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個人開発(インディー)ゲームをSteamストアで販売するのがおすすめじゃない理由

以前、twitterで海外の方が「日本のインディーゲームをもっと遊びたいのでSteamで販売してほしい」と、ストアのTips付きで呼びかけるツイートを見かけました。内容は好意的でしたが、Steamで長年色々やってきた私には、なんというか「Youtuberになりたいなら気軽に始めてみるといいよ!」と同種の危うさに思えます。

もちろん何も調べず始める人はいないでしょうし、調べて進んで何かあっても自己責任です。ただ、Steamで1作品売ってみたけど辛い……という発信、開発の心を折られたと思しき事例もお見受けします。

本稿では私がSteamでゲームをリリースした経験を元に「いかにSteamが(特にセルフパブリッシュするのは)おすすめじゃないか」という、極めて偏った視点から語ります。


前提:Steamなら必ず売れる、とは限らない

Steamではレビュー数に50前後をかけた数字が実際の売り上げ本数「目安」と言われています。

よその個人開発ゲームが気になって、面白そう〜とストアを覗いてみるとレビュー数が1桁とか、2桁でも10台、みたいなことがあって、こんなに面白そうなのに……!? と呆然とすることがあります。

ミニマルなゲームで英語対応してないしセルフパブリッシュ、みたいなゲームならわからなくもないですが、私でも知ってるパブリッシャーがついてて多言語対応されたいい感じのゲームが、いざ発売されてみたら初週のレビュー数1桁、というケースも見かけました。 パブリッシャーがついているなら売れる見込みの元に販促し、満を持して発売されているはずなのですが……。

私の目が節穴なだけかと思いきや、👍 100%近いゲームとかもあるので一体何が起こっているのか? なんかここ1〜2年くらいの傾向のように思えて、理由がよく分からないのでめちゃくちゃ怖い。あ、これ多分Switchでも同時にリリースしてて票が割れた感じかな〜と調べて出てなかった時の恐怖たるや。

こういう傾向は数ヶ月〜1年くらい、ご自分がSteamで販売しようとしているゲームと似た規模やジャンルの作品を見守ってみると色々分かってくるので、Steam販売を視野に入れてる方はまず調べてみてください。


まず他の売り場で代替できるか検討を

Steamに比べ日本では知名度が低いものの、海外のフリー/個人ゲーム界隈ではitch.ioがPCプラットフォームとしては有名だと思われます。

もしご自身の主目的が「ビジネス」でない、かつ、「英語にローカライズしたゲームを世界中の人に遊んで欲しい」なら、itchもSteamと併せて検討されるのをお勧めします。

itchは、私が数年前に登録した時は

-無料でゲームが置ける(Steamはページ設置に100ドル必要。一定以上の売り上げがあれば返金される=無料ゲームだと100ドルは返金されない)
-売れた時の配分がSteamより高くもらえるよう設定できる(Steamは3:7)
-インディーでゲームの権利を投稿者本人が所有していないとゲームを置けない(Steamは大作やAAAタイトルと並べられて埋もれがち)
-投げ銭機能が標準でついている(Steamにはない)
-ゲームの審査らしきものは特になかった

……といった利点がありました。Steamに比べ敷居が低く、個人開発者の味方である空気が漂っています。

Steamに比べitchが劣る点は、
-日本語のマニュアルがない
-ゲームのアップデート時、自動ではなくパッチを充てて対応する必要がある
……かなと思います。

itchの手続きは、実際私もやってみて1日〜2日でできたので、初見の方でも翻訳機能があればできなくはないと思います。そして「日本語マニュアルがない」部分について、苦労は多少しましたが、バナーだけでも1ゲームにつき12種類以上必要なSteamの比ではありません。

Steam以外の売り場を検討しないのは、ゲーム業界を目指す人が任天堂しか受けないのに似てる(?)と思います。国内外のストアやコミケでの手売りなど、自分の目的に合っているものを併せて検討してみるのがおすすめです。

マニュアルが微妙で事務手続きが難儀

上記urlを読んでくださった前提で話をしますと、なんとSteam開発者用「公式」マニュアル冒頭ページの順番通りにやる必要はなく、ゲームの容量によっては使わなくて済むツールまでダウンロードするよう案内されています。なんの罠だ。

ゲーム売ってみようと思ってる方は実際どんな手続きが必要か、まず先達の記事を読んでみてください。

例えばVAT(税金関係)の項目は手続きの方法や説明ではなく、なぜかQ&Aメインになっています。これができていないとアメリカにも税金払わないといけなくなり(という理解でいますが、間違っていたらすみません)売り上げから引かれてしまう、かなり重要な項目のはずなのですが……。

新手のスタンド使い来たか? でもこれ読んでどういうことなの?! と思わなくて、あーSteamそういうこともありますよねってなります。もちろんSteamが悪い💢とかではなく、問い合わせなどは英語でやりとりせざるを得ない場面もあって、行き違いが生じやすいです。

今はどうかわかりませんが、ストアページとYoutubeやtwitterアカウントとの連携ができなくなっていたので問い合わせたら「そうなんですよ」みたいな返事だったこともあります……な、なんで? とはまあ普通の感覚で、Steamとはそういうものと認識しています。文化的な違いかも知れません。

思ってるより売れない? 実例を添えて

私が一番最初にSteamでリリースしたノベルゲーム「私は猫になりたい」は、「最も売り上げが見込める」と思われる初週販売数27本でした。国内12本、それ以外は海外です。

激おもろゲームではないと自覚はあったものの、あの大変な手続きを乗り越えて英語対応して全世界で売って結果がこれかーとは正直思いました。その後、セール等で多少売れましたが千本にもとても届かないです。

この程度の絵と内容の短編ノベルゲームで、大した販促もできずこの程度売れる。多いと思うか少ないと思うかはあなた次第……?

売れない数の例によそのゲームを出すのは気が引けるので本稿にリンクを貼るのは控えますが「Steam 売れない」とかで検索すると先達が奮戦した軌跡を垣間見ることができます。

バカ売れする激おもろゲームを作れるなら問題ないわけですが、もしその気配があるなら事前にSNSで話題になったりメディアが取り上げてくれたりといったことがあるので、Steamに出す前にちまたの反応見て判断するのでも遅くはないかも知れません。

一方で、Steamは販促や売る方法が独特で、ゲームの面白さ以前にそちらを把握していないことがボトルネックになっていると思われるケースを見かけます。

ノウハウが独特で習得に時間がかかる

ご自分がSteamで出そうと思っているゲーム、いくらで販売するつもりでしょうか?

私が知る限り、Steamにはうっすら適正価格帯のようなものが存在し、なんとなく「このくらいのゲームでこの価格は高い/安い評価になる」といった傾向と対策がわかってきました。

しかしそれを説明しようとすると「高いと言われているレビュー」実例を晒すことになるのと、年月を経れば傾向が変わるので、書き記すのは難しいです。私は自分が出すジャンルに近いゲームのレビューを読みまくって観測してきたので、同じようにすれば把握できると思います。

私は今までに開発に関わったゲームを5〜6本Steamでリリースしました。その上で思い返すともったいない売り方をしていたので、価格設定から始まり、メタデータ(ストアの説明文などを指します)、優先すべきバナー、そしてSteam特有の販促方法など、もし今と同じ知識を初期装備していたら、売り上げ増えてたかも知れないな〜と思ったりもします。

売るつもりの人はせめてこれを読んで……いいねしなくてもいいので読んでほしい。ゲームの内容だけじゃなくて、ちょっとした個人でもできる発信の仕方や時期の見極めで損するのは勿体無いです。

「そこそこ売れるゲーム」対応が辛い?

Steamで頑張ってリリースしたゲームがほとんど売れなかった場合、それは残念だけど、以降極めて穏やかな日々を送ることができるでしょう。

逆に、激おもろゲームで大ヒットした場合、ちゃんとしたパブリッシャーさんがついて対応をお任せしちゃえる可能性が高い。

問題は、上記ふたつの中間くらいだった場合です。多少売れているがバグの書き込みや問い合わせ、よく分からない営業メールが英語で届き対応に追われ「貧乏暇なし」になりがち。ちなみにうちはこれです。対応時間自体はそれほどかからなくても、人に相談したり悩む時間が増えます。

アプリ等運営された方ならご存知と思いますが「リリースしたら終わり」ではない。売れても売れなくても中間でも何らかの問題は付いて回ります。Steamの問題はいずれの場合も対応は英語になりがち、というところでしょうか。私の場合は「明らかに英語が母国語ではない人からの問い合わせ」は意思の疎通が難しく辛かったです。

逆にいうと英語話者や、こういった窓口対応に慣れてる人なら負担にならないかも知れません。

翻訳が伴うメリットとリスク

私は計算がめちゃくちゃ苦手なのですが、以下数字ご参考になれば幸いです。つまりご自分で計算していただけると助かります。

-私の場合、海外向け販促せんで日本:海外売り上げ比率3:7くらい
-5:5くらいのゲームもある
-日→英の場合1文字いくらで計算する
-仮に5円として20000文字だと100000円【A】
-500円でゲーム売ったとして雑計算で自分:Steam=350:150円
-【A】なら、500円のゲームを300本位売ったらプラマイゼロ(ただし実装や通しプレイ費用は別途)
-実際にはセールやドル円の影響もあるのでもっと売る必要がある
-ノベルゲームだと(自分の感覚では)10000文字でプレイ時間小一時間程度

ローカライズしないと海外には売りにくい。だけどコストがかかるし開発期間も延びるジレンマにいつも悩まされています。

じゃあ翻訳せず日本語だけで売ろう! となれば、何のためにSteamで売るの? となります。国内向けならメインユーザーの2〜3%程度しか日本ユーザーがいないSteamではなく、DLサイトやコミケなどの方が売りやすいかも知れません。


販促手段は大体試し尽くされている

Steamで売るのも簡単じゃないよ。という話をすると「でも○○すれば売れるのでは?」と意見をされることもあります。

「有名な配信者にキーを配れば」「twitter広告を出せば」究極は「面白いゲームが作れたら」みたいな感じですね。

もしSteamストアでの販売について「たられば」でアドバイスをする人がいたら……その人はほぼ確実に、実際にやってません。成功はおろか失敗もしてないから言えるのでしょう。

例えば「有名な配信者にキーを配れば」。ゲーム名は伏せますが、登録者400万人越えの実況者さんが実況したとあるフリーゲームは、あっという間に再生回数が200万を超えていましたが、プレイ数は1000を超えたくらいと開発者ご本人がツイートされていました。繰り返しますが無料ゲームです。そういった数字を身をもって知っている人は、そんなアドバイスしてこないでしょう。

信じるべきは「〜したら○○だった」という経験談です。机上の空論を足がかりにしてはなりません。自分も思いついた販促方法は実際に試したり、経験者に意見を聞いたりしていますが、地道に発信を続け、比較的低コストで済むオンラインイベント出展を中心に展開しているのが現状です。

そういうお前はどうなんだ

私がなぜSteamでゲームを売っているかというと、

-同僚の手伝いをしてSteamのノウハウを少し知っていた
-最初からビジネス目的だった
-itchでもリリースしたが、アップデートの方法(パッチ)に自信がなかったので途中で挫折してしまった
-英語に苦手意識はなかった

Steamで続けられている理由は、

-基本的に専業であり、対策に割ける時間が長い
-大儲け、全賭けしようとしていない
-まずは小さく始めたので傷は浅かった
-同僚が応援し力を貸してくれた
-諦めず、数年続けて情報収集しコツを掴んできた
-これがダメなら次はこうしようと保険をかけている

何より心構えができていたのは大きかったです。「イベント出たりフリゲ配ったりして自作品は大して反応をもらえないことを知っている」に加え「だがSteamなら違うはずだ」という思いは一ミリもなく、Steamに期待をしていなかったことそして枯れたマインドの「世の中そんなにうまく行くわけない」という諦めが「こんなはずじゃなかった」から私を守ってくれたのです。

自分の作るゲームは良い・面白いはずだ! と信じて作り完成させることと、それをストアに置いて売るのは別で、前者には主にクリエイターとしての情熱、後者にはビジネスとしての冷静さが必要でしょう。これを1人で使い分けるなんて離れ技もいいところですが、やってのけなければならないのがセルフパブリッシュの難しさです。

面倒でハードルの高い手続きを超えた先に待っているのが手数料も戻ってこない売り上げだとしても「まあそういうこともあるわな」くらいの気構えで進むなら、案外心折られずに続けられるのかも知れません。Steamに限らずゲーム市場とはそういうものでしょう。過度な期待をせず、まあちょっとやってみるかという気持ちや、トラブルやうまくいかないことも含めて楽しめるなら飛び込んでもやっていけるかも知れません。

本記事には、Steam登録に進まれる方を止める意図はないです。Steamに出したことがきっかけで大ヒットする可能性もあるので、やめた方がいいですよとは一概には言えないところ。

ただ未来ある個人開発者さんたちが、Steamに期待しすぎて心折られる……だけでも悲しいのに、その落差から立ち直れず開発をやめてしまうのはもっと悲しい。だから挑むならせめて代替手段やSteamのデメリットについてもあらかじめ調べ、自衛してから進んでいただきたい。

老婆心ですがここまで読んでくださった方がこれからも楽しくゲーム開発を続けられるよう、ご参考になれば幸いです。

本稿は否定的な記事ですが、普段はSteamでゲーム売るならこういうことに気をつけてねという記事も書いていますので、そちらもご覧ください。


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