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チャーハン神 炒漢④

 搾取される日々。

 当然店長は反抗の手段を考えた。しかし監視カメラのハードディスクが叩き壊され、スマホで録画したらスマホが踏み潰され、弁護士の常連客に相談を持ちかけようとしたら彼の息子の名前から通っている音楽教室のスゲージュール表まで読み上げられて、あの日以来店することなかった。実力で追い出すと試みたジムに通っているもう一人の料理人は内力責めで脈絡が乱され、二度と鍋を振れない体になってしまった。最後にここの従業員は自分と一人のバイドになった。

 店長は死んだ目で鍋に油を注いだ。前腕と肘が疼くてたまらない。ずっと倍のチャーハンを作らせられたせいだ。自分のいずれは師匠みたいに、鍋を振りすぎて肘を壊して、料理以外に才能もなく途方を暮れ、安アパートの隅で人知れずに死ぬだろう。いや、その前にあの妖女に殺されるかもしれない。

「おいおいなにボーとしてんだい?客とおれが待ってんだぞ。シェフとしてかつ喝を入れてやろうか?」

 暴力を振るうべく麺棒握った半鼎魔。その時である。

「小鬼(シャウグィエ)め、魔を名乗って場末のヤクザ者ごとくに振る舞うとは滑稽な事よ」

「ッ!!?」

 すかさず声の方向へ麺棒を投擲した半鼎魔。厨房の入り口近くいる席銅色膚の男、炒漢がそれをキャッチし、隣の店員に渡した。

「てめえ……何モンだ?」

 問いかける妖女。

「わたしは炒漢。チャーハン神炒漢だ」

 ゾォーー!一歩前に出て名乗ったと同時に、清らかな風が外から注ぎ込み、厨房の淀んだ空気をリフレッシュさせた。センチはちょこっと首を伸ばして扉越しに厨房内の様子を伺っている。

(チャーハン神炒漢……)店長は心の中でその名前を反芻した。完璧に仕上げた北京ダックめいた赤く輝く膚、炎のように揺れる赤橙色の頭髪、バターを惜しまず投入して作ったオムレツのような金色の目。彼の料理人シックスセンスが瞬時目の前の者が半鼎魔に合い半する聖なる存在だと感じ取った。(ナムアミダブツ、天は俺に使者を遣わしたのか!)

「聞いたことねえな」磁石包丁立てから柳刃包丁と肉切り包丁を取り、構える半鼎魔。「誰だか知らないが、おれのシマを勝手に入った以上生きては返さん。切り刻んでチャーハンの具にしてやるぜ」

「当然わたしも料理人を苦しめ、チャーハンの名誉を汚した貴様を許すつもりはない。来い」

「ホザケーッ!!」先に動いのは半鼎魔!右手に持っている肉切り包丁の踏み込みからの上段斬撃!

「呼ゥー、嘯ォーッ!」炒漢は深く呼吸し、丹田から生み出した内力を経脈を経て右手に集中!瞬時に炒漢の右手が焼けたのように赤熱化!少林絶技ーー火雲掌である!「颯ァー!!」水平に繰り出したチョップが肉切り包丁を溶断!ツァ!包丁の上半部がタール材質の壁にめり込む!

(派手な技使いやがって!)半鼎魔は炒漢の腹に目掛けて柳刃包丁を突き出す!体重と体回転を乗せた包丁の先端が音速突破!バッッッシュ!ソニックブームが響く!包丁が炒漢の腹部を深く刺さり、内蔵をえぐ……らなかった!見よう、中腰ため姿勢に踏み込んだ炒漢の腹部が柳刃包丁の受けながらも、赤銅色の肌は傷一つなかった。これが少林内功絶技、金鐘罩である!

「なに!?」狼狽えて見せた半鼎魔、しかし彼女は内心に喜んでいた。(知ってるわ。金鐘罩の最大な弱点を)目標は炒漢の股間、男性最大の弱点、骨と筋肉に守られていないキンタマは内功による肉体を硬化する金鐘罩が唯一守れない部分。

「トッタリーッ!」半鼎魔の美腿が思いっきり炒漢の股間の股間を蹴り上げた。中腰体勢ならなお狙いやすい。しかし次の瞬間、勝利への確信が怪訝に変わった。ないのだ。男の股間にあるはずの物がない。炒漢は両足を交差し、妖女の足は挟んで拘束した。

「バカな、おまえ」半鼎魔は驚愕で目を見開いた。「女、だったのか?」

「己の秘技自らを敵に教えることなかろう」

 説明する気がない炒漢。しかし読者さまにはそうは行かない。股間への蹴りを予測した炒漢は金鐘罩の最高境地「縮陽入腹」で生殖器を腹の中に収納したのだ!

「クソ!この!この!」右足が男の太ももに挟まれた状態で両手を振り回して攻撃を試みる妖女、しかし足よりリーチが短い手では当然届けない。その慌てようがかわいげすらあったが。炒漢は彼女に無慈悲の視線を投じた。

「仕上げた。呼ォォォォ……」炒漢は深くそして長く息を吸った。空気が入ることに連れて見事に割れていた腹筋は飽食したツノガエルのように膨らんだ。そして。

「忿ーーーン!!」

 BOOOM ! 青白い火炎が炒漢の口から噴射され、半鼎魔を包んだ!

「ギャアアアアアアア!!!」

 悲鳴をあげる妖女!

「み、店がぁーー!!」

 悲鳴をあげる店長!

(続く)


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