報復の王子

ツバメが死んでから2ヶ月が経った。

街の広場では依然として王子の像が佇んでいた。錆に蝕まれ、身体中に「アホ」「Unhappy」「救いはない」「インポ王子」など落書きだらけなりながらも、像は撤去されることがなかった。

像の撤去は金がかかる。像のひとつやふたつに予算を使うなど、この国の財政に余裕がない。

(ボクはなんて愚かなんだ……!)

変わり果てた姿になっても、王子の自我は健在であった。サイファイアの両目を失くし、もはや目視することもできないが、王子は町の様子を魂で感じ取れた。

病気の子供がいる貧しい母親は王子の剣に飾っていたルビーを持って医者に訪れるも、医者はより医療費を搾取するため適切な治療を行わず病状を長引かせている。

片目のサファイアをもらった若い劇作家は筆を投げて売春宿に入り浸り、散財したのちに淋病をもらって惨めな生活に逆戻った。

マッチ売りの少女に与えたサファイアが彼女の父親に没収されて酒と賭博に充てられた。人々は刹那の快楽を求めて金箔をわずか数グラムの麻薬と引き換えた。王子とツバメの献身も虚しく、街は堕落の道へ辿る一方。

(ボクは浅はかだった。人間がこれほど欲深く救いがたいとは知らなかった!身動きとれない像は、宝石のひとつやふたつで、世直しなど聞いて呆れる!そのうえにキミまでが犠牲になってしまった。ツバメよ、済まぬ……本当に済まぬっ!)

全てを失い、王子の心は後悔と自責の念に満ちていた。

(おお神様よ、なぜボクに自我を与えのです!像の中に魂が閉じ込められ、動けぬまま、永遠の苦しみに悶えていようとでも言うのか!?とても耐えならない!いっそうボクを粉々に壊してくれ!もしくは動ける体にしてくれ!)
「その願い、叶えてやろうか?」

ぶぉん、ぶぉん、羽音と共に、一羽のツバメが王子の肩に降り立った。通常のツバメより二周りも大きいツバメが。

「初めまして、哀嘆の王子。私はシリエル、ツバメの母です」

(続く)

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