樹薯粉可汗
夜、大雨、埼玉県、秩父市近郊の山道。
稲妻は夜空をよぎり、道路を僅かな間照らした。そのど真ん中に抜刀状態でモンゴルナイトメア跨がるタピオ・カーン。転倒し、ひしゃげた二台のトラック、斬殺死体、そしてあたり一面に散らばったタピオカ、タピオカ、タピオカ!何が起こっていたというのか、聡明なる読者諸君は既にお気づきであろう。タピオカブームが去り、大量在庫に悩んだ悪徳業者はタピオカを、夜に紛れて山野に不法投棄を企てた。もちろんこれほど凶行を、澱粉神であるタピオ・カーンが見過ごせるわけがない。
ドーンクーンラッシャーーン!
「ARRRRRRRRRRRGH!!」
「タピィーヒヒヒヒーーン!!!」
雷鳴、タピオ・カーンの叫び、ナイトメアの嘶きの三重奏が響き渡る。雨粒が一人と一匹に触れた途端、ただならぬは殺気で瞬間に蒸発した。
「タピオォォォォ……カァーーン!」
雄たけびと共に、タプオ・カーンは愛刀ーー『黒真珠』を逆手に持ち、高く掲げた。柄に付けている黒真珠が暗黒の光を放った!地面に散らばったタピオカが蠢き、雨水と混ざり合って、粘り合っていく。なんたる面妖うな光景か!
稲妻が夜空を割り、瞬くの間山道を照らした。すると、嗚呼、なんと、積み上げたタピオカの塊がモンゴル馬、そしてそれに跨る弓矢と湾刀で武装した騎手となったのだ。
「兄弟たちよ!いまこそ目覚めよう!」
「ふるるる……」タピオカモンゴル馬が唸り、タピオカ騎手たちは痙攣したのち、目に意識の光が宿った。タピオ・カーンの操タピオカ秘法によって、タピオカの人形に自我を与えたのだ。
「カーン!」「大王!」「どうした、カーン!イクサか?」
「聞けい、我が兄弟。我々はタピオカの流行りと共に歴史になんども現れ、消え去った。台湾、香港、バンコク、上海、ニューヨーク、ロスサンゼルス、そして日本。人々は勝手にタピオカを祭り上げ、そしてブームが去ってはタピオカを邪険扱いして捨て去る」
「なんてことを」「赦せん」「過ちは繰り返す」
悲しげにつぶやくタピオカ騎兵たち。
「もはやこれ以上の言葉はいらぬ、大王!命令をくだされ!タピオカを弄ぶ愚衆どもに、私たちの剣と矢で思い知らしめましょうぞ!」
通常の1.5倍大きさのある弓を持っている豪壮な男が言った。
「タハオ兄弟に言う通りだ。これ以上の対話が期待できん本日をもって、タピオカは人類との全面戦争に入り……」
タピオ・カーン息を吸う。稲妻が空をよぎり、一団を照らす。
ドゥームグラーーン!!!
「タピオカ・ウォオオオオオー!」
「「「WAAAAAAARR!!」」」
雷鳴と共に、タピオ・カーンを含めて総勢56名の騎兵たちが一斉に得物を掲げ、ウォー・クライをあげた。まるで対馬だ!
「まずはふもとの街を落とすぞ!そして明日には都会に入り、未だに粉状態で眠っている兄弟たちを起こすのだ」タピオ・カーンはナイトメアに拍車をかけ、彼女は「ビップーーン!」と主人に応えた。
「我に続けい!」
「「「WRAAAAAAAAAAAAATH!!」」」
超自然なタピオカ騎兵たちは山道を駆けた。その第一目標は秩父市!タピオ・カーンはついに牙を剝き、人間の敵となった!モンゴル騎兵は再び日本を蹂躙する。日が出る国は陥没し、樹薯粉可汗国になってしまうのか!?
(おわり)
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