今年も回ってくる
「ただいま〜」
「アッ!父さんおかえりー!」
玄関に上がって間もなく、息子が駆けつけてきた。はにかむ顔、体は落ち着きがなく動いている。何を考えているか丸わかりよ。いつもは出迎えてくれないのに。現金な奴め。でもかわいいからいいや。僕はバッグから紙袋を取り出した。
「はい、プレゼントね。メリークリスマス」
「メリークリスマス!ありがとう!開けていい?」
「どうぞ」
息子は仕留めたエサにありつける肉食獣のように包装を剝げた。
「わっ、ルシファージエンドだ!やったぁ!もう発売から二週間経ったけどありがとう!」
「発売二週間経てやっと店に回り始めたんだよ」
家にいる時間が増えたせいか、なぜか2020年はバトルホビーの入手が困難の一年でもあった。新商品が予約解禁してすぐ売り切れたり、店舗に商品が回らない状況はしょっちゅあった。
「すぐ組立ててくるね!」
ヒョッと自分に部屋へ走った息子を見送って、僕は玄関に置かれアルコールの瓶を二回押して手を消毒して、キッチンに向かった。
「メッリ~くりすまーす!ハニー」料理している妻を肩を抱いて、頬に軽くキスした。
「あっ、ちょっと危ないって!」
「ごめんごめん。でも今日のディナーがどんな内容か知りたいな~」
「ふふっ、聞いて驚け。今晩は鰻重よ!」
「なんと!?まさか、君が焼いたの…?」
「なわけないでしょう。専門店から買って来たのよ」
「だよねー!」
「でもアナゴの天ぷらも作るからさ、もう待っててね」
「なんと!淡水のイールと海水のイール、一遍に楽しめるなんて、イール尽くしじゃないか!ありがとうハニー!」
「ちょっと抱きつかないで!危ないから!」
「お父さん!」息子がキッチンの入り口に立っていた。その手には僕から貰ったプレセントが握られている。
「バトルしようぜ!こいつの強さを確かめたい」
「えー、でもすぐ夕食だし……」
「いいよ。あと五分でできるから。それまでにね」
「ねぇ!バトルしようよ!」
「ああ、わかったよ」
息子の後について、僕らは遊戯室に入った。
「ダッシュスタジアムでやろう!」
「もちろんOKさ王子様」
「おれはルシファーを使うぜ!」
ルシファージエンド.皇.Dr、限界突破(リミテッドブレイク)機能を搭載した完全防御!という売り文句のベイだ。
「じゃあ僕はこれだ」
「ブシンバルキリー.Bl.Fr.斬で、立ち向かうぜ!」
「えーGTベイで超王ベイとやるの?楽勝じゃん」
「あまいぜ坊主……ベイブレードの奥深さと、大人の力を見せてやるぜ……」
「じゃ、お父さんはハンデで先にシュートしてね」
「ナンデ!?アーはいはい、すべては王子様のオオセノトオリニー」
「じゃあ行くよ。3、2、1、GO……」
「シュートッ!」
「むむ……このおっさん、やりおる……」
「いやお父さんだろぉ?にしてもルシファー持久力あまりないね。ディフェンス同士でスピンフィニッシュ負けとは」
「まただ……ルシファーがまた本領を発揮していない……」
「お二人とも、ご飯できたよー」リビングルームの方から妻の声が聞こえた。
「あっやっべ。早く行かないと母さんがキレるよ」
「このままでは終わらないッ!夕ご飯のあと続きやろうよお父さん!」
「あいわかった」
大好物のイールを食べて、皿洗いが終わったらまた息子とバトルしよう。ベイブレードは体力を使うから、息子はすぐ眠くなるだろう。息子が寝たら、妻と晩酌して、暖かい布団に入ったら、もう一戦だ。
ああ、今年のイブも最高に楽しい。
ブシンバルキリー.Bl.Fr.斬、以外と強いので試してみましょう。あとこのnoteはフィクションです。
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