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タピオ・カーン JUDGEMENT

 シャーー……夜の街、重金属酸性雨が降りしきる雨の中、みすぼらしい格好の男は雨に打たれながら町を徘徊している。彼の名はアクズメ、かつての屈強なマッスルボディが影も見えず痩せていて、髪の毛とひげは伸び放題。一体彼の身に何があったのか。

 ことの発端は九月下旬、家政夫が主催した物書きどもが集まる芋煮会に、アクズメはある目的で会場に爆弾を投下した。しかし頑強な物書きたちは爆弾でも殺せず、逆に彼を返り討ちにし、お仕置を加えた。事件はこれで一旦落着したように見えた。

 そして翌日、アクズメは参加者の一人から当日調理していた芋煮には手作りタピオカが入っていたことを知った。

 青天の霹靂であった。ご存知の通り、彼はかつてタピオカの未完食投棄を看過できず、タピオ・カーンというタピオカの化身を作り上げ、タピオカを侮辱する者を無慈悲の暴力をもって罰する小説を書いていた。

 そんな自分が作中人物みたいな行為してしまった。

 事実を知り衝撃受けたアクズメは逃げるようにBARメキシコから走り去り、都市のジャングルへ自己放逐した。そして今に至る。

「は……ひ……ブッ!」

 滝のような雨のなかで呼吸すらも難儀の物。低温と飢えが肉体と精神を苛んでいる。まただ、まだ足りない。この苦しみは自分の背信に対するせめての贖罪だ。あの方に、あの方ならこの苦しみから解放してくれる……!アクズメは内心にそう自分に言い聞かせ、道を進んでいった。ゴールなき放浪へ。

 そして放浪の終わりは突如に訪れた。

 ZAP!ZAP!FLASH!雨雲の間に数回の閃光、そして。

ドゥワーーーン!!!ギヤァーーーン!!!

 雷鳴!この象徴はっ!

「タァーピオォォ、カァーーーン!!!」

「タピィーンヒヒヒィーン!」

 アクズメの前に突如現れた、小柄ながら精悍な体つき、夜めいた暗い毛色のモンゴルナイトメアと彼女に跨っているモンゴル帝国鎧を纏った、見事な口髭を蓄えたモンゴル騎兵、アクズメのイマジネイションから産まれたタピオカの守護者、タピオ・カーンである!

「あ……あぁ……!大王ーーーッ!」 

 タピオ・カーンの降臨に、アクズメが不格好に何度も躓きながらも彼の御前に駆け付け、跪いた。

「大王、俺は、私はとんでもない罪を犯してしまいました……!万死に値します!」祈るように両手を握り合わせ、アクズメは自分の罪状を読み上げた。雨で彼の目と鼻から噴き出す涙と洟が分別しにくいのが幸いか。「フォロワーの皆が優しくて、半殺しだけで許してくださった……でも私は自分を許せない!こころが、裂けそうなんですぅ!」

「……」

「裁きを……どうか、私を裁いてくだされぇー!」

「……カーン」

 ゆっくりと愛刀「黒真珠」を抜くタピオ・カーン。しかしタピオカの守護者たる彼でも、この状況においてこの男の首を刎ねることが正確は判断かどうか決めかねている。目の前の男、間違いなく自分の想像主、つまり自分の存在の錨。彼の魂が人間界から消えれば、タピオ・カーンが存在し続けられるか定かではない。しかし自分はタピオカの守護者たる者、もしこの者を見逃せば、それこそ自分の天命を裏切るようなもの……

「タプーン……」

 主人の感情に揺れを感じたナイトメアは不安に唸った。タピオ・カーンは目を閉じ、彼女の頬を軽く叩いた。そうさ、臆することなど何もない。自分はタピオカの尊厳を守るためこの現実に現れた。ならば使命を全うするまで、たとえ対象が自分を作り上げた想像主であろうと!「タピオ、カーン!」黒真珠を握っっている右手に、力を込める。

「嗚呼!大王……!」 同時にアクズメも斬れやすいようにその場で直立し、両手を広げた。「私の罪に塗れた魂を、狩りとって……」

「タピオォ!カァーン!」

 シュン!黒真珠一閃!水平に繰り出された湾刀がアクズメの首を刎ね、そのまま3フィートに跳ね上がった!

「タピオーッ!カァーーーン!!!」

 ふと飛ぶ首級に、タピオ・カーンは腕をしならせて何度も斬って斬って斬って切り刻む!アクズメの首が空中でフルーツショップのスイカみたいに何枚の半月状に割られていく!

「タピィーンヒヒヒィーン!」

 ナイトメアが前足をあげて、残された胴体の胸に鋼鉄蹄を振り下ろす!ブレッシュ!肋骨を粉砕し心臓をタルタルステーキに変えた!これ魔術による復活もできなくなった。

「タピオ、カーン……」

 想像主の生命反応は完全に消えた。しかし、タピオ・カーンとナイトメイアは未だに存在している。タピオカーンは瞬時に理解した。アクズメが小説に通してばら撒いたイマジネイションはフォロワーのニューロンに錨を作り、彼らを存続させたのだ。

「タピオ、カーン」

 創造主への短く弔いを済ませ、タピオ・カーンは湾刀を鞘戻し、拍車をかけた。ナイトメイアは「タプルルン」と嘶いては雨のかなを走り出す。タピオカのあるところにタピオ・カーンあり。タピオカを侮辱する者がいる限り、タピオ・カーンの戦いが終わらない……

(おわり)

素晴らしきイマジネイションを提供してくれた遊行剣禅さんとマジでタピオカを作ったも桃之字さんに喝采を!


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