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Pre-cure:Christmas's special!

 *このnoteはふたりはPre-cure本編ではありません。クレイトンは今回お休みです。

 町の郊外にある大型総合ショッピングモール「エイアン」。クリスマス前だが、平日のため、人はそう多くない。

「ホッホッホーッ!さあ言いなさい、お嬢ちゃん、クリスマスプレゼントは何が欲しいのかね?」

「えっとね……」サンタクロースの膝に乗っている小学校低学年に相当する女の子が恥ずかし気にサンタに耳打ちした。「うーむ、なるほど……」サンタはもったいぶり、厳めしい顔つきを取った。

「うむ、うむ、わかった。約束はできないが、サンタの名にかけて、最善を尽くそうではないか!ホッホッホーッ!」

「ほんとう?ありがとうサンタさん!」女の子は楽しそうにサンタクロースの膝を降りて、母親の元に戻った。果たして彼女はサンタの言葉をどれぐらい理解できたのか。

「あの、すいません」今度は彼女の父親が耳打ちぐらいの距離でサンタに尋ねた。「娘はなんと言いましたか?」

「ニンテンドーSwitchとスマブラSPですね。クラスメイトの間は流行っているようで」「そうですか……Switchですね……ありがとうございます」「いいえ、無理しないように」

 父親が戻り、三人家族がもう一度サンタクロースに手を振って、去って行った。広場に飾ってある大きな柱時計は12:45と表示している。

「そろそろか……」サンタは呟き、周囲にまた家族連れの客がいないかを確認すると、べルトポールパーテーションをかけ、しめやかにクリスマスツリーやプレゼントの箱で装飾したソファーから離れた。

プリッキュウゥゥーオッ!(場面転換)

 15分後、サンタをコスチュームを脱いだサミーはフードコートで購入した6インチのサンドイッチが四つ入った紙袋を提げて、おもちゃ売り場近くのベンチに座った。彼は毎年のこの時期、ここでサンタクロースを扮するアルバイトをやっている。サミーは全部のソースをかけたサンドにガぶりつく。その絵はどう見ても「日本に来てはいいものの、食事が合わず結局サブウェイで済ませる外国人バックパッカー」そのものである。

 店内放送のアレンジを施したクリスマスミュージックを聞きながら、おもちゃ売り場を眺めた。クリスマスはジーザスクライストの誕生日。感謝と団円の節日。子供がプレゼントをねだり、若者がパーティーで浮かぶ日とは決してない。伝統的なカトリック教徒の父がそう言い、「由緒正しいクリスマス」を守ってきた。子どもの頃、サミーにとってのクリスマスは親戚が来て夕食したり、教会行ったり、聖歌を歌ったりする節日だった。退屈なわけではないが、ホリーデイ明けに、学校で貰ったプレゼントを見せびらかすクラスメイトはとても羨ましかった。神への信仰が薄いこの東洋に来て、彼はジーザスと神に対する関心がなくても、クリスマスを楽しみにしてる人々を目にした。訝しんだと同時に、気楽さをも覚えた。ケーキ、プレゼント、ディナー……確かにそれらは商人が金儲けのため考えた手口かもしれないが、現にそれを幸せそうに待ち望んでいる者が大勢いる。

 あっという間に三つのサンドが彼の胃袋に収められ、コーラで口を洗い流すと、四つ目に進もうとした。その時、女児向けグッズコーナーとやや離れた距離で、あたかもコンビニのエロ本を気にかけている中学生のようにそれらの商品をチラチラ見ている少年が目に入った。昼休み前に約二、三歳の娘を膝に乗せて写真を撮った時、彼が娘の両親の側にいた。兄妹なんだろう。彼がそわそわしている原因を、プリキュアファンであるサミーがほぼ瞬時に察知し、理解した。四つ目のサンドを紙袋に戻し、ベンチに置くと、客のふりをしておもちゃ売り場に立ち入り、さり気ない顔でメモリアルキュアクロック箱を持ち上げた。

「メモリアルキュアクロック……ミライパッドとは別売りだったっけな……あっ、そこのきみ、プリキュアに詳しいそうだね、おじさんに教えてくれないかな?」とべたなセリフで少年に話しかけた。

「は?」少年はきょろきょろと頭を回し、周囲に他人がいないと確認した。「……ひょっとしてボクに話しかけてんの?おじさんは怪しい人?」

「怪しくないよ、ここで働いてるの、ほら」サミーはレジで暇そうに頬杖している店員の手を振ると、店員が頷いで返した。「怪しくないだろ?」

「どうかなぁ」少年は警戒し、サミーを見据えた。「って、さっきのサンタさん?」

「えっ、バレちゃった?」

「そりゃ、目が青いサンタ、あまり見ないから、声似てるし」

 やはり白人の特徴が目立ったようだ。でも目の前の中年白人がここの従業員と知った少年は、少しながら警戒を解けた。

「コホン、すまないね、きみの夢を壊してしまったのか?」

「別に、サンタの正体なんて、小学生だって知ってるし」「そ、そうか。ところできみは一人でここにいるのかい?ご両親は?」

 それを聞くと、少年の顔はやや曇った。

「パパとママなら、二階のレストランにいるよ。妹がご飯を食べるときはすごい暴れるから、時間が掛かるんだ。で、ボクは居てもしょうがないから先に降りて来たんだ」「妹さん、力もちだっだね、付け髭が落ちかけたよ」「はは、加減がないよ、ほんとう」

 少年はやっと笑顔になったが、すぐに自分が知らない他人の前だと覚えたか、顔をしかめてクールをぶった。

「じゃあ、ボク戻るから」「あっ、待ちなさい。また質問に答えてないだよ?」「メモリアルキュアクロックのことか?普通に店員に聞くことだと思うんだけど?」「あの店員にか?」

 二人は今もレジで頬杖している店員の方に向けた。

「なんかぶっきらぼうだし、おじさんこわいよ」「なんだその理由」「頼む!サンタとして、男として、きみの知恵と力を貸してほしい!」

 サミーは両手を合わせ、大げさにお辞儀した。

「大げさだな……そこまで言うなら教えなくもないけど」

 少年はプリキュアグッズが多く陳列した棚から、一つの箱を取り上げ、サミーに渡した。

「はいこれ、メモリアルキュアクロックとミライパッドの同梱セットだよ。これがお得……と思ったらバンダイの思うつぼだ。ミライパッドが完全の力を発揮するには、別売りのミライクリスタルが必要なんだ。多々買わないでももう年末だし、そろそろ新しいプリキュアが出る頃だ。悲しいけどHUGっと!プリキュアもやがて、過去の物となる。いまさら買っても意味がないっていうか」「プリキュアが好きだね」「うおっ!?」

 喋り過ぎたと気付く少年。

「べべ、別に好きじゃねえし!仮面ライダーのついでに妹と一緒に見てただけだし!」

「いいじゃない、好きになっても……おじさんはプリキュアが大好きだよ。かわいい女の子が見れるからね」

「うわ、サンタのおじさん、プリキュアおじさんでもあるってこと?」少年は少し引いた。「聞いたことあるけど、本物を見たのは初めてだ。なんか……」

「どうだい?実物プリキュアおじさんを見た感想は?」

「普通……だね?いや」少年は言葉を改めた。「やっぱちょっと変や」

「えっでも、キュアエールかわいいでしょう?そんな娘を見たらだれでも好きになるって」

「おじさんはそういう口なんだ。ボクはルールーのほうが……」

「やはり詳しいじゃないのか?」

「うん、そうだよ」

「えっ、でもさっきついでに見ていたと」

「もういいよ。本当は好きだから。それに」今度は本当にうれしいそうに笑った少年。「もっと痛いやつがここにいるし」

「言うね~ボーイ……まだ名前聞いてないな、僕はサミエル、皆がサミーと呼んでいるんだ」

「ボクは……トウジ。苗字は教えないよ」

「はっは、それでいいさMr.トウジ。きみは今年のクリスマスプレゼント、なにがご所望なんだい?」

「うーん、この前にプリキュア15周年アニバーサリープリキュアコスチュームクロニクルとリストに書いたけど、パパトママは妹のことで手を焼いてるから見たかどうか……」

 トウジはその無駄に長ない書名を換気せずに読み上げた。余程欲しがっているなとサミーは思った。

「きみはラッキーだね。ほら」

 サミーはちょっと離れた棚からプリキュア15周年アニバーサリープリキュアコスチュームクロニクルを引き抜いた。

「ええ!?あるの?こんなところに?」プラスチックフィルムに包まれたプリキュア15周年アニバーサリープリキュアコスチュームクロニクルを、トウジは手に持った。「おもちゃ売り場なのに」

「ああ、真のプリキュアファンに必要があると思って、店長に仕入れるように勧めたんだ」

「店長に直接仕入れてもらったって、おじさんはひょっとしてここのエラい人?」

 それところか、人々を未然から救うヴィジャランティ、Pre-cureが一人、未来を視る者、サミーとは、この僕のことさ!と言いたいところだが、要キュア者以外にPre-cureのことを安易に明かさない方がいいとクレイトンが戒めた。

「まあ、ここの店長とは知り合いでね、毎年彼女に頼んでサンタのバイドをやっているんだ」

「そう……」トウジ少年はすでにサミーに対する興味を失い、プリキュア15周年アニバーサリープリキュアコスチュームクロニクルの表紙をじっくり覗き込んでいた。そして価額のシールを目にし、眉根を寄せたのを、サミーは見逃さなかった。大人にとってビール数本ぐらいの価額だが、小学生の彼にとってそう簡単に出せる金額ではない。

「コホン、ここできみとの出会いも何かの縁だ。プリキュアセッションを応じてくれお礼に、私がプレゼントしてあげようか?」

「……いや、やっぱいいや」少年はそう言いプリキュア15周年アニバーサリープリキュアコスチュームクロニクルを棚に戻した。予想外の反応にサミーは狼狽えた。

「えっ、なんで?欲しかったんじゃないのか?」

「うん、欲しいよ。でもパパとママがリストを読んでくれたと信じたいんだ。それに今日はバッグ持ってこなかったら、このまま本を持って帰ると色々聞かれそうだし」

 そういう事か。確かに、経済能力のない息子が本を持ち帰って「さっき知り合ったおじさんがプレゼントしてくれた」とか言ったら、両親の不安を煽り立てるだろう。長い間一人暮らしのサミーは家族と同居している場合の常識を思い出すに少し時間が掛かった。

「あっ、でも、一冊取っておいてくれるかな?家事を手伝って、お小遣いもらったら、また買いに来るよ」

 家事でお小遣いを稼ぐシステムか。歪んだ価値観に育てなければいいけど。

「残念だが約束はできない。バイドは26日までだからね」

「そっか……」

「今買わないと、一時間後もう他人の物になった。ビジネスとはこういうものよ。でもまあいい心掛けだ。何をすれば一番ご両親を喜ばせるか、アドバイスしてあげようか」

「うん」

「妹さんのお世話だよ。パパとママは手が焼いてるだろう?力を貸して、兄貴としても責任感を見せなさい」

「や、それは、ボクには……」少年が目を泳がし、俯きになった。本当に妹が苦手にようだ。もう少し後押ししてやろう。

「難しいのかい?できないのかい?」サミーはやや芝居かかった口調で言った。「おおー!悲しき哉!この一年間、プリキュアが画面越しで必死に送り続けているメッセージを、きみが否定するのかい?プリキュア達の努力は無駄足だったのか?」

 しばらくの沈黙。(まずい、言いすぎたか?)とサミーはは内心に思った。このままではPre-cure完了になれず!

「……言いたいことはわかったよ、おじさん」少年はしかし、面を上げると、まっすぐに中年の青い目を見つめた。「お世話、ボクがやるよ。そして妹にプリキュアこと一杯いっぱい教えて、来年こそ一緒にプリキュアごっこやるんだ!」

「その意気だ!きみならやれる、Mr.トウジ!」

「ありがとう、おじさん。なんか元気でたよ。本物のプリキュアみた……あっ」デューオン!滑稽な着信音が鳴り、トウジがポケットからスマホを取り出した。「ごめん、やっと妹のご飯終わったからもう戻らないと」

「ああ、楽しい時間だった」サミーは右手を伸ばした。「言ったことは必ずやり遂げるんだぞ!」

「おうよ!」二人短い握手を交わした。

「バイバイ、おじさん!ありがとう!」

 走っていく少年が見送った後、サミーが棚からプリキュア15周年アニバーサリープリキュアコスチュームクロニクルを手に取り、レジに向かった。

「会計おねがい。Apple payで」

 彫像みたいに頬杖していた女性店員がやっと動きだし、緩慢な動作で書物のバーコードをスキャナーに通した。いくらでものんびりしすぎるが、彼女を首にするものはこの場にいない。店長だからだ。

「お買い上げ、ありがとざーす。新しい友達ができてよかったね、サミーさん、ていうかこの本こないだ二冊も買いませんでした?」

「トイレの本棚にまた置いてないからね」

「トイレに置くんですか?ていうかトイレにも本棚があるんですか?」

「なに?店長の家にはないのか?」

「普通の家はないですよ、多分。はい領収書。午後の仕事、がんばってくださいね」

「もうこんな時間か。ありがとう。失礼する」

 サミーベンチに放置していた紙袋を拾い上げ、倉庫を兼ねた休憩室へ歩いた。

(終わり)

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