専用控室にて
前回
専用に控室、それは一定の位階以上のグラディエーターのみが使用が許される個室のこと。簡素ではあるがきれいな水が入ったバケット、毛布を敷かれたベッド、テーブルに蜂蜜酒が入った陶器の瓶が置いてある。戸をくくると付き人のオーキッドが心配そうに向かって来た。
「ストラウベリーさん!ご無事で……」「大事ない。かすり傷だ。それよりちょっと場を外してもらえぬか?」「でも」「頼む」チャンピオンの切れる視線を受けたオーキッドは鞭に打たれたように一歩下がり、頭を下げて礼をした。「……では、下がらせて頂きます。何があればお呼びください」「ああ」
オーキッドが十分に離れたと確認し、ストラウベリーは担いでいるドゥームの死体を床に放った。しかし死体は空中で体を捻り、猫みたいに四足で着地すると、ゆっくり立ち上がり、喉をさすりながらストラウベリーに向かってニヤっと笑った。
「さすがチャンピオンが手加減も演技も上手いな、本気で死ぬかと思ったぜ!」「おまえ……」
いかなることか!?ストラウベリーの片羽絞めで窒息死せしめたはずのドゥームはこうして生きている!
マウントを取られたとき、ドゥームはあのままストラウベリーを嬲り殺することもできたが、彼女は残虐の噛みつきを仕掛ける際にストラウベリーに八百長を持ち掛け、ストラウベリーは瞬時に彼女の意図を理解し、「蛮族の悪魔に苦戦するも、わずかの隙を活かして劇的に逆転勝利を遂げた」と演じきった。
「なぜだ?私を殺せば、おまえは一夜にしてローマ全土を轟かす剣闘士になれたはず。そのチャンスを捨てるなんて、正気とは思えん」
「おいおい、チャンピオンだからもっと器がでかい奴かと思ったらけっこう奴隷制度に毒されてんな」ドゥームは勝手にゴブレットを二つテープルに並んで、蜂蜜酒を注いだ。「あたしは奴隷の身分に甘んじる人間に見えるか?」
「悪いか」ストラウベリーは椅子に座り、胸の前に手を組んだ。「私はかつて奴隷だった。一度つけられた烙印が消えることがない。斧を捨て、真っ当な市民として生きようとしたが、結局……」
「元奴隷だったから真っ当な仕事が見つからず、結局自分が戦うことしか能がないと悟り、コロシアムに戻ったわけだな」
ドゥームはゴブレットに口をつけたまま悪戯っぽく微笑んだ。ストラウベリーは込み上げるイラつきを押し戻すべく、もう一つのゴブレットを掴んで中身を飲み干すと、「ケホッ、コホッ」と咳き、血液が混じった痰を床に吐いた。
「……ふぅ。概ね、お前さんの言う通りだ。結局私は斧を人間に振るうことが一番得意、そしてコロシアムに出れば私を蔑んでいた市民もチャンピオンだの戦の神だ勝手にもてはやしてくれる。それが私にとって最もやりやすい生き方……」
「ついでに対戦相手をバラバラにしれ鬱憤をすっきりできるし、一石何鳥ときたら」
またしても思惑が当てられた。ストラウベリーはイラつきを越して目の前の女に不気味と思えた。
「……私の考えを読めるのか?蛮族の魔術が?」
「ぷっはァ!」ドゥームは噴き出した。「魔術じゃねえよ!チャンピオンって本当に素直だな!思ったことが直ぐ顔か口に出るから分かりやすいんだよ。隠す必要がないからな。絶対的強者の風格というか……まああたしの方が断然つよいけど」
「なっ」ストラウベリーは思わず拳をテープルに叩きつて反論しようしたが、さっきの試合が脳によぎり、握った拳を解けた。
「あれは私が負けたはずだった。勝者は栄耀と富を得て、敗者はすべてを失う。それがすべてグラディエーターに通用する真理だ。今日の決死戦はおまえに救われた形になったから私はおまえに頭を上げられない。でも」ストラウベリーはテープルに両手を付け、ルビーのような瞳(右目は腫れているが)でドゥームを真摯に見つめた。「なぜ私を逃がした?」
しかしドゥームは面倒くさい層が表情で言い返した。「答えないとだめか?」「だめだ。場をわきまえろ、奴隷剣士」
「はぁー、市民権の濫用かよ?わかったよ。私はねえ、神だったんだ」
ストラウベリーは眉をひそめた。「どういう意味だ?」
「優れた剣闘士は戦神とかアレキウス転生と呼ばれしされるだろ?あたしの故郷にも似たもんがある。一番強い者が神みたいに崇められる。こう見ても王様のような暮らしをしていたぜ。半年前までがな。酒に酔い潰れて、目が覚めたら外が手足が縛られて荷馬車に運ばれていたんだ。あたしの力に恐れをなした領主はローマの奴隷商人と結託し、あたしを売ったと知った時、怒り狂ったあたしは縛られたまま護衛の兵士を何人かみ殺したが、多勢に無勢でね、こうしてここにきて決死戦をやらされたわけだ」
「縛られたまま?ふっ!脚色が過ぎていないか?」ストラウベリーは鼻で笑った。「今度は私が当ててやろう。神から一夜にして奴隷になり下がったおまえは胸に義憤が満ちて、何としても故郷に帰還し領主一矢を報いたいが、奴隷のままでは自由に動けないため、勝てるはずの試合に八百長を持ち掛け、自分が死んだという事実を作った。合っているか?」
「さすがだね、大体そんな感じだ」ストラウベリーが話している間に、ドゥームは自分に蜂蜜酒をおかわりした。
「計画が旨くっいって良かったな。これからは一人で旅に出るのか?」
「ああ、それが……問題があってだな」「なんだ」「知らないのだよ、方向が」「は?」「あたしは殺し合いや賭け事が得意だけど、そういうところに抜かしているよね。いや~困った」
「……故郷は何処なんだ?」ストラウベリーは呆れた表情で尋ねた。
「アディンアンルァソン……確かにエジプトのどこかだと思う」「いや、聞いたことない」「そうか。じゃあさ、場所がわかって、旅の準備ができるまで、面倒を見てくれよ」「何を勝手なこと……」
「まあまあまあ」ドゥームは手を前に伸ばしてストラウベリーの言葉を遮った。「だたでめしを食うするつもりはない。ちゃんと働くぜ。あんたがマスターをやってくれたら文句はない。家事やってもいいし、コロシアムに出てもいい。でも添い寝だけは勘弁な」
「おまえと同じベッドに寝るなんてこっちが願い下げだ。でもいいだろう。人前に私の奴隷のフリがしていれば住所を提供してやってもいい」
「えっ、すんなり?最初は断ってくるからチャンピオンが八百長したの噂をばら撒こうと脅すつもりだったけど……」
「単純に一人で稼ぐよ二人の方が早いと考えただけだ。賞金はしっかり頂くぞ」
「なんだ、金目当てかい。チャンピオンってもしかして金に困っている?」
ストラウベリーはオーキッドのことを案じた。またへプレスの訓練所に居た頃からの親友で、市民権を得た際に無礼を承知して上で彼女を自分に譲渡すると申し、借金を背負う形で彼女の所有権を得た。ストラウベリーの描いた未来図は借金を返済し、彼女を奴隷から解放し、二人で遠い場所で暮らす……だが知り合ったばかりの女にそこまで教えることはない。
「私はいつだって金に困っている。話はそこそこにして本題に戻ろう。私はそろそろここから出なければいけないが、おまえはどうする?死体のふりをするのか?」
「それなら考えてはあるぜ。ハサミかナイフとかある?」
◆
数分後、廊下で立っていたオーキッドにストラウベリーが話しかけた。
「待たせてすまなかったな。行こうか」
「はい。その、さっき犬の餌にすると言った死体は……」
「あれは場を盛り上げるための狂言よ。さっき回収係に引き渡した」
「良かったです。あんな残酷な宣言を聞いたとき心配しました……」
ストラウベリーは殺戮に耽け人間性を失ったのではないとわかったオーキッドは安堵して胸を撫で下ろした。ふとストラウベリーの後ろにフードを深く被ったもう一人に気がついた。
「あの、そちらの方は?」
「ああ、紹介しよう。今日から私の弟子になった……えっと」
(しまった。そいえば仮名を考えていなかった。なら適当に)
しかしドゥームはストラウベリーを待たずに前に出てオーキッドに礼をした。
「どうも、はじめまして。ドゥームです。マスター・アーンネボーところのグラディエーターでしたが、不甲斐ないせいでチャンピオンに稽古をつけていただくことになりました」
「ドームさん、しかしさっきの相手と、名前が……」
「(ドゥームつったろ)はい、彼女とは同じ国の出身で、名前が10人に二人いるぐらい普遍的なものでしたが、無関係の別人です。今後はよろしくお願いします、レディ・オーキッド」
ドゥームはフードを後ろに外し、オーキッドに微笑みかけた。赤い髪は短く、雑に剃り上げ、頭皮にいくつの切り傷が見られる。
「あっ、いえ、私も奴隷なので、レディと呼ばわりするのはやめたほうが」
二人のやり取りを見ているストラウベリーは肝を冷やす感覚を覚えた。(泥化粧を洗って、髪を剃って大人しい表情をしていればほぼ別人に見えるから大丈夫だって!)とドゥームは自信満々に言ったが、果たしてどうなるか。いつも以上に帰路が長く感じる。
◆
同時に、現実。
「おい、焼き立ての冷凍ではないピザがあるよ。これにしない?」「賛成」「筋トレのあとすぐジャンクフードかよ」「何言ってるんだピザは完全食品だろ」
俺、ダーヴィ、エルフの王子は量販店でピザをホールで買い、イートインエリアで昼食を食べた。
(終わり)
以上は俺のアイカツデビューでした。いや~長くなったね。途中で「さすがにふざけすぎなのでは?」と何度も思ったが、「最後まで書け」の教えに従い、一段落を付け、自分なりに納得しました。もし楽しんで読んでいただければ幸いです。序章からたくさんのPVとスキをいただき、やはりアイカツ=剣闘のアイデアは間違いではなかったと実感しました。ありがとうございます。
最後にお願い一つ、スクロールを下に回し、サポートボタンのある枠を見てください。「ブリトー……ブリトーを買えるお金を……ください」あそこに茶碗を持っているホームレス風のじいさんがいるでしょう?あれは俺の未来の姿だ。もし良ければ、彼が持っている茶碗にコインを入れてください。あなたのコインが電子の海や時空の歪みを越えて、アクズメの剣闘資金になります。そうすればSwordとAmorがより集めて、パワーアップしたドゥームとストラウベリー、そしてまた見ぬ強者(フレンズ)がまたアクズメの脳内で戦い始め、noteに書かれるかもしれません。期待してますよ!(チラッチラッ)
それじゃあ、明日も剣闘!頑張ります!
*このnoteはフィクションです。デーダカードダスアイカツ!とアニメ『アイカツ!』と一切関係ありません。
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