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【STORIES OF ZUCOUME LAND】ウォール・オマクニ

『アイカツ!は2019年4月から再放送!きみもストラウベリーのチャンピオンロードを辿ろう!』

『一周間も待てない人はdアニメやバンダイチャンネルをお勧め。無印からフレンズまで全部見れるよ!』

「って最近TwitterのTLにこんな内容ばかりだよ。おれも筐体でかなり剣闘しているけど、キャラクターに対してふわっとした認識しかしてないよね。なのでこの機に剣闘アニメを観始めようと思ってさ」

「あれは最高のアニメだ。剣闘に志すなら一度見ておいた方がいいだろう。フィジカルとメンタル、良い影響になる筈」

「よし、じゃあ早速やすくて合法のビデオ配信サイトを見つけて入会するぜ!Akuzume out!」

アクズメの体が数千万の光の粒子に化し、彼の想像力によって構成された脳内BARからログアウトした。

「……勝手に観りゃいいのに、『これからこれを観ます』とか人に言う必要あるか?」

 屈強な店主、元レンジャーのブロンプスがそう言い、琥珀色のラガービールが入ったジョッキをカウンターに置いた。

「まあそう言わないでやれ」ジョッキを受け取ったダーヴィはビールを一口飲み、つまみのトルティーヤチップをかじった。「彼の話し相手はおれたちイマジナリーフレンドぐらいしかいないのさ」

⚔️

 dアニメ

 まずはdアニメだ。最近頻繁に広告がPOPしてくるから印象が深い。会員、クレジットカード情報を登録し、一ヶ月の無料体験を始め……

「ぶおっふ!?」

 突如に横から柱みたい物がおれを撥ね上げ、25mぐらい飛ばした。きりもみ回転しながらおれは受け身をとり、猫科動物めいて後ずさりながら四点着地に成功した。

「何奴!?」 

 着地の勢いが止まり、おれを飛ばした者を探す。目の前に「docomo」と書いてある胸当てを着た身長10フィート超の鎧戦士、その手にとんでもなく大きいバルディッシュを持っている。斧刃の部分が月輪状になっており、柄と組み合わせるとdかpの形に見える。

『我はこのリージョンの守護者(ガーディアン)なり。おぬし、日本IPを持たぬ者、直ちに立ち去れい!』

 守護者と名乗った者は威圧的にバルディッシュをビョン!と振るった。

「ああ……そういうことなら、こちらだって考えがあるぜ!」

 おれは即座に着物を被り、ちょんまげを結んだ。これが秘技・偽装VPN!今のおれはどこからどうみても日本人だ!しかし……

『無駄だなことを、現実の重さを思い知れい!』

「グワーーーーーッ!Srew you!dアニメェェェェーーーーーー!」

 守護者はバルディッシュをゴルフクラブのようにスウィング!おれははボールみたに高く打ち上げられ、リージョンの外へ放り出された。

バンダイチャンネル

『楽しいを作る企業BANDAIです。その楽しいは、お住まいの地域から利用できないというあなたの悔しみと悲しみから得ています』

「ちくしょう!おまえらのような奴がいるから!おまくにの壁が……」

 しかし言い終わらないうちに、宇宙戦艦「万DIE」の連装メガ粒子砲の一斉射撃によってアクズメは宇宙の塵になった。

Hulu

「ヘイヨー、Man。ここに書いてある文字読めないかい?」

 バウンサーは「外人と犬はお断り」の扁額に指さした。

「あっ、すいません。知らなかったです」

「問答無用だYO」

 BLAM!バウンサーは懐から拳銃を取り出しアクズメの頭をぶち抜いた。

DMM

「まあ元からおまくにの壁が厚くて有名なDMMだから期待してないけどさ~一応チェックしておくけどさ~」

『お住まいの地域はこのサービスを利用できません』

「ですよね~」

⚔️

「クソッ!なぜだ!?どいつもこいつもおれの剣闘ロードを邪魔している!」

「セキュリティー上の問題で仕方ないだろ。ところでAmazonプライム・ビデオはもう試したか?」

「Amazonはだめだ……おれは過去のことであの会社を憎んでいる」

「そいつはお気の毒だ。まあいいだろう別にアニメ見なくても剣闘はできるし……」

「おれが観たいんっていうんだよ!」

「……あぁ、はい」

 さすがにダーヴィもアクズメの拗ねている子供のような態度に愛想が尽き、自分の飲み物を持って別のテープルに移動した。

「クソ……どうすればいいんだ……」

 いつの間に周りが暗くなり、イマジナリーフレンドが消え、無限の暗黒宇宙だけが広がる。これは昔も経験した、アクズメの落ち込んでいる心に闇がつけ込んだ際に見る光景だ。

『若者よ、悔しがろう……ろう……ろう……』

 それは低く、優しく、そして邪悪で、エコーが掛かった声であった。フロド・バギンズを篭絡する時のサウロンの声に似ている。

「今回はなんだ……?」

『私はキラーヤイバ。貰えずの者どもの怨念によって鍛えられた剣である。若者よ、私を振るい、BANDAIを始めとするおまくに会社に思い知らせようではないか……か……か……』

 暗黒空間から一本の黒い剣が虚無から出現した。その輪郭は紫色が掛かって、いかにも魔剣って感じだ。剣身にKiller刃の文字が刻んでいる。

「騙されんぞ、魔剣。どうせお前を使おうと、エルフの王子とダーヴィに阻まれてさらにひどい目に遭うだけだ。これはこれまでそれを何度も経験した?

『なるほど、イマジナリーフレンドを強くしすぎてしまったか。ならこれでどうだ……だ……だ……』

「ムゥ!これは!?」

 キラーヤイバの側に、三枚の黒いアイカツカード、つまりAmorが現れた。おれはてカードに書いてある数値を見て驚嘆した。

「なっ、三枚でアピールポイント合計……7200だと!?」チートじゃん!

『これが闇の力だ……だ……だ……これでスぺシャツアピールを出せば、もやはあなたを止められる者はいない……ない……ない……』

「これならエルフの王子でも……行ける、行けるぞ!」

『さあ、私を掴め!私の騎士となり我を振るえ!』

「ああ、ともに行くぜキラーヤイバ!」

 右手でぜキラーヤイバを掴み、左手で三枚のカードを前方に投げる。するとカードは飛びながら巨大化し、仮面ライダーディケイドのファイナルアタックライドみたいに進路上に並んだ。一枚目!二枚目!三枚目!三枚のカードをゴースルーしたおれの体はいま、人間の骨格を模したクロムメタルの鎧に包まれている。

「おお、おおおお!……力が湧てくるぞ……!」

『そなたの名は貰えずの騎士ーーモラエナイト!』

♰貰えずの騎士♰
ーーモラエナイトーー

『さあ、思う存分、楽しむといい……いい……いい……』

 キラーヤイバの声が次第に小さくなり、周囲の暗黒宇宙が霧散してゆき、見慣れたBARの光景が戻ってきた。

 最初に動き出したのはダーヴィだった。立ち上がってダークミストの守りを纏い、テン・マークの構えをとる、その間一秒もかからなかった。他の連中は……腰に帯びている武器に手を当てたり、椅子を持ち上げたりしている。完全にこっちを敵扱いだ。生意気な、想像主の力を知らしめてやる。おれはキラーヤイバを水平に構えた。

「キラーヤイバ、鞭になれ!」「ッ!?伏せろ!」

「「「グワーッ!」」」

 ビューン!振るわれながらキラーヤイバの刀身が液体金属めいてしなやかなに伸び、半径5mの空間を薙いだ。即座にしゃがんだダーヴィとブロンプス以外の者は打ち払われ、切り刻まれた。

「なんのつもりだアクズメ!自分で築いた世界を壊す気か?」

「おれは……」その時店外より安全ピンに刺されたような殺意を感じたおれは剣を胸の前に斜めに持ち、飛来する実体矢を弾いた。「来たか!エルフめ……!」

「アクズメくん、まさかその剣と鎧で我々に対抗できると思うまいね?」

 尊大の声と共に歩み寄ってくる細身のシルエット。彼こそおれの最古のイマジナリーフレンド、エルフの王子である。王子は手を翳し新しい矢を生成し、弦にかけた。

「その通りだ。今のおれにとって、お前の矢を防ぐことなど、造作もない」「そうか、ならもう一つ教えて頂きたい」「なんだ?」「矢を防げても、対物ライフルが防げるかな?」「なに?おまえにそんな装備は……あっ」

 いたわ、この中に対物ライフルを持っている奴が。

 BOOM!

「グワーーーーッ!」背中に強烈な衝撃!おれは狼狽したたらを踏み、転げかけた。エルフの王子に気を取られて忘れていた、背後にいた元レンジャーの存在を!でもまた動ける、この鎧は対物ライフルの弾すら弾ける……

 そして鈍化した視線の中で、ダーヴィが突っ込んできた。彼は両腕の筋肉が通常の三倍に膨れ、頭に悪魔めいた水牛角が生えている。待て、その形態、ブルタルダーヴィじゃん、まだおれが書かれてないのにもう使っちゃうの?その形態は本来ブレーンマッスルの親玉との戦いで……

「WRAAAAATH!!!」

 最低限の攻撃で相手を無力化するテン・マークのスタイルではなく、純粋の暴力を込めた拳が胸当てにめり込んで鎧を砕いた。おれは吹き飛ばされ、酒の棚にぶつかてそのまま木製の棚にめり込んだ。おれが最後に見たのは、黒煙をふって元のサイズに戻るダーヴィと、ライフルを構えて警戒するブロンプスだった。

 おれはここで死んだ。

⚔️

「これ、死んだよね……」 ブロンプスはライフルを下ろし、ダーヴィをエルフの王子に向かって言った。「大丈夫なのか?こいつは一応ここの想像主だろ?」

「ああ、しばらくは大丈夫だ。アクズメくんは自分の世界を形にして、noteに上げることで想像をシェアしたことは読者と共有した。この世界はいま読者の想像力で維持している」

「おい、さっきの黒い剣はどこにもないぞ」

「なら仕方ない。できることから処理しましょう」王子はスマホを取り出した。「もしもし?あっはい、いつもの……いつ用意できますか?はいでは五分後に着きます。ありがとう」

 スマホを懐に戻す。

「ダーヴィ、アクズメくんを運んでくれ。コンビニに行く」

 五分後、コンビニ。

「お待たせしました。リサッシテイション・ブレンドです」黒髪ショートボブの店員がエルフの王子に紙コップに入った蘇生薬を渡した。

「ありがとう。ちょっとイットインコーナーを使うね」

 死体をイットインコーナーの床に寝かせ、エルフの王子はダーヴィの拳を受けて窪んだアクズメの胸にリサッシテイション・ブレンドを掛けた。土色の液体が皮膚に染み込み、心臓が鼓動し始め、血が全身に渡った。しばらくしてアクズメは目を開けた。意識が朦朧し、また魂が完全に戻っていないようだ。

「ぬァ……ここは?」「コンビニだよ。何があったが覚えている?」「んあ……剣闘アニメ見ようと思って……」「そうだ。でも残念なことに、日本の動画配信サイトにはおまくにの壁があるんだ」「Oh、shit……」「でもGoogle palyなら、一話108円の価額で観れるぞ」「108円……剣闘一回とほぼ同じじゃん」「だからGoogle palyで観ないか?一番手っ取り早いと思うんだ」「アー、わかったそうするよ王子、あんたの言うことは常に正しいからな……」

(洗脳成功!)エルフの王子は振り返ってダーヴィとコンビニ店員にサムズアップした。

 それからアクズメは、毎週の木曜日に108円を支払い、剣闘アニメを観てから感想書いたりしたとさ。

おわり

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