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偽装アプリに気を付けよう のあと

 どこまで話したっけ?あー、そうそう。「親子丼にしよう!」とか言って、野郎は包丁を持って息子に襲いかかった。さすがに肝が冷えたよ。しかし息子がどさくさバットをスウィングしてウーバー野郎の包丁を叩き落とした。野郎は指が骨折でもしたのか、苦しそうな顔で右手を抑えて痛がり始めた。それがチャンスだと思った私は根性を振り絞って、無事の左手でデリンジャーを拾った。出来るだけ近づいてトリガーを引いた。野郎の胸に2発入れたら奴が動かなくなった。床に血の小池が広がった。

 成し遂げた私は放心状態になって、壁にもたれて座り込んだ。すごく疲れたしすごい寒気を覚えた。意識が朦朧していて、救急隊員が来て、酸素マスクを被せて、落とされた指がチャック袋に詰められて、救急車に運ばれて、手術室のやたらまぶしいライトで目が痛く感じて、頭の上に医者がなんかしゃべった。そして気づいたら病室で寝かされて、右手がギプスで固定されていた。医者の説明によれば傷口がキレイだったから指を縫って繋げたと。そして元のように動けるかどうかはリハビリ次第でと。

「うわぁ大変だねー。しかし家のあちこちに武器を隠しておくのが正解でしたね!備えあれば憂えなし、孫子先生の教えがいつでも正しいねアハハッ!はい、あーん」
「……自分で食べれるから」

 無事の左手で夫からスプーンを奪い、口に運んだ。ハーゲンダッツの天才的配合で練り上げた甘みが舌上に広がる。

「おい容疑者!尋問の最中だぞ!なにアイスクリーム食べてるんだ!殺人を犯した自覚があるのか!?」

 ベッドの左、ドアの側に立っている女性の刑事が声をあげた。灰色のスーツに包まれたスレンダーボディ。スポーティなショートヘア。なんかキックが強そうな印象。

「おや?いけませんね刑事さん、勝手に罪状まで決めちゃってさ」夫が立ち上がって、手を腰当てて反抗的な態度で言い返した。「正式な裁判を経て審判が伝われるまでに容疑者は前提的に無罪ではなかったですか?そんなことより、あのいかれたアプリのリリースを許可した企業の方を調べたらどうです?それともあれですか?企業がようやく司法を凌駕した的な?警察機関が企業の走狗になりました?」
「貴様……!侮辱罪で逮捕されたいかァッ!」
「やめるんだ」今にも突っかかってくる女デカを、もう一人の中年の男性刑事が制した。「アイスクリームぐらい、好きなだけ食べさせなさい」
「先輩ッ!しかし奴は公権力を舐めやがりましてッ」
「きみはLAW&ORDER見たことあるかね?」
「……はい?」
「刑事法廷ドラマの金字塔、LAW&ORDER。刑事は事情聴取中であろうと、決して相手の仕事を邪魔したりしない。きみにもあれぐらいの余裕を持ってほしい」
「あっはい」
「全シーズンのBlu-ray持ってる。今度に貸そう。みたあとは感想文提出するもうおう」
「はぁ」

 女デカの表情から先ほどの勢いが失った。これなんというか、ドラマでパワハラ?略してドラハラ?ドラえもんの親戚にいそうな響きだな?とにかくご愁傷様。

「今日はこれぐらいにしておきましょう。企業の件については検事に検討してもらいましょう。でも貴女には容疑者である自覚を持ってほしいのはご最もです。病室の外に警官が待機しています。診察以外に無用な外出は基本禁止となります。ご理解願います」
「わかってますよ刑事さん」私はギプスを巻かれた右腕を挙げてみせた。「また手が痛えし、抗菌薬と痛み止めで頭フラフラしてんから大人しく寝ててますよ」
「そうしてください。では」

 中年刑事が会釈し、女デカはこちらにメンチを切ってから出て行った。

「うーん。そんじゃ私ももう行こうかね。弁護士を手配しないと、我が愛妻を救った大英雄におもてなししないといけないね!忙しくなるぞ!」
「あぁ、色々大変そうだけど、家のことは頼むよ。ガキは注意しないと水の代わりにコーラガバガバ飲むから気を付けて」
「イエス・マ厶!あっ、何か欲しいものがあったらいつでも言ってね。あともし病院の給食が不味かったら、私のカードで配達恃んでいいよ。Uber Eatsとかでさぁ」

 意地悪そう笑らう夫。私は反射的にテレビのリモコンを投げつけようと右手を伸ばしたが、その動きが傷に触って、しらばく悶えた。

(おわり)

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