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【終焉剣闘旅】フェアウェル・グラディエーター(3日目前半)

おはようございます。昨日が涼しくていい天気だったが、今日はまた雨が降り始めて、息が白くなるほど気温が下がっている。けれど我が心が熱く昂っている。この日のために今回の旅行を計画したと言っても過言ではない。

いざ行かん、一歩先の次のEntranceへ!具体的言うと秋葉原へ!

「おはようございます、アクズメ=サン。アイカツおじさんです」
「おはようございます、アクズメです。今日一日よろしくお願いします」

秋葉原駅、電気街改札。俺たちはアイサツを交わしていた。

目の前の男を見上げる。スキニーなバトルスーツに包まれる引き締まったボディ、オールバックに整った金髪、高い鼻梁の上にサングラスをスタイリッシュにかけている。彼は相互フォローのアイカツおじさん、今日は俺とアイカツするためにわざわざ遥々遠いところからやってきた。本人が意向によりアルバート・ウェスカーの姿で出演させていただくことになった。

「では、行きましょうか」
「行きましょう」

闘争者同士は多く語らない。アルバートの後につき、俺たちは歴史あるゲーセン、Heyにやってきた。アルバートの話によるとここがアイカツ!の聖地だったらしい。

これまで数度日本に来たことがあり、Hey立ち寄るのも初めてではないが、以前の俺はアイカツ!を知らぬシャバ僧だったので、Heyに対する印象はUFOキャッチャーがメインの1、2階は歩けないほど混んでいて、そしてビデオゲームがメインの3、4階はガチのゲーマー達が放つ殺伐とした空気の対比が激しいに留まっている。

そしてDCD筐体が斜陽期を迎える今となって、自分のアイカツにケジメをつけるために俺は聖地に訪れている。なんという因果か。時々考えてしまう、もし俺がもっと早い段階でアイカツを始めたら、BANDAIは外貨をたっぷり稼げでみなみの国でフレンズの2年目の最後弾までやってくれたかもしれないし、そして何らかのバタフライ・エフェクトで例のウイルスが早めに終息がついて俺が3年もの人生をIDLEせずもっと充実にIDOLとしての人生を歩めたかもしれない。

全部過ぎたことだ。悔やんだって仕方がない。アルバートもいるし、今日という今日を楽しもう。

狭い階段を登って四階に上がる。アイカツプラネットは筐体フロアのけっこう隅の場所に5機が並んである。ますます斜陽感がましていく。

「アクズメさん、媒体は持っているか?」
「持っててますよ、ハイ」

俺はリュークを探り、集合時間の前にヨドバシカメラで購入したUSBメモリを取り出してアルバートに渡した。防水、耐衝撃が売り文句のちょっと高いやつ。HeyはDCD筐体は録画するための装置を取り付けており、闘争者たちはそれを使って己の戦いの記録を残しているそうだ。

「ありがどう。私はフォーマットして録画の準備するので、アクズメさんはさきにアイカツしてていいですよ」

しかしアルバートに全部やってもらっても悪いので、そばで見学することにした。アルバートは新品のUSBメモリを録画用のPCに差し込む。

「新品ならすでにフォーマットされた状態ではありませんでしたっけ?」
「そうですが、フォーマットでも分別があるそうです」
「へぇー、詳しいですね、すごい。自分ひとりじゃ全然わかんないよ」
「それほどでも~」

という感じでよこで感嘆したり褒めたりする、いまの俺ができることはそれぐらいしかない。

すぐ終わるはずの作業だが、なぜかPCがなかなか読み取ってくれない。

「おっかしいですね?今までこんなことなかったのに……」

アルバートは根気よく何度もリトライして、ようやくフォーマットに成功した。

「よし、これでようやく録画ができる!」
「ありがとうございます。では早速一戦お願いできますか?」
「いいでしょう、負けないぞ~!あっ、その前に録画台の使い方を教えますね」

DCDアイカツプラネットは上下2画面で構成されており、USBメモリ一本のではいとつの画面しか録画。アルバートのアドバイスに従って上画面だけを撮ることにした。ケーブルにメモリを挿し、録画開始を示すLEDが点灯。準備万端だ。

「アクズメはスイング持ってましたっけ?よかったら私が持ってきたやつ使っていいよ?」

アルバートはトートバッグから数個のカードケースを取り出した。中身は全部スイングだそうだ。せっかくのご厚意だが、ここは断らせていただく。

「いいえ、いいんです。最初は自分後方で戦いたいんで」
「そうですか。では手持ちのスイングのレベルを合わせますね」
「そうしないでください、僕は手加減なしのガチンコ勝負を所望します」
本気ガチですか?一方的な蹂躙になりますよ?」
「はい、お願いします」
「それが剣闘士の矜持ってやつですね……わかりました、完膚なきまで叩き潰してやりましょう!」
「そう来なくっちゃ!」

結果的に俺はボロ負けした。アルバートが駆使する3枚のプレミアムレアスイングの前に成す術もなく、ドゥドゥンは一回もドレスチェンジできずデフォルト衣装の奴隷貫頭衣のままでステージを終えた。予想通りの結果に俺は満足している。

しかしUSBメモリの方はプレイ中に認識されなくなり、録画が途切れてしまった。

「ちょっと店員さんに聞いてみますね」

アルバートが問題解決に買って出る。流石S.T.A.R.Sの隊長、頼りになる。

「聞いてきたけど、ここのハードウェアは問題ないそうです。やはりメモリの方かね?幸いのことに秋葉原は電気街、USBメモリはそこら中にあります」

というわけで、我々は一旦Heyを出て駅前のヨドバシへ赴いた。俺は今日2回目となる。

「分からないことがある時はプロに聞くのが手っ取り早いですよ」

とアルバートが言って店員に呼びかけた。

「あのすいません、先ほどこちらで購入したUSBメモリでアーケードの録画をしようとしたけど上手くいかなくってー」

すごい、コミュ強だ。流石S.T.A.R.Sの隊長、頼りになる。交渉の結果、メモリと録画機器の相性が悪かったことに定着した。アルバートは自腹で新しいメモリを購入した。流石S.T.A.R.Sの隊長、一生ついていきたい。

すぐにでもHeyに戻って闘争を再開したところだが、オタクの性というべきか、我々は吸い寄せられるようにおもちゃ売り場の6階にやってきた。アルバート今年にドンブラザーズにハマっいて、DXドンオニタイジンを買ったという。

俺も一応買い物リストにグリッドマンのソフビやプリキュアの食玩を入れているが、見当たらなかったのでウィンドウショッピングにとどまった結果Heyに帰還。アルバートが新しく購入したUSBメモリは滞ることなくフォーマット出来た。

「これはできそうですよ」
「ではもう一戦お願いできますか?」
「いいですよ。こんどは好みのスイングでやりますね」

午前に何枚か新規スイングを入手したので早速使ってみた。

「うわぁ負けた~、アクズメさん強いね!」
「勝ったけど……虚しい勝利だ」
「えっ」
「もう知っているんだ、アルバートさんが本気を出せば僕なんかひと捻りと」
「あ、いや。私がコンボ切って負けてしまいましたし……アクズメさんは実力は確かにですよ」
「御託はいい。もう一度ガチンコ勝負たのみますよ」
「マゾですか?いいでしょう、アクズメさんが納得いくまでボコってやりますよ!」
「お願いしやす!」

現在の手持ちで最強のデッキで戦いに挑む。せめて一回でもドレスチェンジできたらいいな。

その思いは叶わなかった。これがアイカツプラネット歴2年と2日の差だ。

「がは……っ!これは効いたぜ……対戦ありがとうございます」
「どういたしまして。これで満足ですか?」
「はい、いい記事が書けそうです」
「それはよかったです」
「あっ、もう12時半じゃないですか?そろそろご飯にしましょう。アルバートさんはタコスいけますか?」
「いいですね、行きましょう」

(後半に続く)




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