見出し画像

ゲーム制作エディタは万能ではない、と知る

個人でゲームを作っています。すでに5年くらい色々作っていますが、プログラムの知識もなく天才でもないのでなかなか完成させることができません。プログラムに詳しい同僚のアドバイスと、プログラマのバイトさん2人に技術的なことを任せてなんとか乗り切っています。

私が作りたかったのはアドベンチャー(ノベル)ゲームでした。みるからに難しい3Dのネット対戦ができるアクションゲームなどではないため、正直「文字と絵を表示して選択肢があり、分岐ができれば完成する」と思っていました。しかも少し調べるだけで、読み進めるタイプのゲームは無料/格安のエディタがたくさん見つかります。パソコンで動くだけでなくブラウザやスマホなどでも遊べる「マルチプラットフォーム」に対応したもの、手軽さやサクサク動作をうたったもの、豊富なサンプル、実際にゲームを完成させた皆さんの作品。素人の私でもできそう、と夢が膨らみました。しかし、その夢も長くは続かなかったのです。

※本記事は「エディタを使いこなす技術」は一旦棚に上げております

5つ以上ノベル系エディタを試した結果

制作の序盤で大きくつまづいた理由のひとつに「このエディタがあればゲームが簡単に作れる」という触れ込みを信じ、振り回されたことがあります。

以下、試したエディタについて記しておきます。批判する目的ではないため、一応名前は伏せておきます。

今はもうない「LM」:エフェクトが簡単に動かせるところがいいなと思いDLしたのですが、作品実例がほぼ見当たらなかったのと、画像を専用のフォーマットに落とし込まないといけないのが作業に支障がありそうだと感じたためやめました。サイトを見に行ったところ、今後更新はされないようです。

マルチプラットフォーム対応の「0」:ブラウザでO製のサンプルゲームを遊んでみるとおかしなチラツキがあったためやめました(今は改善されているのかもしれませんが)。

Macでも動くことをうたった「AN」:「犬でもわかる」という触れ込みで宣伝していたのですが、macで動かすにはターミナル(windowsでいうところの「コマンドプロンプト」)を触らねばならないという壮絶なものでした。初心者の私にその意味するところは分かりませんでしたが、プログラムに詳しい同僚から「犬ってターミナルわかんの?」と言われハッとしてすぐやめました。

マルチプラットフォーム対応の「T」:シェアがかなり高く、作品紹介ページも華やかです。しかし、有料会員になると、なぜかログインページにエロ絵がずらっと並んでおり、無料で広告が出るならともかく月に格安といえどこれはないんじゃない? と嫌になったのと、当初目的だった「スマホで動画広告をつける」が機能的に無理であると調べがついたのでやめました。また真偽は確認していませんが1GB以上のゲームはビルド/パッケージングできないようです。

本格仕様の「A+」:1年以上使ってゲームもだいぶできてたんですが、他に乗り換えました。スクリプトはバイトさんに頼んでいたのですが、オリジナルの画面を作っていると特にバージョン更新時引っ越しが大変(おそらく私の腕では不可能なレベル)になってしまうため、「画面にオリジナル要素を入れたい」「仕組みをカスタマイズしたい」私には厳しいものがありました。何よりこのエディタ、実は「ビルド/パッケージングするには制作元に頼まなければならない」という制約付きで、初心者の私にその意味するところはわからなかった(後述)のですが、完成させてたらと思うとぞっとします。

今使ってるエディタ「L」:更新されるたび、かなりの確率で音周りの不具合が出ます。効果音の冒頭が途切れる→効果音は鳴るが、フェードインを適応すると鳴らなくなる 等。制作元に不具合の報告をすると「最新バージョンに引っ越してから相談」と言われるのですが、バイトさんにお願いしても更新しようとすると1〜2日かかってしまう上、更新されたことにより今までできていたことができなくなるなど不具合が多く、都度問い合わせることになりかなり時間とコストがかかります。そのため、実質「更新を諦め古いバージョンのままゲームを完成させる」しかありません。A+から乗り換えた主な理由が「更新が大変だったから」なのですが、今ではA+より更新に時間がかかります。

その他ちょっと調べただけでやめたツールも2〜3あります。

できることに比べ「できないこと」は宣伝されにくい

直接はフォローしていないのですが、つい先日、アドベンチャーゲームを作っている人のアカウントで「公開日が遅れる」というつぶやきを見かけました。個人ゲーム制作にはよくあることですが、私が驚いたのはその内容で(批判する目的ではないので、特定を避けるため)ぼやかして要約すると以下のようなことでした。

「明日の体験版公開は無理そうです。今のエディタでは○○機能が使えないため、Unityへの移行も考えています。公開は今月か来月になります」

私とこの人はなんの接点もないし、制作環境も良く知りません。ものすごく短い体験版かもしれないし、生活に余裕があるのかも知れない。ただ発言だけ見ていると、昔、エディタを信じていた自分を思い出してなんとも言えない気持ちになりました。

まず……まずです、Unityは(おそらくご本人が現在使われているエディタに比べて圧倒的に)アドベンチャーゲーム制作向きではありません。私が知る限り、ノベルゲームを作る用のUnity関連ツールはありますし、簡単操作をうたっていますが、起動や動作が重かったり、テキストベースのゲームを作るには必要のない3D向け機能もたくさんあり、まずそれらを切るためにどこに何が把握するだけでも大変です。できることは大きくうたわれても、面倒なこと、できないことは見つけづらいものです。

Unityじゃなくても、そもそもエディタを引っ越すと「今できていることができなくなる」ということは高確率で発生するため、できるできないリストを作り、何を諦めなければならないか詳しい人と相談してやっと見えてくる部分がほとんどです。この検討だけでも数日かかります。数日かけてやっと「よし引っ越しできそう」と分かります。もし、このことをご存知である、あるいはせめて予想できるなら「(来月、はともかく)今月」「移行も考えている」といったコメントにはならないはずです。

スクリーンショット 2019-11-30 14.55.54

私がエディタを引っ越した時作ったリストの一部

仮に引っ越しできたとしても、今までのエディタでは起こらなかったバグが発生しがちで、納期を延ばす犯人はだいたいこいつです。一から自分で作る場合と違い、エディタでは確かにバグは起こりにくいですがゼロではありません。

「今月か来月」と発言された背景には、Unityへの信頼があるのだと思います。私も、ゲームを作り始めた頃はエンジン/エディタがあれば簡単にゲームができると思っていたしツールを信用していました。

エディタを100%信用してはならない

私はUnityでもゲーム制作をバイトさんに頼んでいますが、プレビューとビルドデータが違う、ということは稀に発生します。Unityが悪い! ということではなく、同じことは他のエンジン/エディタでも起こるので、「画面で見たものを100%信用しない前提」で作らなければなりません。

仕事で動画や音楽編集ソフトを使うこともありますが、確かにプレビューと100%同じものが常に書き出されるか、というとそんなことはありません。Adobeのイラストレーターなら、経験上、間違っても「入稿データと印刷されたものが違う」ことはありませんでしたが、Adobe級規模のソフトの成せる技かと思います

つまり、上述した「ビルドを制作元に頼まなければいけない」エディタでは、自分が作って見てきた今までのゲームと、ビルドされたものが万一違ってきた場合、チェック後、その原因を探るためまた先方にデータを送らなければいけないのです。もし、私が現在「ビルドが手元でできない」エディタを見つけたなら「冗談か?」と思うし真っ先に候補から外します。

エディタには様々な宣伝文句がついていますが……、

・リアルタイムプレビューとビルドデータが異なる場合がある

・PC環境によって出力結果が異なる場合がある(ノートPCで充電コードを抜いている状態だと挙動が遅れる、イヤホンを挿したとき音楽の冒頭が聞こえない など)ため詳しい人間でないと解決できない

・サクサク動く、とは頭に『ただし高スペックPCに限る』がつきがち

・初心者にもやさしい、分かりやすい、と書かれていても『プログラムが何かも知らないズブの素人にも』とは書かれていない

・『簡単ですと銘打っているのは『エディタを作る能力のある人

・『○○でも動く』とは『ただし同スペックのパソコンで、同バージョンのソフト/ブラウザに限る

・『chrome推奨』はほぼsafariでは正確に動かない

・Macにも対応とは『基本はwindowsでお願いします

・OSの更新により、動いていた機能が使えなくなることがある

これらのことが理解できるまで1年以上かかりました。

プレビューとビルドデータが異なっても、音の冒頭が飛んでも、あなたのブラウザで動かなくても、別に個人制作のゲームだからそのくらい許してよ! と思える人のゲームは完成しやすいし、エディタの種類を問わず作っていて楽しいと思います。逆に有料頒布したり、絵や字を少しでも効果的に見せたい、分岐させて面白くしたい、としっかり作り込もうとすればするほど、エディタ選びは難しくなり、完成は遠のき、道のりは苦しいものになるでしょう。

私がゲーム作りを始めた数年前より、パソコンやネットなど現在の制作環境は良くなっているはずです。ただ、どんなに時代が進んでエディタが便利になっても、人が作っているものである限り発生する不具合からは多分逃れられないし、時代が進むからこそ使えなくなる技術もあることに変わりはないと思います。

いうても、エディタは必要だしありがたい存在

私はゲーム制作こそ諦めないけどたくさんのエディタを使っては手放しました。華やかな謳い文句に心踊り始めたものの「簡単にできるって書いているのになぜ自分にはできないのか」と心折られそうになったことが何度もあります。なんとかリカバリできたのは、周りに質問できる人がいて助けてくれたからに他なりません。本来、開発者を助ける目的で作られたはずのエディタがゲーム作りをやめるきっかけになるとしたら辛いことです。

一方で、スクラッチ(エディタ等を頼らずゼロベースで自力でゲームを作る)は今の環境で叶えるには荷が重すぎ、エディタを頼りにしているのも事実です。ゲーム制作も大変だけどエディタを作るなんてきっと途方もない作業でしょう。選べるほどエディタがあることに感謝しています。あれもこれも簡単にできるっていうのを少なくとも求めていないので、最低限、セーブロードや文字表示がズレなく正しくできて、音が正しく鳴って、問題なく遊べるゲームが作れるエディタが細く永く続いてくれるのを願っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?