牛肉喪失丼
おいおいおい、一体どういうことだぁ?いつも通っている飯屋に入って、スマホを取り出してSNSを眺めたら、タイムラインにローストビーフ丼の話で盛り上がっているじゃないか!食べ物の話になると当然、自作のローストビーフや店の装飾っぽいローストビーフ丼の写真がたくさん貼られる。くっそー(飲食店で排泄物のことを口にするな)、どれも美味そうだぜ。そんもん見せたら食いたくなっちまうだろが!あー久しぶりに食べたいなぁ、でももうソースカツ丼を注文してしまってるしなぁ......うん?
よく見たらこの店、メニューの隅に「ロ-ストビーフ丼」って書いてるじゃないか!今まで気づかなかったぜ!もう注文決めちゃってるけど、だめ元で聞いてみるか。すんませーん、ソースカツ丼キャンセルして、ローストビーフ丼に変えてもいいですかね?
包丁で揚げたてのトンカツを切り分けようとしている店主は手を止め、こちらを見た。やっぱだめか?
「はぁい、わかりました。すぐにご用意します」
いいのか。トンカツ、もう出来上がっているのに悪いね。でもトンカツは人気メニューだからフードロスにはならないでだろう、うん。
店主がキッチンの奥から牛の肉塊を取り出し、まな板に置いた。和包丁と形が異なったサーベルみたいな反りが付いた長くて薄いナイフで肉塊をスライスしていく。
米を盛ったどんぶりにレタスを飾って、その上にスライスされた肉を載せていく。1……2……4……6……9……12、共12枚のローストビーフがピンク花の花が咲いたかのように盛りつけられた。
またこれで終わりではない。花の蕊に当たるところに生の卵黄を落とし、ブラックペッパーをふりかけ、最後に辛子をひとつまみを添えたら、完成。
「はぁい、お待たせしました」
店主から丼を受け取り、しばらく眺めていた。これよ、俺が今欲しいのはまさにこれだ。今すぐにでも掻っこみたい!けどその前に日本的な礼儀を忘れてはならない。手を合わせて、いただきまー
「いただきます」
えっ、俺がいただきます言うまえに店主がすでに言い終わって、箸で俺のローストビーフ丼から一気に4枚のビーフを摘まんで、口に入れたけど?
「では私も遠慮なく」
別の方向から箸が差し込んで、やはりビーフを四枚持って行った。おかみさんだ。そこはちょっと遠慮してほしい。
「じゃ、わたしもー」
店の一人娘、中学生トミ子ちゃんが駆けてきて手掴みで残り四枚のビーフを奪い取った。しばらく見ない間にまた大きなったねトミ子ちゃん。って違うッッッ!!!どういうことだよおいいい!!!ビーフがなくなって卵かけご飯レタス添えになったじゃねえかーっ!!!
「そう興奮なさらないでくださいお客さん。その丼はただいま完成されたのです」
あぁ?何をぬかして......あっ、おい、おいまさか......
「はぁい、お客さんが注文なさったのはローストビーフ丼にあらず、ロストビーフ丼なのです」
くっ、くだらねぇ〜〜〜〜!!!でもメニューの方はロの後ろに短いけど「-」があったよな?
「それは汚れですね」
はぁぁぁぁ〜〜〜!!?
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