見出し画像

DQビルダーズ2のストーリーをウニとか使って紹介します

DQビルダーズ2が好きです。ブロックメイクRPGと銘打たれているとおり、建物やお庭を作ったり作物を育てたりする楽しさもさることながら、ストーリーの良さにコテンパンにされました。続きが気になって何日も徹夜し、泣きゲーでもないはずなのにめちゃくちゃ泣きました。しかし各レビューはやはりブロックメイク寄りの内容が多いので、私は物語を推しておきたい。

私は個人でゲームを開発しており、主に企画やレベルデザイン、シナリオを担当しています。DQB2の物語がどんなに良いか解説して褒めちぎりたいんですけど、ネタバレになるし、なにより開発関係者が他のゲームを解説するのって他人のふんどしで相撲をとるみたいで、かっこ悪い気がします(※1)。

なので、細かい解説は文末の注釈に留め、書いていて私が楽しいように登場キャラを「天使」「ウニ」「フラミンゴ」に置き換え、設定やセリフをある程度入れ替えて紹介してみます。とは言えネタバレを完全に回避できていないので、未プレイの方はご注意ください。

登場人物と関係性の紹介

画像2

・天使…控えめに言って天使。口が悪い。強い。ウニと行動をともにする。

画像1

・ウニ…ほぼ喋らない。鍋料理の申し子。あんまり強くない。

画像4

・フラミンゴ人使いが荒い。根はいい奴。良家出身。

序盤から不謹慎過ぎる天使

まず冒頭のウニと天使が出会うシーンが良いです。

👼「面白いものを見せてやるから来い」

なんだろうとウニがついていくと、

🦆「うう……!」

そこには、胃腸炎で苦しみもがくフラミンゴの姿があります。

👼「どうだ、面白いだろう」

と、再度自慢げに念を押す天使。

ウニ「ど不謹慎!!!」

ここで、天使は病苦を知らない、または一般的な倫理観や共感性が欠如していると分かります。これだけの情報をプレイヤーへ与えようとするとき、私なら「倫理観の欠如といえば、盗んだバイクで走り出せばいいのでは? よしバイクを用意しよう」などと考えて制作現場を泥沼にしがちです。そこをDQB2では、小道具や大掛かりな演出を用いず、ほんの数分の会話で天使がどういう人物か明確に紹介しており見事でした(※2)。

さて病苦を面白い呼ばわりされたフラミンゴは天使の暴言ぶりを

🦆「私たちのことをキサマとか呼ばない! ウニを見習って文化的になれ」

などと叱ります。この時、天使は「わかった」とは言わず、肩をすくめて首を振るのみでした。

慕ってくれる天使を不憫に思うウニ

DQB2は基本的に鍋作り(ネタバレを回避するためこの表現で統一します)をするゲームです。鍋って入れ物の鍋じゃなくてすき焼きとかそういうことですね。そうするとウニが食材っぽくなってきますがそういう意味ではないです。紛らわしいですね。さて天使はウニの作る鍋にとても興味があるようですが、自分は天の掟によって鍋を作ることができません。フラミンゴやモブたちでさえ鍋作りに参加してキャッキャしているのを横で見ています。天使も稀に鍋作りに挑戦してはみるものの焦がして豪快に失敗し「なんでオレだけ鍋が作れないんだ」とイラついた様子を見せます。

気づけば天使はウニたちのことを「キサマ」ではなく「オマエ」という二人称で呼んでくれるようになりました。相変わらず言動は乱暴だけど、苦しむ人を見て「面白い」と表現することはなくなり、少なくともウニとウニの鍋作りには好意的で、新しい鍋を作れば誰よりも真っ先に飛んで来て褒めてくれ(おそらく他キャラよりかなり移動速度が早く設定されている)、魔物に襲われればウニの元に駆けつけ守ってくれます。嬉しい反面、天使が自分のやりたいことをしている様子がないのでウニは心配になります。

ウニ「天使は自分と一緒にいて楽しいのだろうか?」

天使はお兄さんキャラで、とても強く、可愛いのに声が渋くて色気もあって腹筋は割れており、普段から何かで困った様子を見せることもありません。鍋が作れない以外、取り立てて弱みのないキャラなのです。だからこそ自分なんかといて宝の持ち腐れではないのかとウニは思っていました。

鍋を作る自分の周りを常にうろちょろしている天使の思いは尊崇か憧憬か、それとも嫉妬だったのか、ウニには分かりませんし、もしかしたら天使自身も分かっていなかったかも知れません。

全肯定され全ウニが泣いた

そうこうするうちに東西奔走、鍋作りの神童と呼ばれ腕を見込まれたウニは、行く先々でフラミンゴや他のモブたちから、やれキムチ鍋作れ、いや豆乳鍋だ、あの鍋この鍋と頼まれます。忙しくウニが鍋を作っているのを天使はいつも側で物珍しそうに眺めるものの、自分から「こんな鍋が食べたい」と頼みごとをすることは皆無でした。

物語が進むと、天使とウニが鍋作りの環境から強制的に離されるくだりがあります。ウニは「こういうのいいから鍋はよ、元の場所に帰せよ」と思っていました。なんとか鍋作りができる環境に戻ってくると、ウニたちの帰りをずっと待っていたっぽいフラミンゴが「二人が戻ったお祝いをしよう」と言い出します。

🦆「ウニが作った鍋が食べたい! やっぱ主菜は藍藻がいいな」

※藍藻(らんそう)とはフラミンゴの主食だそうです

👼「しょうがないな。おいウニ、藍藻も入れてやろうぜ」

🦆「天使は何か入れて欲しい具材はないの?」

聞かれて考え込む天使。今までウニと行動をともにしていたため大変な目に逢わせてしまったし、そろそろお腹も空いているだろう、各地を巡って鍋作りの腕も上がったからなんだって作れるよ、さあ好きなものを言ってごらん!……思いながらウニが答えを待っていると、天使は顔を上げてこう答えました。

👼「オレはこいつが作る鍋ならなんでもいい」

ウニ 「は? 好き」

鍋作りの環境から引き離されていたことはウニにとって相当ストレス(※3)でした。そのストレスから解き放たれた直後に、今まで常に自分の側で鍋作りを見守ってくれていた天使が、自分の作る鍋を全肯定してくれるのです。全ウニが泣いた。

さらに物語を進めると、いつもウニと一緒だった天使が軟禁され当面会えなくなるくだりがあります。周りのモブは相変わらず、あの鍋この鍋と要求してきて、ウニの鍋を褒めてくれるのですが、ちっとも心に響いて来ない。鍋作りを楽しむゲームのはずなのに、天使が姿を見せないことで急に色褪せる目の前の鍋。かつて鍋作りの環境から離されたとき「こういうのいいから鍋はよ」と思っていたはずのウニは「鍋なんていいから天使はよ」と思いながら鍋を作ることになるのです。

DQB2では情報が絶妙な塩梅でユーザーに与えられることにより感情を揺さぶられる流れが多く、「物語のデザイン」が非常に優れていると感じました。例えば「ふもとの洞窟に、見た目が青くて頭が尖った常に笑顔の魔物が出る」と聞いて、あっドラクエ名物初期モンスターのあいつですね余裕! と退治しようと現場へ着くと出てきたのはギガンテスだった……みたいな「明言されていない情報から得た思い込みで予想を覆される」ことがたくさんあります(※4)。

例えば天使のセリフひとつとっても、まだまだいいものがたくさんあるんですけど、これ以上ネタバレせず説明するのが難しいので、もしまだDQB2未プレイの方がこの記事を読まれていて興味が沸いたら、ぜひ遊んでみてほしいです。

壊れた二人称と過去形の意味

さて物語では割と序盤から「天使はいずれすごい不遜(偉そう)になる病になるかも知れない」といった伏線が散りばめられていました。不遜なる病に罹患してしまうと、天使は天使じゃなくなるのだろうか……ウニの不安は的中し、やがて天使は時々口調が変わり偉そうになったり、もう大丈夫だと言ったりする(※5)、危ういシーンが繰り返されます。

変わっていく自分に気づいた天使はウニから距離を置き、独り自分の病気と対峙しようとみんなの前から姿を消します。ウニは天使を探し、数々の苦難を乗り越え追いかけ……やっと二人が再会を果たした時、病に侵された天使はウニを見下ろしてこう告げました。

👼「キサマとの鍋作り、楽しかったぞ」

キサマって呼ぶなよ、過去形ってなんだよ。



※1 【他人のふんどしで相撲をとる】前に制作に関わっていたゲームがデータ内を触れる作りになっていて、キャラの絵の部分を書き換えて公開し「こういうことをすればゲームが改造できる」というブログを書いてた人がいてドン引きしました。ゲーム批評などを仕事にする人はそれでもいいのかもしれませんが私はやっぱり開発寄りでいたいので
※2【ユーザーの共感を得やすいセリフ】文章で読者の100%から共感を得るのは難しいものですが、病苦、お腹すいた、そしてなにより「生死」は、程度の差はあれど万国の人間共通の概念です。「病気で苦しんでいる人を見て面白いと表現」すれば、ほぼ100%の人が「えっ」と驚くことでしょう。例外があるとすれば「読者が病苦を理解できていない」場合で、天使と同じように「面白い」と笑ったかも知れません
※3【読み手にかけるべきストレス】物語を書くにあたり、私は「お客さんに嫌な思いをさせない方がいいのでは?」と思ってしまいがちですが「ボスがいないアクションゲームが遊びたい」「犯人を知ってから物語を読みたい」といった極端にストレスを嫌う特定層、あるいはスマホで手軽にできるゲームを求める層向けではなく、DQB2のように買いきりで長く遊ぶタイプのゲーム、かつ物語序盤でなければ「ストレス&リリース」は非常に有効と感じました
※4 【伏線ではなく置き石】こういう外見だから強い/弱い、男性/女性など、長く生きているほど培ってきた思い込みを利用され翻弄されることになるため、メインキャラの若さや頭身の低いグラフィックとは裏腹に、大人こそ遊んでいて楽しい作品であると感じます。物語には「伏線回収」という言葉がありますが、DQB2では「気づいたときにはひっくり返される」ことが多かったので私は「置き石」と呼んでいます。脱線の原因だけではなく囲碁でも使われるし「上級者が相手の力量をわかっていて置くもの」ですね
※5 【異変の描き方】全然大丈夫そうじゃない人が「大丈夫」って口にするとこんなに恐ろしいのか……と震えました。天使はとても強いキャラとして描かれているため、ギャップも効果的に作用します。また、このシーンでは天使の口調に合わせて文字表示の音階が変わるという細やかな演出が入っており必見です



いいなと思ったら応援しよう!