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PPSLGR読書会 #PPSLGR

 エメラルド色のビルの間に挟まれているウェスタン風の2階建て木造建築、Bar『MEXICO』。ここは暴力、胡乱、軽率人死を愛するnote創作者、通称パルプスリンガーどもの溜まり場。30分ごとに死体がドアや窓から放り出される物騒な場所だが、今の雰囲気はなんか違う。

 今夜はここで読書会が開催され、貸し切り状態にある。

 店内ではに居る男女スーツ、ドレス、軍服、着物、、ローマ風ローブなど、思い思いの正装姿で、片手にワイングラスに注いたコロナビールを啜り、控えめの声で談話している。そう、いつもの瓶にライムをねじ込んでラッパ飲みではなく、文明人みたくグラスで飲んでいるのだ。管理AIのMasterすらも綻びて、骨董品めいた18世紀タキシードをまとい、カウンターでビールをグラスに注ぐ作業をこなしている。普段山賊の巣窟が紳士淑女の社交場に一変。異常の光景だ。

 キィ……スウィングドアが音を立て、パルプスリンガーたち動きを止めてドアの方へ振り向いた。ただならぬオーラを放つ三人の男がドア押して入場した。先頭に立つのは黒いスーツを故意に着崩してパンク的雰囲気を作ったハンサムな男、酒精中毒者だ。続いては白スーツの中にアロハシャツ、まるでゲームに出るヤクザの身なり。トレードマークの天狗面の鼻が誇しげいきり立っている。自信の塊、サイコパス天狗だ。そして二人の背後に、簡素なネイビーブルー着物姿が店内に踏み入れた途端、すべての者が息を呑んだ。

 美男子である。

 韓流スターばりの整った顔、ピンと伸びた背筋、丁寧に撫でつけた三七分の黒髪、三日に一回床屋に行かないと維持できないセクシーな口髭。物静かで優しげな黒い目玉に奥底に秘めている荒れる太平洋のような無慈悲さ。彼の名は風井、noteで知らない者がいない高知能者、哲学者、思想家、写真一枚でユーザーの本名職業住所性癖中二の時書いた暗黒小説を全部当ててしまう安楽椅子探偵。趣味は室内で粉を撒いて舞わせること。

 三人は事前に準備しておいた長机に着席した。酒精中毒者と天狗は両側で、風井は真ん中。

「コホン。皆さんこんばんは、風井です」

 マイクを使わなくても朗とした声が店の隅まで届いた。

「こんばんわー」「HI」「風井さんかわいい」アイサツを返す客たち。

「えーと、今日はダーティー・ガールズ読書会に集まっていただき、恐縮でたまりません……自分の軽率な発言がこれほどの波紋を起こし、津波とも言える事態になるなんて夢にも思いませんでした」
「本当たいへんでしたわ」
「いやいやある風井さんなら程度予測できた上でやっちゃったんでしょう?確信犯ですよ確信犯」

 苦笑交じりに言った風井にツッコミ入れるパルプスリンガー達。

「ハハハ……ご存知通り、事情の私は二週間まえの飲み会で当時参加したメンバーにこの小説を薦めた。するといま私の側にいる二人、酒さんと天狗さんがそれを読み、感想をSNSをアップしてくれたおかげでもともとウ~~ンなこの作品が一夜に多く人に注目されました。つまり彼らは共犯、同罪です」

「僕たちはハメられたんです」と天狗。

「自分に至っては一ページ目を読むだけでこらえずショット三杯もキメました。肝臓はもうボロボロです」と酒。

 HAHAHAHA……笑う客たち、なかにダーティー・ガールズの読書過程を思い出し、表情が曇った者もいた

「一人では堪えられなかったことも、皆が一緒なら乗り越えるのではないでしょうか。ウ~~ンなこの作品からでも、我々の糧となるいいところがあるのではないでしょうか。私はR・Vさんのに勧められて、読書会の開催を決めました。R・Vさんは……そっちに居ますね。ハロハロ―」

 風井はカウンターの前にいる黒スーツ、黒シャツ、ネクタイまで真っ黒の黒ずくめ男に手を振った。noteで知らない者がいない冒険家パルプスリンガー、R・Vである。R・Vは右手の人差し指と中指を伸ばし、目の横で小さく振った。

「R・Vさんはダーティー・ガールズを未読の新規さんです。毎日冒険に出かける、タフなアドベンチャーですが、今回のミッションはかつてないほどこんなかもしれません。覚悟はできてきますか?」

「やってみないとわかんないことさ」

「なんてタフな!皆さん、彼に拍手を!」

 CLAPCLAPCLAPCLAPCLAPCLAPCLAP!パルプスリンガーたちは一斉にR・Vに拍手を送った。本人は照れ臭そうに手を振り、グラスを呷った。

「ダーガーを舐めてやがら」「あとで失禁しても知らないぞ」

 誰かが小声でつぶやいた。

「コホン、では始める前に、幾つか言っておきたいことがあります。読書会の途中に体に不具合が起きれば、ご自由に離席してください。自分の健康をセルフ管理メントしましょう。そしてMasterは配慮してくれて、なんとコロナの最大飲用量を一人につき2Lにしてくださいました!」

 CLAPCLAPCLAPCLAPCLAPCLAPCLAP!パルプスリンガーたちは一斉にMasterに拍手を送った。本人は顔色一つ変えず、ウィンチェスターライフルのレバーを引いて戻し、言い放った。

「ビールが欲しけりゃカウンターで受けとれ。だが1mlでも超えたら容赦はしねえぞ」

「だそうです。飲み過ぎに注意しましょう!それでは、いよいよ読書会は始まります。ダーガーを用意してください」

 パルプスリンガー達は始皇帝の暗殺に赴く荊軻めいた悲壮な表情で自分のスマホ、タップレット、kindle端末、あるいは物理書籍を取り出した。

「準備はいいですね。ではいきなりくノ一魂から始めます。天狗さん、読み上げをお願いします」

「うむ」天狗は席から立ち、数回咳払いし、腹筋に力を入れた。

「くノ一魂ーー」

 始まってしまった。

(終わり)

当noteni登場する人物および作品名は全部フィクションです。

毎日更新。R・Vと愉快な仲間の冒険を辿ろう!

広がるMEXICO。パルプスリンガーの数だけでMEXICOが存在する。


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