インディー(個人開発)ゲーム、パブリッシャーのチェックポイント
個人でゲームを開発、Steamで販売しています。
開発はともかく販売までするのは割と大変です。セルフパブリッシュは気楽なようでいて開発の時間を削ぐものですから、イバラの道を一緒に歩いてくれるパブリッシャーさんがいるに越したことはありません。
とはいえ、まわりを見渡してみると最近セルフパブリッシュしている人が増えてきた印象です。「リリースのお誘いをいただいたが断った」という声も耳にします。契約が面倒、売り上げを引かれるのが嫌、自分で好きに売りたい、パブリッシャーさんが見つからなかった…など、理由は様々でしょう。
個人開発ゲームを扱ってもらえるパブリッシャーさんを探す、あるいは見つけてもらう手立てはSNSやイベントなど色々あるものの、実際のところどういったパブリッシャーさんなら安心して任せられるのでしょうか。
本記事では自力Steamパブリッシュ勢の私が「Steamパブリッシャーさんならここはやってほしいと思う点」を挙げておきます。きっかけは、パブリッシャーを名乗る人たちの杜撰な対応を見て「私でさえやってることを、お金をとってパブリッシャーを名乗ってるのにやってないとは?」と腹が立ったからです。器が小さいな。
以下、「Steam」プラットフォームにおいて、
-実際にパブリッシャーを選ぶ時の目安にしたい
-パブリッシャーに声をかけられたが良し悪しが分からず悩んでる
-パブリッシャーの仕事がどんなものか興味がある
-自分がパブリッシャー所属で本稿の内容が気になる
……といった方向けの限定的な記事内容です。
前提:基本的にパブリッシャーに任せるのがおすすめ
私は基本的に、個人開発者が細々とセルフパブリッシュするよりも、ちゃんとしたパブリッシャーさんに販売をお任せする方が、開発の時間が確保できて開発者としての寿命は延びると考えています。
ひと昔前、インディーという概念があまり浸透していなかった時代、「そもそも個人がゲームを売る場があるなんて夢のまた夢だった頃」に比べれば、個人を相手にしてくれるパブリッシャーが存在することそのものがありがたいです。
一方で、「売れると思ったゲームが売れなかった」「販促がうまくいかなかった」といったことなら明確な対策もしにくくノウハウの蓄積しにくい部分だと思いますが、私が以下に挙げるような「Steamのマニュアルを読んだり、他のストアページを参考にすれば分かること」、「個人開発者でもやっているし、できなくはない」ことをパブリッシャーが放置しているのは、ちょっとひどい。
パブリッシャー側としては「あんまり売れてないゲームなのにケアしてもしゃあない」など言い分はあるかと思います。思いますが、じゃあ私たちは何のためにお金を払うんやと思ってしまいます。
Steamコミュニティの書き込みに対応しているか
私が個人でストアで売ってて一番大変なのが、ユーザーからの報告対応や意見への返信です。当たり前ですがほとんど英語なので、そもそも何が書いているか理解して、一つ返信するのにも時間がかかります。顧客対応なんて日本語だって大変なのに…ここを誰かに代行してもらえたらどんなに楽だろう、とよく思います。
しかし、個人開発者は手が回らないのか英語が苦手なのか、それともコミュニティの存在に気づいていないのか、ガン無視している人もいます。
個人ならまだしもガン無視しているパブリッシャーもあります。
確かにコミュニティには雑談や考察も混ざっているので答えないのも分かりますが、問い合わせっぽい質問やバグ報告まで完全スルー、中には「パブリッシャーが無視しているので、開発者が代わりに答えている」ケースもありました。
PCゲームはコンシューマに比べ機種由来のバグが多くなりがちですので、コミュニティにバグ専用の報告板を設置している個人開発者を多く見かけます。こうしておかないと、バグ報告の書き込みが散乱して後から拾うのが大変になるし、プレイヤー側も自分と同じバグ報告はあるのか調べたりするのに一手間かかってしまいます。パブリッシャーなら最低限そこはおさえて欲しい。
ただ、ざっと見たところ小規模パブリッシャーでコミュニティ対応しているところは少ないので、対応しないのはデフォルトなのかも知れません。
おそらくSteamの仕様でコミュニティを閉じたりはできないので、なら「ここでは返答しません。お問い合わせはメールまで」とか書いておいて欲しいし、実際そうしているパブリッシャーさんもあります。
プレスリリースを出してくれるか
この間、私が好きな実況者Gさんが関係したゲームがリリースされてたんですが、プレスリリースが出された形跡がありませんでした。
Gさんは「予算を使い果たしてしまったので売りたい」といったことをご自身の動画でも発信されていたのにどうして? 何か事情があるのか、それにしてももったいないと思いました。
個人では開発に手を取られて販促がおろそかになりがちだし、気がついたらタイミングを逃していた! という事態もありがちです。
知名度のある方なら、自分のアカウントで宣伝すれば十分かも知れません。しかし、私の感覚ではリリースを出す出さないで数割売り上げに影響がある、そしてリリース分を作ったり送るのは地味に手間なので、パブリッシャーさんに手助けして欲しいところです。
Steamの「ニュース」欄を更新しているか
Steamコミュニティのニュース更新は書き込みがかなり面倒くさいです。多言語分ページ文章と画像を用意しないといけないので、使い方に慣れてない+ノンネイティブ人には使いづらい。
また、更新したからといって必ず売り上げにつながるかはわかりません。逆に言うと、ここを更新しているパブリッシャーさんは丁寧な対応をされている可能性が高いと思います。
序盤のセール価格がやたら安くないか
Steamには「割引率は徐々に増やしていこう」というセオリーがあります。ウィッシュリストという機能を最大限活用するためのベストプラクティスであると同時に、発売してまもなく定価で買ったゲームが翌日いきなり半額で売ってるのに気づいたユーザーのお腹立ちを防ぐものでもあり、そのようにSteamのマニュアルにも書いています。優しいな。
Steamユーザーも「だんだん値下がりしていく」「すぐ欲しいゲームは割引率が低くても買うが、そこそこ欲しいゲームは値下がりを待つ」つもりで買っている人が多いでしょう。私もそのひとりです。
なので初回割引率がやたら高いのは(話題性があるなどの理由があってあえてそうするならともかく)、ユーザーとしての目から見てもどうかと思います。
英語/日本語ネイティブのスタッフがいるか
Steamからたまに英語でビジネスメール届くんですけど、見出しが「俺たちは帰ってきたぜ」みたいなノリの時があります。Twitterで海外の販促見ててもかなりフランクというか、やっぱネイティブは違う感が漂います。
Steamで売るなら、日本国内よりも海外が主戦場と考えて間違いありません。同じ販促するなら英語が「ちゃんと」できる人にいて欲しい。なので、海外拠点のパブリッシャーか、国内に拠点のあるパブリッシャーでも英語がネイティブのスタッフがいるかは重要なポイントです。
一生懸命だけでは埋められない壁があります。機械翻訳なら自力でできるでしょう。同じ費用を払うなら、自分ができないことをお願いできるパブリッシャーさんに預けたいです。
逆に、海外拠点のパブリッシャーなら日本語ができるスタッフがいないとビジネスの話は厳しいと思います。契約したらゲームの権利全部もっていかれた人とか、移植のために渡したデータを盗用された会社の話も聞いたことあるので、日本語抜きの話には注意が必要です。
メタデータに対してプレイヤーから不満の声がないか
メタデータとは「ストアデータに書かれているゲームの説明文や対応言語」など全般を指します。
プレイヤーレビューを読んでいると「メタデータとプレイした印象が違う」「概要には書かれていないが○○表現が苦手な人は注意」といった指摘を見つけることがあります。この場合、「メタデータを書いた人はゲームのセールスポイントやプレイ体験を理解していない」「個人開発者自身が紹介文を書いており、誰も推敲していない」可能性が高いです。
自分が作ったゲームの客観視が難しいのは分かります。私も自作品を推すのが苦手で、体験版を遊んだプレイヤーの声、翻訳者さんの感想、メディアの書き方などを参考にして、何度もメタデータを推敲し書き直しました。自力でやるのは地味に大変です。
もし個人開発者が自力でメタデータを揃えて推敲すらしてもらえないなら、パブリッシャーとは何のために存在するのか?
番外編:スキャンダルがあったパブリッシャーは……
不祥事があった会社というと敬遠されがちですが、だからこそ名誉挽回しようと人材が入れ替わったりしてかえってクリーンになるケースがよくあるように思うので、私個人はあんまり気にしません。
パブリッシャーというビジネスを許容する
以上色々書きましたが、これらのことを全部くまなくやってます! というパブリッシャーは滅多に見かけないし、してもらえないからといって即ち悪いパブリッシャーである、ということもありません。
例えば冒頭で書いた「私でさえやってることを、お金をとってパブリッシャーを名乗ってるのにやってない」、自力なら採算度外視で色々やってしまいがちですが、顧客に丁寧な対応をしても元が取れないなら見切りをつけられてしまうのは仕方ありません。先方もビジネスですから、割に合わない/売れなさそうなゲームをケアしないのは当然ですし、担当や経営者が変わればやり方が変わることもあるでしょう。とはいえかなり売れてるっぽいゲームにまでそういう対応をしているところはどうかと思います。
またもし私が挙げたような対応が不十分であった場合も、悪く言われるのはパブリッシャーなので、顧客対応は開発者の仕事ではないと割り切って、次回作はさらに素敵なパブリッシャーさんに売ってもらえる、あるいはバカ売れするめちゃくちゃ面白いゲームを作ることに集中した方がいいかも知れません。
パブリッシャーと交渉する場合、私なら「こういうことが大変なので、対応してもらうのは可能か?」と聞いてみるかな……とはいえ逆に自分がパブリッシャー側で、個人開発者がこの記事みたいな感じのことを言ってきたら、正直うわめんどくさと思うかも。
けれどもし、ここまで読んでくださった開発者さんが怪しげな、あるいは杜撰なパブリッシャーに声をかけられて「あれ? なんか警戒した方がいいかも」と思われた時の、小さな砦になれば幸いです。
2022年8月25日追記:
実際に契約の話が進んだ場合はautomatonさんの記事のように売り上げのシェアがどうなるか、ぱぃろさんのツイートのように重要な契約内容に関して相談の余地があるかどうかも気になるところです。
どこを重要視するかは人それぞれで、私の場合は「返信が遅くて進行に支障がある」と判断したことがきっかけだったので、仮に契約内容が申し分なくても結局断ったと思います。
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