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個人ゲーム開発とお金と契約とスチームパイロッツの話

クラウドファンディングで集めた1000万円あまりを巡り大変なことになっているシューティングゲーム「スチームパイロッツ」。

本件にゆかりはないものの個人開発者として他人事でもないので、何ともいえない気持ちで続報を見守っています。

皆さんの反応をツイッターで拝見すると時々見かけるのが

「2年も無給でゲーム作るって有り得る?」

……というツイート。

会社勤めをしている社会人の皆さんや、アルバイトをしている学生さんなら、例えば1ヶ月お給料が払われなければもう大事件ですよね。なので「年」という単位に違和感を覚える方も多いと思います。でも個人ゲーム開発、そして個人事業主では割とあるあるな話です。

案件ベースか時給ベースか

そもそも会社員なら勤務時間が決まっていて、その時間に対する対価としてお給料が支払われるケースがほとんどかと思います。私も学生さんに仕事を頼む場合は実動時間を測りそれに対して時給で支払っていました。

しかし私がお仕事を請ける場合、案件ベースがほとんどでした。見積もりは「この仕事だと自分1人で20時間くらいで完結できそうだから、自分の時給を◯円として20×◯円=◯◯◯◯円」のように計算します。

私も案件ベースでお仕事を請けた場合、よほどの長期や大金でない限りお支払いは大体一回、一括払いでした。例えば1件50〜60万円くらいの案件でも、お支払いは仕事を納めて請求が終わってからだったので、それまでは無給で働くことになります。

四六時中作っているわけではない場合もある

例えばキャラクターデザインのお仕事だと、ラフ画出す→チェックバック待ち→線画出す→実装待ち→着彩して出す→実装待ち→修正や追加……といった具合に待ち時間が挟まるケースがあります。

なので、仮に開発期間が2年だったとしても、実際に開発にかけていた時間が丸2年の場合もあれば、もっと短いケースもあり、それは任されているお仕事の内容や全体のスケジュールがどのくらいタイトかによって異なります。

私も個人事業主の仕事をしていた時は「デザインを本業として、チェック待ちの時間にゲーム開発をする」といった風に仕事を組み立てていました。個人開発者の中には本業が終わった後や土日を工面して副業でゲームを作る人も多く、この場合は「開発期間」が長くなり、本業が忙しいほど「実動時間」との差が開いてくことになります。

見切り発車で開発を始めることもある

仕事を始める前に契約したり、お金の話はちゃんと決めてから始めるのでは? という点に関しては、これも「実際にそうじゃないこともある」、少なくとも私の場合は少額の仕事や急ぎのお仕事の場合は、見積りすら出さずに始めることもしばしばで、案件ごとの契約書なんてありませんでした。

例えば過去に私が請けたデザインの仕事で、お世話になっている取引先から「急ぎの仕事で、悪いようにはしないから」と頼まれた仕事を見切り発車で始めたら、考えていた金額の半分も請求できなかった、ということもありました。さすがにこういったことがあると次から警戒しましたが、かといってやっぱり急ぎの仕事は見切り発車になりがちだし、案件によっては数万レベルのものもあったので毎回契約書を交わすとかえってコストがかかります。

また、私が初めて関わった商業個人制作ゲーム「ケロブラスター」では、当初契約もなくなんかふわっと加入して、そんな深く関わるつもりもなく、数時間が数日に、数日が数ヶ月に、結局数年になりました。最初の一ヶ月くらい? (ちょっと覚えてません)は、ぶっちゃけ好きなゲーム制作に関われるし、お金のことはなんも考えてなかったんですが、同僚がいい人だったんで「そういうわけにはいかない」と向こうからお金や契約の話をしてくれました。私は何もわからんので「へー、じゃあそれで」と了承したものですが、悪い人だったら無給で延々作らされていたと思います。

お金の話はしにくい

ところでお勤めの皆さん、お給料をもっと増やして欲しいと考えたことはありますか? ある人がほとんどだと思います。私も勤めていた頃はそう思ってました。では「◯万くらい増やしてください」とはっきり交渉したことのある人はどのくらいいますか? あまりいないのではないでしょうか。私もしたことはありません。

他にも例えば、立場が上の相手に貸したお金を「返してください」とはっきり言える人はいるでしょうか。性格とか関係性、あと金額によるかも知れませんが、私は正直お金の話ってしにくいです。

会社であれば査定の機会など設けてもらえることもありますね。一方、個人事業主をやっていますと案件ごとに毎回金額の交渉をしなければなりません。私はこれが苦手でした。なので「金額の交渉もせず仕事を始めた」という話を聞いても、責める気にはなれず「わかります……」と思ってしまいがちです。

お金のリスクは実は会社が負ってくれている

毎月お給料が払われている方にとって、無給状況は異様に思えるかも知れません。しかし発注側の会社が倒産したり、プロジェクトが頓挫して売る予定だった商品が完成しなくなったり、ゲームが売れず大赤字だったりした場合、お給料は一体どこから支払われるのでしょう。

自分はこういう記事を読んでも、一体どこからこんな大金が出てくるのか分からないんですが、つまり、本来なら「こんなこともあろうかと」というちゃんとした会社側の備えによって、現場の人たちが働いた分のお給料は補填される、それができない場合は会社が潰れてしまい、そんな時は失業保険が利用できます。

しかし、個人事業主ではそんなことありません。生活費=開発費です。資金が尽きれば外注費も払えないし、私なんかだと多分銀行もお金貸してくれないし、開発費どころか自分の食費も払えなくなって死にます。

かといって、生活が苦しいから誰かに頼んだ仕事のお金を払わなくていいのか? というと、無論そんなことはありません。払えない可能性があるような額の仕事を発注しなければいい話なのですが……。

ちゃんとした契約書を交わしても

なんで未払いトラブルが起こるのかというと、「契約書が交わされておらず口約束だった」からに他ならないでしょう。法的に有効な形の契約書さえ残っていれば、裁判をせず「この契約書があります」で終わることもあるはずです。

一方で、養育費の支払いなど法的に「ちゃんと払いなさい」と言われたのに踏み倒す人もいるし、人のお金を横領して使い込んだりする人もいます。私たちの手元に報酬や対価が届く仕組みは、間にいる誰かの善意で成り立っているんですね。

私は過去のお仕事で合計100万円くらい未払いをされたことがあります。受託していた会計? の会社になんかトラブルがあったせいらしく、5〜6件程度の仕事の合計金額で個別の契約書はなく、踏み倒そうと思えば先方にもできたわけですが、後日支払っていただけました。しかしもし「今後一緒にお仕事ができなくなる」あるいは「お金のトラブルで社会的信用を失う」ことをなんとも思わない人だったら支払ってもらえなかったかも知れません。

とはいえ、実は私も2〜3度バイトさんの支払い締め切りを忘れていたこともあり、あまり人のことは言えません。「うっかり」忘れていたなら気づいた時に支払い、謝り、次からは忘れないようにすれば信頼関係は担保できるはずです。

スチームパイロッツについて

ここまで「個人ゲーム開発」や「個人事業主」としての経験を書いたわけですが、スチームパイロッツに関しては一方が法人だそうですので、自分なんかよりは契約やお金周りのことをきちんとされているとは思います。

今回の騒動、私は部外者ですし司法が判断するまでどちらがいい悪いと言う立場にはありませんが、話題を見るにつけ「長らく受注される側でお金の交渉には苦労した」&「開発チーム内のトラブル」フラッシュバックが起こり「ウッ」ってなります。

個人ゲーム開発者の端くれとしてどうか穏便に、より多くの人が納得できる形で決着して欲しいです。何より「お金のことで揉めて、みんなが楽しみに待っているゲームが完成しないかも」なんて悲しすぎる。

せめてこれが「個人間でも額が大きい場合は契約書交わしましょうね、でないと大変なことになりますから」と、お金や契約の話がきちんとできるきっかけになるよう願っています。


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