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【剣闘小説】ゴースト・イン・アリーナ

これまでのあらすじ:
セリス・アン・クライトと共にスピカローグの族長ウルダリックに取り憑いた悪霊・ヒムを退治したゲラルト。セリスと別れを告げ、彼はスピカロークの北にある、闘技場のある村ボウに足を運んだ。

「わしは勝った!またまた現役の戦士だぞ!」
「へぇー。ちなみに爺さんはだれに勝ったんだい?」
「不運のウルだ!一撃で奴の胸倉を貫いたわい!」
「爺さんよぉ……誰でもあの幽鬼に勝てるって知ってるよな?」

(幽鬼だと?)ウィッチャーの澄まされた聴覚はそのキーワードを聞き逃さなかった。ウィッチャー向きの仕事があるかもしれない。

 道の向こう、岬のそばに丸太で出来た塀が目に入った。その隣に監視塔兼観客席用の台が建てられている。ゲラルトはそれに登り、守衛と話をつけた。

「無論不運のウルを祓ってくれたら、報酬は弾むぜ、ウィッチャー。できるものなら」

 ドングリ形の兜を被った守衛が言った。

「やってみよう。その幽鬼……ウルについて教えてくれないか?」
「いいぞ。俺もこの話を教えるのが大好きだ。俺の爺さんのまた爺さんの代から、ウルは連戦連敗、戦士の底辺だった。ある日恒例の競技会が開かれた。くじ引きで当時の族長トルマールがウルと対戦することとなった。勝利を確信した族長はウルをあざけり、観客はみな笑い転げた。我慢の限界に来たウルは族長が観客に向い両腕あげて勝ち誇っていた際に、その背後を短剣で刺した!戦士にあるまじき行卑劣!族長は死に際にウルを呪った。数百年の先、貴様は負け続けんことを。それ以来ウルはこの闘技場にとりつき、勝利を求める男と女の剣の的になったのさ」
「Hmm……呪いから産まれた幽鬼か」
「こっちに被害を加えないけど、やはり邪魔くさいんだよな。奴が消えてくれれば、この村はまた元通りの競技会が開かれるだろうよ」
「分かった。すぐに取り掛かろう」
「頼むぞ。入り口はそこだ。いつでも入れる」

 闘技場前、ゲラルトは荷物からオイルが入った小瓶を取り出し、布に濡らすと、丁寧に剣を塗布しはじめた。

「ほほう、それがウィッチャー秘伝のオイルってやつかい?」
「幽鬼のエッセンスとやどり木の精油から作ったものだ。幽鬼に効く」
「へー、さすがはモンスタースレイヤー、用意週道だぜ。でもよぉ、相手は誰でも勝てるあの不運のウルだぜ。オイルはもったいないかもな」
「相手は誰であろうと油断しない。ウィッチャー業を長く続けるコツだ」
「ハッ、あんたがそう言うなら」

 剣にオイルを塗り、霊薬も飲んだ。準備万端のゲラルトはゲートを押し、闘技場に入った。その中央に、暗闇で出来た人影が居た。

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 幽鬼ーー不運のウルは気迫を感じさせない声で言い放った。

『それと、「幽鬼め!死ね!」「闘技場の幽鬼よ、いざ行かん!」など臭いセリフは言ってくれるなよ?死ぬほど聞いてきた。うんざりしている。おれは死ぬことないがな』

 ゲラルトはじっと勇気を見つめた。彼の長いウィッチャー人生の中たくさんの亡霊と出会い、退治してきた。しかしウルのようなケースは初めて見た。

「おまえ……幽鬼にしては変わってるな」
『それがどうした?おまえの剣では俺を殺せない。すでに死んでいるからだ。斬られたところで、明日の朝には復活する……ここに居座って、世界の終末まで負け続ける。それがおれが受けた仕打ちだ』

 幽鬼の口調には悲哀と諦観が混じっていた。

「そうとは限らんぞ。ウィッチャー流のやり方はまた試されていないだろ?」
『ウィッチャー?あんたが?ほう、なら少しは期待できそうだな。じゃ、やるか?』
「ああ、やろう」

『ラァーッ!』

 ゲラルトは剣を中段に構えて、相手の出方を伺った。対してウルは右手で手斧を掲げ、一直線に突っ込んできた。ウィッチャーの強化された視覚がなくてもその動きは隙だらけだとわかる。

(だれでも勝てるか。なるほど)ゲラルトは振り下ろされた手斧を剣で弾き、胸板が丸出しのウルにショルダータックルを叩き込んだ!

『ヴッ』

 ウルがよろける!ウィッチャーはその隙を狙い右足のつま先を軸に一回転し、遠心力を乗せた斬撃を繰り出す!刃がウルの右わき腹から左胸まで抉った。

『グッ、ウオ!?』
「どうだ?精油は効いただろう」
『グ、フフフ。惜しいな。ウィッチャー。駄目みたいだ』
「……」
『勝利おめでどう。また明日』

 ウルはそう言い。朝の霧が昼の太陽を浴びて消えるように散った。

「Hmm……」

 ゲラルトは唸り、剣を鞘に戻した。

⚔🐺🐴

 同日夜、酒場。ゲラルトはカードを片手に、ショットグラスに口を着けながら幽鬼のことを考えていた。

(オイルも銀は奴に聞いたが、消滅するまではいかなかった。これだから呪いが面倒なんだ) 

「おい、ウィッチャー!何ボーとしている!お前の番だ!早くカードを出しやがれ」

 グエントの対戦相手、手に魚の脂と鱗で汚れて、潮と死んだ魚の匂い漂わせた漁師風の男はゲラルトを催促した。

「ああ、すまない。ダンディリオンを出し、近接ユニットの攻撃力を二倍にする」
「そう来たか!ならこっちもワイルドハントの王の能力を発動!接近ユニットの攻撃力が二倍!さらに妖婆ウィーヴィスを設置!デッキから妖婆ウィスぺスと妖婆ブリュエス をフィールドに召喚!どうよこの接近ユニットの壁!」

 漁師風の男は興奮気味でカードをめぐり、テープルにセットした。その度にカードは指に付いた油で汚されていく。

「くそ、カードを温存していたのか」
「これで俺の攻撃力をは100超え!負けを認めたらどうだ?」

(なんてな、実はこういう時のため寒波を備えていた。ん?負けを……認める?)

「その手があったか!」
「ウオッ!?」

 いきなり大声だして椅子から立ち上がったゲラルトに漁師風の男は驚いた。

「俺の負けだ」

 ゲラルトはカードを片付け、ポケットから賭け金のコインを男に投げ渡すと、残りのウォッカを一気飲み干した。

「これで酒でも買うといい。じゃあな」
「お、おう!やったぜ!ウィッチャーに勝ったぞ!」

⚔🐺🐴

 翌日、早朝。ゲラルトは再び闘技場に立った。

『またおまえか。そんなに弱い者いじめが面白いのか?』
「ああ、おまえがこの地に縛られる原因が見えてきた」
『衛兵から聞いてなかったのか?おれはトルマールに呪われて……』
「おまえは腰抜けだからだ」ウィッチャーの猫みないな黄色い目がウルを見つめる。「俺が知ってるスピカローグ戦士はたとえ巨人と直面しても果敢に剣を抜いて立ち向かう。おまえはそのはしぐれにも入れない。ただのカスだ」
『……言葉を選んだほうがいいぞ』
「痛いところを突かれて気が損したか?おまえはどうしょうもないカスだ。誰もがおまえを舐め切っている。子供はおまえを指さして笑い、略奪に出れなくなった老人は棒でおまえを打ち倒し、気を晴らす」
『だから、それが我に掛かれた呪いであり……』
「喚くな、カス。俺があんたの父親なら、赤ん坊の時おまえの首を絞め……」
『ウォォォー!!!』

 我慢できなくなったウルは斧でウィッチャーに襲いかかった。昨日と違い柄の真ん中を握り、リーチを減らす代わりに速度を増した斬撃を繰り出す!ウィッチャーは剣で防御!カッ、斧柄と剣刃が切り結んだ。

『ヌゥ!』「ムッ」

 ウルが放った前蹴りがゲラルトの腹を捉えた!殺意を籠もった重い蹴りでウィッチャーはバランスが崩れ、後ずさった。ウルは更に追撃!体制を直していないウィッチャーの顔に拳が命中!鼻血が飛び散る!

『おれの勝ちだぞ!』
「そうらしいな。おめでとう」
『でもなんで?永遠に負け続けるはずじゃ……』

 ウィッチャーは手の甲で鼻血を拭き、立ち上がった。幽鬼は不思議そうに耳のそばに手を添えた。

『何か聞こえる……』

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『そうか、そういうことか。勝利を譲ってくれたな』
「永遠に負ける呪いに対抗して、わざと負けてやった。ひと肌脱いだ甲斐があったみたいだ」
『だからわざとおれを怒らせて、本気を出させたのか……解放してくれて感謝する、ウィッチャー!これでやっと先祖のところへ行ける』ウルの声には安堵、そして喜びが満ちた。『あんたの旅路に、神々の祝福があらん事を』

 と言い残したウルは今度こそ、完全に消えた。

「さらばだ、亡霊よ」

 朝の暖かい陽ざしが白髪のウィッチャーの白髪を照らした。あたかもフラヤが今日最大の勝利者を祝福するように。

⚔🐺🐴

ーカードダス時空ー

「めっっちゃ……しみる話じゃねえかよ……!」

 スターハーモニー宿舎、11:34pm。布団の中でノートブックを開いてゲームしていたDOOMは感極めて、ベッドから飛び出し、クローセットの奥深く`に隠した模造グラディウスを取り出し、技を繰り出した!

「ヘッ、フッ、ヒャアーッ!」袈裟!突き上げ!回転斬り!とっくに消灯時間が過ぎているのに非常識行為!さらにウィッチャーのつま先回転を真似して右足を踏み込むその時。

「ボホワッッ!」

 横から枕が飛来し頭部に命中!重い低反発ジェル材質がブラックジャック殴られたような衝撃をもたらした!昏倒!

「うるせえよ」

 向こうのベッドで、ルームメイトのあやは眠たそう起き上がり、枕を回収した。

(この作品はThe Witcher3:Wild Huntのサブクエスト、<闘技場の主>を元にして改編した二次創作です)

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