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凶眼の拳 -餓鬼-

BIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBI
BLAME!DOOOM!

 BLAM!廊下の十字路、デスクをバリケードにしていた人間が倒れ、うずくまってもがいた。他に敵が無いと確認し、僕はそいつのそばに歩いた。

「おい、出口……だめか」

 奴は手で自分の首を抑えて、口を開いている。見事の致命傷だ。指の間から濃い緑色の液体が溢れ出ている。こりゃ話が聞けそうにないな。このまま放っておいても構わないが、首を蹴り折って殺してやった。特に意味はない。ついでにポケットとボーチを物色し、マガジンを拝借。

「埒が明かねえな」

 左肩にもたれている人形を担い直し、また歩き出す。30分ほど前、宇津野説螺/桐旗呉美という二人の体に一人の人格を宿した怪物を斃し、帰宅と決めた僕は桐旗呉美だった人形を背負って銃火器で武装した警察か、自衛隊か、公安かと素手で戦った。高揚感と悲壮感に駆けられ、感動的なセリフを吐きながら武装兵を蹴り殺したりしたが、すぐあることに気づいた。

 僕、なに馬鹿正直銃を持った相手に、背中に人を背負った状態で、足で戦うんだ?

 奴らが落とした拳銃を一丁拾うと、忽然やり易くなった。銃の扱いは組で一応学んでいる。ターゲット、フロントサイト、リアサイト、適切な距離に入ると、異視でどいつを先に撃つべきか選び、三点が一線上に揃ったら引き金を引くと、銃口から弾丸が吐き出され、ターゲットの肉体にめり込み破壊する。あっけないな、闘技場で戦ってた怪物どもの方がよっぽど善戦したぜ。

 人形を米俵みたいに左肩で担い、がつがつ歩きながら敵が出たら撃つ、敵が出たら撃つ、閃光手榴弾みたいなもんを投げて来たけど蹴り返す。弱い、弱すぎる。この国の公権力はも負傷の、荷物で片手が不自由の未成年一人すら殺せないとは。

 でもよく考えると現代日本は比較的平和な国で、一般の警察や自衛官が殺人の経験を積んでるはずなく、そしてこちらは12人殺して牢獄され、視覚をいじられた挙句怪物との殺し合いを強いられてきた、経験が違う。

 気の毒だね、君たちだって命令されて僕を止めに来ただけなのに、今日ここで死ぬこと朝起きた時想像もしなかっただろ?でもご都合だ、血道を開けて、ここから出て行かせてもらう。

 あくまで道がわかるならの話だが。

「参ったな」

 脱走防止の一環なのか、施設の見取り図が一切見当たらない。今僕ができることはいつ出てくるかわからない公権力の犬に警戒しつつ脳内の地図を広げ、記録していくしかない。

 人形を担って数分、医務室みたいな場所に辿り、そこで車椅子を見つけ、人形を車椅子に座らせた。これで文字通り肩の重荷が降ろせた。これから車椅子を押していくとなると、大事な人形をまえに晒し、敵の銃弾だ彼女に当たることになるが、まあそうならないように僕が先に殺ればいいって話だ。また三匹の犬どもと遭遇、今回はこっちに背を向けて何かを警戒しているようだ。運がいい。異視で腐ったイチゴに見えた頭、フロントサイト、リアサイトを一線を状に揃えて、撃つ。腐ったイチゴがから腐った果汁が噴き出た。もう二が振り返る。遅えーよ、のろま。近い一匹にヘッドショット、最後の一匹は話を聞くため両肩を撃って武装解除した。

「がぁっ、ぐ……!」

 仰向けて痛がっている犬の胸に踏みつき、銃口を向けた。

「出口はどこだ」「てめえ、脱走者……」「そうだ、だったらどうする」

 銃口を奴の肩に開けた穴に当て、たっぷり痛めつけて聞き出そうとしたが。

「出口は、あっちだ。」

 予想外のことに、奴は頭を動かし、目で廊下の向こうをしめした。余りにもあっさりと答えを得た僕は疑心が働き始めた。

「いいのか教えてくれて、おまえに使命感や忠誠心がないのか?」

「ぐ、そんなもん、クソ、食らえっ」苦し気に言葉を吐き出す、本当にいたそう。「どうせこの、国はもう、終わりだ。引き取りしうよ、案内してやる、俺をあぶっ」「どうも」

 頭を踏みつぶし殺した。変節漢が嫌いでね。死体をあさって銃弾を確保し、また車椅子の押し出す。これから先は一本道だ、奴の言ったことは嘘かどうかわからないが。とりあえず進むしかない。部屋に戻って、絵を描くんだ。そのあとのことはその時考える。

 不意に、視線の先、アレが目に入った。

 16m先に、濃紺色の人体が立っている。僕は反射的に銃を構えた。そっちもこちら認識したみたいで、猫背で、ゆっくり、垂れさがっている両手を揺らしながら歩いてくる。これだけで十二分に気味悪いが、一番恐ろしいのはーー

「ゲヘハハハハハ」

 奴から発した、この笑い声。

 首の後ろが湿っぽい何かに触れられた感触がした。今まで何度も味わった、未知の物に対する恐怖。感情が脊髄に伝って全身に染みわたり、全細胞がビビっている。やばい、何もかも捨ててそいつからできるだけ離れたい、でもだめだ、部屋に、僕は部屋に戻る、そして絵を描くんだ!

 BLAM!弾が濃紺の右肩に刺さり、大きく反らせた。噴き出し液体を見た僕は少し安心した。血が出たらつまり殺せる、誰かが言ったよな。

「ゲヘハハハハハ!」

 また笑い声だ。クソ!

「オウ黙れやァ!」

 興奮で手元が狂う。二発目は胸に、三発目は腹に、四発目は明後日の方向へ飛んで行った。ここで弾切れ。濃紺は被弾する度に動きが泊まるが、倒れる気配は一切ない。

「ハァーー!ハァーー!」

 呼吸が荒くなっている。まずい状態だ。リロードするも手が震えてマガジンをなかなか嵌めない、ダサすぎる。8m、すぐ前に来ている!いまならよく見える、こいつは輪郭が人間に似ているが、ガマガエルのような疣ついた皮膚、耳と鼻をそぎ落とした平べったい顔、その気味悪い笑い声を発する口は頭を分断できる程大きく割れて、中にサメのような鋭い歯が見られる。明らかに人間ではない。

「クソクソクソッ!」

 リロードし、足もとに連射。三発ぐらいが濃紺の左膝に命中した。膝以下のパーツが飛ばされ、濃紺がバランスが崩れて無様に転倒した。

「ざまみろうええええ!?」

 まるで足の傷残を介しないと言わんばかりに、濃紺は残り三本の手足で這ってくる! こっちは弾切れ! 「クッキキキ……」恐怖のあまりに口から笑い声が漏れた。「ゲヘハハ」怪物の笑い声と重なり合った、最悪のヂュエット。僕は頭がおかしくなったかもしれない。ただで異視刑がキツイのに、撃たれても死なない怪物が笑いながら迫ってくる。いいよ変態怪物野郎、こうなったらその首を蹴り折って、それでも生きていられるか拝見しようじゃねえか。僕は膝を曲げ、右足に強く意識した。あと3m、いける。

「アー、オレだったらそいつに触らないよ?」

 は?

 少年のような若い声がして、意識がそっちに向くより早く、四発の銃声、怪物の脊髄あたりに刺さった。そしてーー

「ギャーハッハッハッハッハ!」

 とびきり高い笑い声をあげ、怪物は全身が粒子状に化し勢いよく四散した、いや、爆発した言えるべきか。わけが分からない、が、聞くだけで精神を削る笑い声が消えた。助かった。

「フゥー、あぶねー。(ト)られるとこだったぜきみぃ」

 左側、声が少年にように若い男がいた。、彼は両手に持っている拳銃をスピンし、「ふーっ」と銃口に漂う硝煙を吹いた。みたところ、彼があの怪物を殺ったようだ。異視下の彼は明るい黄色と緑色が混じった、食用色素たっぷりの棒キャンディみたいの色合い。バスケットボールウェアと目が覆われるまで深く被った頭巾、その上にヘッドホンを付けている。一昔のラッパーのファッション……だと思う。僕はヒップホップに詳しくない。

「あんたは?」「オレ?オレはコン・スミス。殺し屋だよ」

 なにが「殺し屋だよ」だ。ラノベじゃあるまいしそんな素直に殺し屋と名乗る殺し屋がいるかよ、と思ったがよく考えると僕そこまでは殺し屋という職種に詳しくない。とりあえずこいつには助けてくれた恩がある。恩には礼儀で返すべきだ。

「あー、コンさん?助けてくれてありがとう、その……」「いいよいいよ、きみが暴てくれたおかげでだいぶ楽になったよ。だからこれがお返し、ね?」「あっ、はい」

 にしても若いま、声からして僕と年が近いか。ふん、少年殺し屋だと?古すぎてラノベも使わなくなったネタだ。コン・スミスといったか。欧米っぽい名前だけど流暢に日本語でしゃべってる。まあいまの状況じゃ肌の色も分からない。

「きみ、名前は」「えっと、海坂です」「カイサカ!かっこいい名前だね!それで、カイサカは出口を探しているの?」「そんなところ」「うん。じゃあの子は?」

 コンは顎で呉美だった人形を指した。

「あの子から意識がまったく感じられない。空っぽだよ。なんでカイサカは彼女を連れているだい?荷物でしかないはずなのに」「……それは答えないとだめか?」「いやぁ、気になるよね。どうしても」

 その時、コンの雰囲気が変わった。

「もしカイサカがさー」棒キャンディ色の両手が黒くなり、廃水の色になった。「あの子にひどいことしてあんな状態になって、それでも彼女の肉体が諦められなくて、持ち出してなんかしようとしたら、ここでお前を(ト)ることになるけど」

 面倒くさくなってきた。

(続く)

この作品はバール氏の『凶眼の拳 -少年、獄底にて世界を殺伐す-』と須田剛一氏によるゲームキューブ唯一のZ指定作『Killer7』のコラボファン小説です。



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