愛の重さは体重並み、ヤンデレックス
「え」
意外な言葉を耳にして、7トンに及ぶ巨体がビクッと震えました。
「今、なんて?」
「もう別れよう、このとおり!」
制服姿の少年が90°のお辞儀をしました。彼は187㎝の長身だが、身長5メートル彼女と比べると人間に対するチワワのような小さい。
「あぁ……どうして」
「俺、いろいろ考えたけど、やはり無理なんだ。人間と恐竜が結ばれるなんて、あり得ないんだよ!」
「えーーっ!!?」
晴天の霹靂!ピンク色の可愛らしいドレスを着たティラノサウルスは驚くあまりに口を大き、生え揃った鋭い牙を露わにしました。彼女の名はヤンデレックス、人間にガチ恋するティラノサウルスの女の子です。
「ど、ういうことなの!?わたしがなにかいけないことしちゃったたら話してよ!ヒュウガくんのためならわたしなんでもっ」
「……そういう問題ではないんだ!」
ヒュウガと呼ばれる少年はヤンデレックスの言葉を遮りました。
「たしかに俺は恐竜が好きだ。初めてヤンデレックスが前の目に現れた時、運命的な瞬間だと思った」
「わたしもそうよ!初めてヒュウガくんを見た時、この人はわたしの運命の人だって」
「しかし俺ががきみに対する好きな気持ちは子供がゲームが好きぐらいの感覚でしかなかった。いわば嗜好だ。結婚して家庭を築きたい意味ではない!俺は俺のよりサイズが小さい、普通に性行為もできる人間の女性しか愛せないんだ!」
「性行為なら舌でしてあげたじゃない!気持ちいいっていったじゃない!」
「アレは本当は怖かったんだよ!あんな恐ろしい歯を見せられて、生きた心地がしなかったよ。性的興奮で達したというより、動物のオスが死に際に少しでも子種を残そうと本能的射精したていうか」
「そ、そんなぁ……ぐすっ」
ヤンデレックスの声に嗚咽が帯びはじめました。
「わたし、ヒュウガくんのためにいろいろ頑張ったよ?焼肉食べたいと言ったから牧場から和牛を捕ってきたし、抗争相手の他校の不良もぶっ殺したよね?」
「その都度は本当に、感謝でしかない!しかしこれはこれ、それはそれです!」
90°お辞儀の次に、ヒュウガくんは今度ヤンデレックスの前で土下座しました。
「こんな間違った関係を終わりにしたい!本当に、ご勘弁をッ!!」
「うぅ……」
ヤンデレックスは人間より遥かに発達した恐竜嗅覚でヒュウガくんが発する拒絶と畏怖のフェロモンを嗅ぎ取りました。そこまで絶縁の意志を固めている彼氏を目前に、ヤンデレックスの頭に数千の思いがよぎり、やがて一つの結論にたどり着きました。
「わかったわ……顔をあげなさい」
「はっ、承諾してくれるのです……ね?」
ヒュウガくんは土下座のままヤンデレックスを見上げて、そして固まった。ヤンデレックスの大きな両目から、ハイライトが消えていました。
「ROAAAAAAAAAARRR!!!」
「ぎゃああああああああ!!!」
包丁じみた鋭いはがヒュウガくんの肩口に食い込む!肩甲骨と肋骨が破壊されて激痛が走る!
「があああああああああ!!!」
「フゥーッ!赦さない……赦さないわよ!わたしから逃げようだなんて!フゥーッ!」
頭に血が上がり、ヤンデレックスは鼻孔から蒸気じみた息を吐き出します。
「ほかのメスに渡すぐらいなら、わたしの養分となってもらうわ!これでずっとわたしと一緒に居られるッ!」
「や、やめっ」
「さよなら、ヒュウガくぅぅぅぅん!!!!!」
シャク、ティラノサウルスの情熱的な接吻はヒュウガくんの半身を持ち去り、残された下半身はバグァっと臓器をこぼしながら倒れました。
目から涙がボロボロ、口からくず肉と血液がポロポロ。徐々に興奮があさまり、ヤンデレックスの目は再びハイライトが宿ります。
(あぁ……またしてもやってしまった……本当はそんなつもりじゃなかったのに、愛しているのに!)
罪の意識に苛まれ、ヤンデレックスは居ても立っても居られず、走り出しました。
(自首しよう……もう二度と男を傷つけたり食べたりしたくない……!)
🦖
「いきなり逮捕してくれって言われてもなぁ、恐竜さんよ」
交番の前で、警官は困った表情でヤンデレックスを見あげました。
「うちにはあんたを確保できるほどの道具やスペースがないわけよ。そして恐竜を裁ける法律はこの国にないと思うわ、たぶん」
「ならば立法してわたしに然るべき判決が下されるまでここで大人しくします。迷惑はかけません」
「そう言われてもなぁ~」
ヤンデレックスの真摯な態度がかえって反応に困る。警官は頭を掻きました。
「こういうのは農林水産省か猟友会の出番だろ」
「あっ、猟友会はだめです。わたしは銃に向けられると緊張してバトルモードに入り目にした生物をすべてを破壊してしまいます」
「マジか、気をつけよう」
警官はヤンデレックスの前に腰に付けているリボルバーを抜かないように心しました。
「とりあえず調書でも書いとこうか。恐竜さんは……そこに立ってればいいか。いくつか質問に答えてもらうね」
「はい。協力に徹します」
「にしても恐竜が自首してくるとはな。俺も昔は恐竜が好きで、ジュラシックパークのビデオテープが壊れるまで再生したもんよー」
(え、「恐竜」が「好き」ですって?)
ポッ。ヤンデレックスの恋愛恐竜脳が警官の言葉に反応し、都合のいいワードだけを取り上げて勝手に解釈してしていきます。
(この場にいる恐竜はわたしだけ、つまりわたしのことがす、すす好き、ってこと!?)
ドキドキ、心臓の鼓動が速まり、ヤンデレックスは体温が上がりました(最近の学説に則って、ヤンデレックスは変温動物ということにしました)。
(ど、どうしよう?わたし、元彼を食べたばかりなのに、また恋に落ちちゃいそう......)
ヤンデレックスの視界にピンク色のシャボン玉が浮かび、警官も何気にイケメンっぽく見えてきました。またまた愛の嵐が吹き荒れるそうです。
当アカウントは軽率送金をお勧めします。