婦人科医のシズ先生:バジリスクの章3
「さすがに……それはないですよ」とダビーがやや呆れた顔で言った。
「そうですね。レイプは言いすぎたかしら。ピーコックは孤独の単独飼育の中で性欲がもて余してたせいで蛇の誘いに乗ったかもしれない。つまり和姦、あるいは取引のある援交か」
和姦、援交、異種交配などの言葉が脳内に行き来したダビーは顎が外れてしまうほど口を開けたが、言葉が出てこない。
「先生、ミスターダビーがおっしゃりたいのは蛇に化けた魔術師あるい蛇族の魔術師のことかと」
そこへジャックはフォローを入れた。流石はシズの助手だけある。耐性が付いている。
「そうですか?しかしご自分でピーコックは妊娠したと言ったでしょう?妊娠するには卵巣が必要です。雄だったピーコックがなぜ卵巣が生えた?魔法をかけられたとしか考えられません。そうでないとなんですか?ピーコックは生来両性具有のふたなりチキンだった、それとも性別適合手術を受けたことありますか?」
「いいえ、れっきとした雄です……だと思う」ダビー自身も自信を持たなくなってきた。
「とりあえず。検査する必要がありますね。レントゲン撮っておきましょう」シズは床を蹴ってチェアを回転させ、デスクに向けてタイプし始めた。「ジャックさん、案内をお願いします」
「わかりました。ダビ―さん、ピーコックと一緒に来てください」
「はい、オネガイシマス」
「ゴガー」
12分後。レントゲン室からの写真がジスのPCに転送された。
「腹部をご覧ください」シズはモニターに写っている写真に指さした。「こちらです。さっき畜産の書籍と照合しました。この白い糸みたいの部分が産道、その先端にあるぶつぶつのが卵巣ですね。そしてここにある白くて丸いの、また形成途中の卵ですね」
「自分で言ったのですが、実際見てみると信じられません。こんなことが……」
「信じるも何も、これが現実です。さて、雄だったニワトリが産卵したというかなりの異常事態ですが、過度に緊張する必要もありません。卵が生まれても、孵卵しなければいい事です。えーと、本によると産卵は2日ぐらいかかると書いてありますので、とりあえず入院して、産卵までに監視……」
「ケグァーッ!」
ピーコックは再び発作的に鳴き、身震いした。
「これはっ!」
ダビ―は自分の太ももに乗せていたピーコックを抱き上げた。太腿の間に、一つの灰色の卵があった。
「ひっ」
ピーコックを抱え、ダビ―は反射的に椅子から跳ね上がった。卵はゴンと鶏卵らしからぬを立てて床に落ちたが、割れなかった。シズは立ち上がる。
「心配しないで」その表情は真剣であった。「雄鶏から卵が産まれた、でもヒキガエルや蛇によって孵卵されないとバジリスクは生まれることがない」
「スッスサァーッ!」
突如、戸棚の裏から一匹の黒蛇が這いずり出て、卵に巻きついた。
「あ、あの頃のヘビだ!」ダビ―は叫ぶ!
「へー、ソー、スヒャーー」モージョーめいたうめき声を出し、蛇と卵の接触面に電気ストーブのような熱を帯びた橙色の光を発した。孵卵しているというのか!?
そして卵がびくっと震え、その表面に亀裂が生じた。表情筋のないのにも関わらず、蛇は勝ち誇っているように見えた。
バジリスク βασιλίσκος、蛇と鶏が融合したような生物。蛇の王、毒の龍。その体臭を嗅ぐだけで生物が死に、視線は見たものを石にし、武器で斬りつけると毒が武器に伝って持ち主を殺す。さたに空を飛び火を噴くなど、作家と吟遊詩人の努力によってますます手に負えない怪物と化していく。ギリシャ語で名前の意味が「小さな王」。今はまさに王が誕生する瞬間である。
「ジャックさん!電動ドライパー!」「ハイ!」
シズとジャックは動き出した。デスクの下から中華鍋みたいなドーム状の窪みをつけた金属プレートを持ったシズは飛びかかるように蛇と卵をプレートで覆い隠した。蛇はプレートの中で暴れて脱出を図る、シズは全体重をかけてプレートを抑え込む。すかさずジャックはプレートの横にある四つの穴を開けた出張りに電動ドライバーのハンマードリルモードでボルトを打ち込み、床と縫いつけた。
「グッジョ!ではみんな離れて!」
ジャックとシズは五歩ぐらい下げ、ダビ―はピーコックを抱えて診療室の隅でうずくまった。
「それじゃ、爆発します。ポチっと」シズはスマホのブルートゥースで予めプレートに設置した小単位C-4爆薬を起爆させた。
ドゥーム。控えめの爆発音、ドーム型の金属プレートが震え、周囲の地面がひび割れた。
暫くの静寂。
「ふぅー、やはりはC-4は何でも解決ね。あっ、念のため近づかないでくださいね。あとで防疫部隊の人に処理させていただきますので」
悠然とデスクの前に戻るシズ。ダビ―は目を茫然とした表情で立ち上がった。そしてピーコック、かわいそうに、さっきの爆破で驚いてストレスが溜まったせいか、自分の首回りの羽毛をクチバシで抜いている。
「一応、ビタミン剤を出しておきますね。人間用なのでピーコックに与えないでください。これでOK」
一仕事を終えた高揚感でシズは上機嫌になり、わざと声を立ててEnterキーを押した。ターン!
「今日はお疲れ様でした。よい一日を!」
「はい……ありがとうございます。お疲れ様でした」
ダビ―はピーコックをケイジに入れ、魂が抜けたようなふらっとした歩みで診療室を出た。五秒後、婦人科部長のジョウがパーンとドアを突き飛ばして入室した。
「シズ君!また許可なくで爆発処理ドームを使ったか!何ことだ!?」
「どうにも何も。ズズッ」シズはマグカップに手を伸ばし、冷めた紅茶を一口啜った。「人類の文明を邪竜から守りました。いつものことです」
(婦人科医のシズ先生:バジリスクの章 終わり)
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