出て、Killer-刃-の刀身を沿って吸い込まれていく!

『アォウオオオオオーーッ!!!』

 マラーラーが叫ぶ!あまりに悲哀な叫び声で、善良極まりない俺が歯を食いしばって、せめて彼が苦しまずにKiller-刃-の餌食なれと願いながら腕に力を入れた。

『オノレ……A・K!オノレ……パルプスリンガー!これで終わったと思うなよ……!”辛い麺は二度も楽しめる”、覚えておれ!ARRRRGHーー!!!』
「グワーッ!」

 シュゥゥゥーッ!赤い霧を全部吸い込んだ反動で俺は後ろ6フィートほど飛ばされ、Killer-刃-を手放した。空中で舞うKiller-刃-は満足そうに刃に赤い閃光を走らせ、再びカードに戻った。

 俺は上半身を置き上がり、向こうを見た。マラーラーがいた場所に、メガネを掛けた青年が自激しく咳き込んでいた。

「グェッホ!ウエゲッボフォ!クエッホ!アカベェッホ!アマノミナトォ!」

 この個性的な咳方。我らの友人、M・Jが戻った。

「ゲッホ、ゲッホォ……ウェッフ。あれ?俺は……」M・Jはメガネのブリッジを指で押し、周りを見た。「もしかして俺、なんかやらかしました?」

「転生物の主人公かよ」「あいた」

 H・MはM・Jの脇下に手を添えて立たせた。俺の方はR・Vの手を掴んで引きあげられた。

「話はあとにしよう。まずはこの場を離れる。二次会行くぞ」
「よっしゃ飲むぜ!」

 R・VとH・Mを先頭に、俺たちは移動し始めた。M・Jは表情からしてまた記憶が混乱しているようだ。何らかの理由を付けて酒を奢ってもらおう。

 そして俺の脳裏に、マラーラーが消滅まえに残した言葉がよぎった。

『辛い麺は二度も楽しめる』

 なんか意味深な言葉だ。確かに、辛い麺を食べたあと、排便する際にその辛さを肛門で味わうができるが、死に際に下ネタを飛ばすなんてダサすぎるだろう。

(次はエピローグ)


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