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チャーハン神炒漢:ノー・モア・ヌベッチャーハン②

目次

前回のあらすじ:
 餡かけチャーハンを注文したテツロー。しかし目の前に出されたのはヌベッとしたなんかだった。

(えっ、なにこれは?)

 皿の中にあるヌベッとした物体を見たテツローは訝しんで、店員に尋ねた。

「あの、僕が注文したのは海鮮餡かけチャーハンのはずなんですけれど」
「はい、これがご注文の海鮮餡かけチャーハンです。間違いありません」
「そうですか」
「ではごゆっくりどうぞー」

 視線をテーブルに戻し、テツローは餡かけチャーハンと呼ばれた物体と睨み込んだ。

(信じられない、こんな物、チャーハンだと言えるか?いや、だめだ。外見で判断するのはよくない。パラパラだけではチャーハンではない。餡かけ汁であえてチャーハンを濡らし、パラパラともちもちの食感を同時に楽しむ、それが餡かけチャーハンしかなし得ないワザ。調和、陰陽……ブルがそう教えてくれたじゃないか)

 一方、真剣な顔で餡かけチャーハンを睨んでいるテツローを見て、センチ美はレタスチャーハンをスプーンで掬い、口に運んだ。

(またこれだ。炒漢になってからチャーハンを食べるときはいつもそうだよ……まるで審査員みたいな顔して。昔はもっと話とかで盛り上げていたのに)

 友人の変化で一抹の寂しさを覚えるセンチ美。そしてテツロー、遂にスプーンを手に取った!

(どうするか、食べた後で決める。いざ!)

 スプーンがヌベッとした餡かけの表面にめり込み、カッと皿に当たった。スプーンでちゃんと掬えるそうだ。このヌベッとした物体はちゃんと米で出来ており、一個の固体ではないことを確認できた。ゆっくりとスプーンを引き上げて、適量のチャーハンを持ち上げる……

(これはっ!)

 チャーハンと餡かけの間に境界線が見当たらない!まるでいたずら妖精が「どうせあとで全部ま混ぜちゃうんだろ?お前のためにおいらが先に混ぜておいたぜ!」みたいな様相!鬼畜の所業!

(いや、まだだ。落ち着けテツロー!非チャーハン存在と決めつけるのはまだ早いっ!もしかしてこの店の仕様かもしれん。混ぜておいたから美味しく食べられるという心遣いかもしれん!チャーハンに寛容すべし!)

 そして震える手でスプーンを、口に運んで、口腔に入り、前歯を閉じ、、スプーンを抜く。最後にチャーハンを……咀嚼する!

 ヌベェ……ヌチャァ……

 咀嚼は僅か二回、テツローは口内のチャーハンを飲み込み、スプーンを皿のそばに置いた。その両肩は震えている。

「テ、テツローくん?(あっ、やばい。始まっちゃう)」
「よくも……よくもこんな物をチャーハンだと呼べるものだ……これは冒涜……僕に、炒漢に対する挑戦だ!正す、正したやる!センチ美ぃ!」
「あっ、は、はい!?」
「チャーハン神権限によりきみのチャーハンを徴収する!拒否権はない!」
「えぇ~!」
「嗄ァーッ!」

  テツローはまた2/3が残っているレタスチャーハンを皿とスプーンをごと攫うと、激しい勢いで貪り始めた!

(これじゃ間接キスになっちゃう!)センチ美の乙女心が働いた!あっという間にレタスチャーハンを片付けたテツローは席から立ち上がった。

[澱粉補充完了!ビタミンバランス良好、油分チャージはやや低め!水分が予想値より上!]

「チィーッ!レタスチャーハンも抜かしてやがる!仕方ない!嚇ァアアアーッ!!!」

 腰ためで両掌を前に突き出す運功姿勢で咆哮するテツロー!

「ちょっ、お客様ァー!?ぶわーっ!?」

 そこへ駆けつける店員、しかしテツロー全身から放たれた蒸気に阻まれる!

 シュー……やがて蒸気が散り、テツローが居た場所に程良く鍛えた赤銅膚の上半身を露わにしている男が立っている。重力に反してΩ形に曲げた薄い布はその身体に纏わりつくように浮遊している。下は袴のようなボリュームのあるズボンとカンフーシューズ。そして頭髪は……なんと、ガスコンロが弱火にする時の青色になっている。チャーハン神炒漢……弱火モード!

『くそっ(食事の場所でくそとかいうな)、水分のせいでパワーがダウンしたか……!』

 炒漢は不満げに言った。

 店の奥に、一部始終を見た、顔が異様に赤いメガネを掛けた男がわかめスープを啜った。

(つづく)

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