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辛い麺メント IN TOKYO① #ppslyr

前回の辛い麺メント この直前の話

 夜、新橋駅、レイヴンフォレストゲート。

「ドーモ、クリス・エヴァンです」
「よっ、A・K。思ったより早かったじゃないか!てか衣装決まってんね!」
「そっちこそ、ワインレッドのライダースーツとかまるで特撮の主人公じゃねえか」
「ハッハハ!これが辛い麺を食べるときの正装よ!」
「二人とも早かったな」
「「R・V!」」

 俺とM・Jが合流して間もなく、新たなパルプスリンガーが集合地点に着いた。黒いドレンチコードに黒いシャツ、黒いパンツ、黒いアーミーブーツ、ネクタイまで真っ黒の男、その名はR・V。冒険家、問題解決屋、ヴィジャランティ、哲学者、そして小説書きだ。彼が作った伝説は数えきれない。最近はまっくろくろすけのニックネームを得た。

「久しいなA・K。なんかもう……4ヶ月ぶりか?」
「A・K?誰のことです?私はクリス・プラットだよ?」
「えっ」
「それはA・K最新のボケみたいだ」
「そうか。驚いた。そいえば今日はいつもの唐装ではなくスーツか。一層イケメンだぜ」
「だろぉ?いつも言われてんわーハッハ!」
「OK落ち着け、注目されている」
「おう!皆もう着いてんな!」
「「H・M!」」

 続いて駅の向こうから歩いてくるルチャドールズマスクを被り、11月下旬雨の夜にもかかわらず半袖Tシャツとジーンズしか身についていない屈強の男レスラー。生まれながらのエンターテイマー、暴力の申し子、H・Mだ。俺は一歩前に出し、彼にアイサツした。

「ドーモ、クリス・ヘイムズワースです」
「お、おう?」
「それがA・Kが気に入ったボケだそうだ」
「そうだったか。にしても相変わらず声渋いね!」
「だろぉ?いつもそう言われる!」
「H・M、K/Rは同行していないのか?」

 M・Jは尋ねた。そういえばあの少女型アンドロイドの姿が見られない。

「ああ、彼女は留守番だ」
「えーざんねーん。お近づきになるチャンスだと思ったのに」

 と呟いた俺に、H・Mは手を左右に振った。

「駄目だ駄目だ。野郎どもの席に女子一挟んじゃあ碌なこったぁねえ。仮に来たとしても、A・Kの度胸じゃあ緊張しすぎて言葉発せないんじゃないか?んん?」
「どどど、童貞だからな!」

「「「「HAHAHAHAHAHAHAHA!」」」」

 豪快に笑う四人。

「これでまた来てないのはS・Gだな。もう近くにいるとメッセージが来てるけど……あぁん?上空?どゆこと?」
「おい、あれを見ろ!」
「What?」

 R・Vが指さす駅前広場、その上空に、白い光球がゆっくり降下してく来ている。我々だけでなく、行き来するサラリマンもその神秘的な光景に見入って、スマホを取り出して撮影し始めた者も居る。

 光球が近づき、中に人がいることが視認できた。俺の三分刈り坊主頭を上に行くスキンヘッド、オレンジ色のカンフー・モンク装束。そんな格好の人、知人の中で一人しか知らない。

其人 綻放光明 從天而降

『皆さん、お騒がせ、申し訳ありませんでした』

 S・Gごと、ジュクゴマスターは駅前広場で着地した。左腕に刻まれた「天降神兵」のジュクゴが青白いは光を放っている。それが彼が持った力、熟語に秘めた力を文字通りに再現し、現実を現象を起こすという神秘的な力だ。そしてそのパワーといえば、いや、説明より、実際見てみるのが早いだろう。今彼の左頬に刻んだ「滴水不沾」の効力で、そのジュクゴを中心に1.5mの空気の膜が生成し、雨を弾いている。光って見えるのは光線を反射した結果か。

『私の名はS・G。またの名はジュクゴマスター』

 S・Gは懐から筆ペンを取り出し、書道用紙も使わず、空中筆を振りはじめた。その背後に浮遊する四本腕のタコ型ソウルアバターが出現し、その動作をトレースする。

『シャァーッ!』

 最後の一筆を力強く振り下ろし、筆ペンをぐるぐると回して懐に収めた。同時にトレースを終えたタコロボットはS・Gの前腕にタトゥーニードルを備えた触腕を伸ばして、刻印!S・Gの右腕に「雨過天晴」のジュクゴ力が宿った!

『ヌゥウウウウ……イィィヤァアアーー!!!!』

 ZOOOOOOOM!!! 

 空に向かって、拳を撃った!拳から放たれた「圧」が天に昇り、分厚い雨雲を貫き、吹き飛ばした!駅前広場を中心に、半径3kmの晴天が出現した。

『金曜日の夜、雨だとすこし気が落ちるでしょう。私なりのプレゼントです』

 S・Gは「雨過天晴」のジュクゴ力を完全に再現した。ジュクゴ力の達人は容易く自然の摂理を変えることができる。そのためS・Gは強者が集まるパルプスリンガーの中でも最強だと囁かれている。俺からすれば彼以上に強い奴はこの太陽系にいないじゃないかと思っている。

「あ……あぁ……雨が、止んだ」 月が顔出す空を見上げて、M・Jは茫然と呟いた。「それ、俺の役目のはずだったのに……アマノミナトォ……」

『やあ、皆さん。お待たせしました。S・Gです』

 いつもの間にそばに来たS・Gは掌を合わせ、奥ゆかしくアイサツした。

『それでは、辛い麺を食べに行きましょうか』

(続く)

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