適当にカレーを作ったら僧侶に大うけだった

支配者の仏道における師匠的存在である佛母がいる。

本人に会ったことはないが、話を聞く限りでは彼女はチベット密教の相当偉い人で、法王ごとダライ・ラマに仕えているが、中国政府に身の安全を脅されているため故郷を離れ、今はインドや北米各地に転々して宗教活動に勤しんでいるらしい。

身分のあるやつは多少に自分の経歴を盛るのでこの話は信じないようにしている。加えてことあることに放生会を催してはこれから放つ魚や鳥はお経を聞かせてあるので業者に捕まって再利用されることがないし生態系を乱すこともないととんでも理論をかましてきくる、俺と価値観の対極にあるような人物。関わらないほうが吉だと思って支配者から何回か引見したいと誘われたが拒否し続けてきた。

そんな佛母この間みなみの国にやってきた。信者が所有している家に泊っていた。しかも支配者の家に結構近い。何らかの成り行きで支配者が数日間、佛母に食事の世話を任せれた。

佛母は高位のチベット僧なので肉が食べられない、さらに何らかの疾患があって辛い物やきのこなどの菌類が食べられない。ベジタリアン料理は干し椎茸から得る旨みをかなり重宝にしているので、それがないとかなりの縛りプレイになってしまう。支配者は毎日なにを作ってさしあげるかに苦心して息子である俺にメシを作る余裕もない。一週間に3回ぐらい晩メシがインスタントのジャージャー麵で済ませた。乾燥野菜も入ってない純粋な炭水化物でとてもおいしかった。

「アクズメさんくん、カレーを作ってくれない?佛母に献上したいの」

えぇーと思いながら承諾した。なにせ俺はいい歳して自立しないで実家に棲んでいるフリークだから、ある程度支配者に従わないといけない立場である。

「やった!じゃ必要な材料買ってくるね」

そう言って支配者からにんじん、じゃがいも、玉ねぎ、そしてヴィーガンカレールウを渡された。HOUSEやS&Bなど大手ではなく、国内のオーガニック食品店がオリジナルに開発したルウだ。

だるいけど作っていくぜ。まずは玉ねぎを細切れにして、油を引いた鍋にぶち込む。それからじゃがいもとにんじんを小さいブロック状に切っておく。玉ねぎに褐色が付いたらいったん別の器に移し、今度は油を多めに入れてじゃがいもとにんじんを炒める。いい感じになったら玉ねぎを戻して、水を加える。沸騰するまでゆでる。いい感じになったらルウを投入し、この間日本で購入した伯方の焼塩を少し振って味をととのえる。適当のヴィーガンカレーが完成。

ヴィーガンカレーつっても玉ねぎをが入ってるので五辛がだめなブディストからすればアウトだけど佛母とその侍従たちは別に気にしていない模様。宗派は違う規範もいろいろ変わる。

自分で食べてみたけど、辛味がなく刺激が足りない、可も不可もないつまらないカレーだった。カレーを持って行った支配者が帰ると、カレーが大変おいしくて佛母がおおいに喜んだと言った。インドのカレーより全然おいしくてまた食べたい、レシピを書いてほしいだって。マジか。自分は作った料理が褒められて悪い気がしないけどよ。上述の通り特別なこと何もしていない。野菜を素揚げしなかったし追いスパイスもしなかった、普段自分が食べるカレーよりかなり手を抜いている。それで気に入ってもらえるとは光栄だよ。たぶん俺の腕じゃなくてルウがお口に合ったかな。ルウがまた残っているし今度は肉もスパイスも入れて自分好みに作ってみるよ。

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