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気温に気をつけてほどほど頑張れ、ガンバレックス!

月曜日の朝、アジア某都市の通りは通勤者でた溢れかえった。異常気象と湿気、ヒートアイランド現象に相まって、また8時なのに体感気温がゆいに35℃に超えている。空は雲一片もない果てなきスカイブルー、心に広がる際限なくマンデーブルー。額から大粒の汗を垂らしながら、人々は浮かない顔で職場へ赴く。

そんな陰鬱な雰囲気の中に突如、朗らかな声は街中に響き渡った。

「ふれーっ!ふれーっ!みーなーさーんっ!ガンバレガンバレみなさん!ネーヴァーギッヴァみなさん!」

それは一体のティラノサウルスであった。それもただのティラノサウルスではない。清涼感のある水色のチアリーダー服、ポンポンを振り回す小さな前肢、軽やかなステップを踏むたくましい両足、丈の短いスカートはとても愛らしい。彼女の名はガンバレックス、各地に神出鬼没して、気が落ちている人の前に現れてエールを送る恐竜である。

「わぁ、ガンバレックスちゃんだ。かわいいなぁ」
「こんなくそ暑い中に私たちを応援しにきたんだ……元気ねぇ」

ガンバレックスの元気溢れるチアリーディングは高原の涼しい風のように心に吹き込み、往来する労働者たちは表情が少し和らいだ。また出勤時間まで余裕があって、足を止めてガンバレックスのチアリーディングを近距離で観賞する者も少なくなかった。

「それじゃ盛り上げていくよ!HERE WE GOっ!」

ガンバレックスは両足に力をいっぱい込めてジャンプ!その脚力は凄まじく、6トンに及ぶ巨体が軽々と自分の身長の3倍まで飛び上がって、空中で開脚してトータッチ(空中で手足を極限まで左右に広げるチアリーディング技。バスケットトスから繋ぐこともある)を決めた!

「すごっ」
「ジャンプ力えぐっ」

と観客たちが瞠目するばかり。ガンバレックスはズドーンと着地して、地面が揺れた。その見事なパフォーマンスに、人々は盛大な拍手と歓声で応えた。

「すごいぞガンバレックス!」
「なんてエネルギッシュなチアリーディング……心が震えたわ!」
「なんか俺、俄然やる気が出てきました!」
「ジャス学のティファニーみたい!」
「ありがとうガンバレックスちゃん!」
「はぁはぁ……!皆さん、ありがとうございます……!はぁはぁ……!」

皆に頭をさげて礼するガンバレックスだが、なにやら様子がおかしい。

「ガンバレックスちゃん、なんかはあはあ言ってるけど大丈夫?」
「大丈夫です……はぁはぁ……」
「こんなくそ暑いなかでチアリーディングしたんだ、きっと疲れただろう」
「私はそんなにヤワじゃないですよはぁはぁ……それにティラノサウルスが生息していた白亜紀は今より気温が高いんですはぁはぁ……これぐらい平気ですはぁはぁ……」
「あっ、そういえばずっと思ってたですけど、ガンバレックスは変温動物と恒温動物どっちなんですか?」
「はぁはぁ……それはもちろうぅーん」
「ぐわっ」
「ぎゃっ」

喋っている途中にガンバレックスは気を失って倒れてしまい、何人かが巻き込まれて下敷きになってしまった!

「が、ガンバレックスちゃんが倒れたっ!」
「大丈夫かガンバレックス……!アッッツ!ガンバレックスの体アッッツ!」
「もしかして熱中症か!?恐竜でも熱中症になるのか?」
「なってもおかしくないだろう。ガンバレックスは恒温動物か変温動かはっきりしていないが、如何せん爬虫類に汗腺がないから人類みたいに効率よく排熱できないんだ。ましてや猛暑のなかで強度の高い運動してしまったせいで、重篤な熱中症症状に繋がる可能性が高いっ」
「説明はいい!重要なのはこの状況をどうするかだ!」
「とりあえず熱中症対策マニュアルに沿ってやれることはやってみよう。俺はできるだけ体を冷せる物を買ってくる!」
「私は傘で日陰を作るわ!」
「ミニ扇風機を束ねると多少役立つかな!」
「よし、ガンバレックスが私たちを応援したように、みんなで協力してガンバレックスを助けるぞ!」
「「「おおー!」」」

ガンバレックスを助けるべく人々が走り出した。その数分後。

「あたりのコンビニから氷と冷えたスポーツドリンクを片っ端から買ってきたぞ!」
「それを頸部、脇下、鼠蹊部に置いて体を冷やすわよ!」
「近くの工事現場からテントを借りた!」
「グッジョブ!それで悪辣な日差しからガンバレックスを守れる!」
「職場から工業用の扇風機を持ってきました!」
「待った!高温の環境で扇風機は逆効果だと聞くぞ」
「そ、そんなぁ……」
「でも霧吹きと併用すればいいらしいよ。あれよ、水分が蒸発したら周りの熱を奪う現象!」
「その手があったか!よし、俺のスプレーボトルで噴きまくるからガンガン送風してくれ!」
「わ、わかった!」

ガンバレックスを助けるために、人々の心が一丸になって頑張った。その甲斐がガンバレックスの体温が徐々に正常値に戻り、やがて目が覚めた。

「むー、涼しくて気持ちいい……はっ」

ガンバレックスば上半身を起こして周りを見た。首周りに置かれていた氷とペットボトルがボトボトと落ちた。

「えっと、皆さん?」ガンバレックスは少し困惑しながら言った。「私はいったい……」
「ガンバレックスちゃんが熱中症で倒れたのよ」とOLの女性が答えた。彼女はシャツが汗で濡れて下着が透けていてる。「ここのいる皆で協力して応急処置したの!」
「まったく、応援する側が先にぶっ倒れるなんて本末転倒だぜ」とヘルメットを被った建築従業者の男が言った。身に着けている作業着は汗で大きな染みが出来ている。
「今回は何とかなりましたが、今度もこう上手くいくかどうかわかりません」とサラリマンの中年男が言った。彼はもはやシャワーでも浴びたかと思われるぐらいの濡れ具合だった。「今日は応援活動をやめて、しっかり休むことですね」
「皆さん……申し訳ありません。私は自分を過信してしまったせいで、皆に迷惑を……!」

ガンバレックスは己の思慮の不足に恥じた。たしかに白亜紀は今より気温が高いと思われるが、ガンバレックスが属する知性サウルスは現代の環境に適応すべく新しく作った品種。6,600万年前のデータなどそもそも当てにならない。

「いいのよガンバレックスちゃん、もう過ぎたことなんだし、これから同じ轍を踏まないよう頑張ろ!スポドリ飲める?」
「あ、飲みたいですー」
「じゃ飲ませてあげるから口を開けてね」
「はーい。あーん、うぐっ、うぐっ……冷たくておいしい!」

介護した甲斐があって、ガンバレックスはたちまち足り上がれるほど元気を取り戻した。

「皆さん本当にありがとうございました!これからは気温と体調に気を付けなければ頑張て行きたいと思います!あっ、そういえば何人の方が私が倒れた際に潰されて命を落としましたね。申し訳ないことをしましたなぁ……じゃせめて無駄がないようご馳走になってもらいますね!パクっ、あむ、あむ……うん、おいしい!肉が程よくプレスされたまるでタルタルステーキのようです!」

皆さんもガンバレックスのように、水分と栄養をバランスよく摂取して、この夏を乗り越えよう!

🦖この作品はAKBDC2024に参加しています🦖


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