握力屋ときどき物書き屋

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凡人が握力で1番を目指します GM150 66Kg以下級 世界ランキング4位 (2021.1.15時点) 趣味で小説も書いています ご意見やご連絡は↓↓↓ akuryokuya@gmail.com

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 卒業式から五日後。   「皆んな頑張ろうねー! また会おうねー! 年賀状も毎年出すからねー! 絶対また会おうねー!」    駅舎の中で泣きじゃくり、他の乗客の目もおかまいなしに騒いでいる紗良。全く。みっともないったらありゃあしない。    電車に乗ってからも窓から半身を乗り出して、大きく手を振る紗良を、おれたち三人で見送った。    そしてその二日後には、由希子と二人で優一の見送りに行くつもりであった。  それを本人に伝えると、「別に一生会えんなる訳やねぇし、俺らの間

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       三月吉日。スポーツ文化センター内のアリーナを埋め尽くす程の、スーツを身に纏った卒業生達。ざっと四、五百人くらいだろうか。  普段、食堂が少し混雑してきただけでも厚かましいと感じるのにその比ではない。学内に、四年生がこんなにもいたのかと目を疑った。まぁ確かに入学式でも、頭数の多さから盛大に感じられた記憶があった様な。    それに普段学内で過ごしていたとしても、学部が違って授業で顔を合わせることがなかったり、いつもおれ達が居座る食堂には来なかったりと、交流の無い学生の方がむ

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         年も明けて早、二月も中旬に差し掛かろうかという今日この頃。各ゼミの教授から後期の成績表を受け取りに、おれもその順番を待っていた。    期末試験の度、一人ずつ教授の研究室へ行き、軽い面談をしつつ成績表を渡されるのがお決まり。今回は四年の後期ということもあり、この成績発表でほぼ卒業が確定する。  もしこの時点で卒業単位が足りていない場合、追試で事足りるならばすぐにその手続きを。今日の時点で留年が確定しているのであれば……。まぁ、おれに関して言えば、優一や由希子のおかげでその

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           この年の十二月は、月の中旬あたりから冬型の気圧配置が強まり、全国的に寒気の影響を大きく受けていた。  ここ数日、日本海側では特に強い寒気が押し寄せ、テレビの向こう側では各地で大雪の報せが。そしてここ一二六号線沿いにも、本格的な真冬の寒さが訪れていた。      土曜日ということに加えて、今日は二十四日。世間はクリスマスイブ。そのせいで、普段よりいくらも忙しかった様に思う。  子ども連れの家族客が多かったのだろう。ディナータイムの客の入りも早く、流れて来る注文伝票の内容

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        • 野良猫学級
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           十月中旬に差し掛かろうかという頃。県の教育委員会から一通の封筒が届いた。  中を検めると、一枚の用紙の頭にでかでかと、「選考結果通知書」と記されている。真ん中あたりには、「公立学校教員採用候補者選考(第二次選考)において、下記の結果となりましたので通知します」と。      結果は不合格。     ……まぁ、しょうがない。何にしても、一次の筆記試験は通過した訳だから、一年足らずとはいえ、ある程度コツコツと積み上げた結果が出たこともあり、そこまでの悔いは無かった様に思え

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           四度目の春。年明けからはもうすでに、一般企業への就職活動が始まっている。今まで遊んできた四年生も、大半は頭を黒く染め直しており、就活に勤しむ紗良もすっかり黒髪が板についてきていた。  最初は、「黒染めしたのなんて何年ぶりだっけー! 自分じゃないみたいで超ウケるんだけど!」と、テンションは高いがやや照れ臭そうに。    そう。自分ではないのだ。何十社も面接をする中で、この仕事をしたい、この会社に人生を捧げて生きていくとのだ、とでも言わんばかりの口上を宣い、翌週にはまた別の会

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           羽田空港から札幌の新千歳空港への早朝便。おれたち四人は約二時間ばかりの、空の旅を満喫していた。  飛行機に乗るのは高校生の時の修学旅行以来だろうか。窓の外にずうっと広がる雲の上の澄んだ景色に、やや気持ちが高揚する。    前の席に座る由希子と紗良も、いささか興奮気味である。隣に座る優一はというと飛行機が離陸した辺りからずっと、「……おれ、飛行機無理なんじゃ……」と、ぐったりしている。せっかくの飛行機だというのに全く。軟弱者め。  千歳空港を視界に捉えた時にはもう、そこは

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           三年生の後期ともなると、学内で同級生を目にする機会が減ってきた。    年が明けるといよいよ就活が始まる。だから、二年生が終わるまでに、遅くとも三年生のうちには、取れるだけの単位は取っておく様にと、入学時からゼミの教授をはじめとした人達に口酸っぱく言われてきた。    その言いつけをしっかりと守り、真面目にこなしてきた者は、もうこの時期になるとほとんど講義など履修せずとも、卒業圏内にまで駒を進めているというわけだ。  そうなるとほとんどの者にとっては学校に用事など無いに等

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           教室から見える外の風景も、新緑ですっかり鮮やかになった。吹き抜ける風も心地よく、ついうとうとしてしまう。  去年の今頃も講義の最中には、こうして夢見心地で机に突っ伏していたのだが……。   「竜也くん。教職の授業くらいちゃんと起きてないとダメだよ」    おれの意識が他所へ行ってしまっていると見るや度々、通路を挟んで隣に座る由希子が、身を乗り出しながらおれの肩をシャーペンの頭でつつく。   「ちゃんとノート取りなよ」   「ああ。……大丈夫。でも五分だけ休ませてくれ……」

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           三年生の前期の開始して早々、皆で夜景でも見に行こうと言い出したのは宗太だ。    夜景というと、大都会のビルから見下ろす街並み。または、田舎の山から見渡す街の景色。だと思うのだが、おれたちが下宿をするこの街には生憎、そのどちらも見当たらない。  首都圏からは離れており、もちろんここも県庁所在地からは離れた高層な建物の無い、まぁ田舎だ。しかし田舎とはいえ、地理的に平坦で、何なら平均標高が日本で一番低い県。つまり山という山もほとんど見当たらないのである。   「それがあるんだ

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           四月一日。大学生のおれ達は春休み真っ只中。こういった長期休暇の過ごし方は大きく二つ。    下宿しながら学校に通っている者が大半だから、目的など特に無くてもとりあえず地元へと帰省する奴。わざわざ帰省する用事も無いから、しょうがなく一人暮らしのアパートに残る奴。    優一は山口の実家へ。北海道に青森に秋田に……。東北組が多いな、おれの周りの連中は。    そしておれは後者だ。皆の溜まり場となっていたこのアパートも、この休みの期間だけは静かにゆっくりと時間が流れている。講義も

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           夏休みも終わり後期の講義が始まり、多少の季節の流れとともに、この芝生の広場の景色も少しだけ風変わりした。   「竜也くん! またさっきの授業抜け出したな!」    芝生に仰向けになりうとうとしていたおれを呼び起こす声に、多少の煩わしさを感じた。   「……あ? ……何だよ、もう授業終わったの?」    おれはのそりと体を起こした。ぼやけた視界を擦ると、その先には頬を膨らませた由希子の姿がある。   「終わったの? じゃないよ。ちゃんと授業受けなよ」  そう小さく肩を落とし

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          「お前どうせヒマじゃろ? しゃあねぇけぇ誘っちゃるわ」    そう言って、優一はおれをバーベキューパーティへと招待してきた。    前期の期末考査も終わって夏休み目前という今、確かにおれは暇である。というより、この期間に暇じゃない学生がどこにいるのか。何とも不思議な誘い文句だ。    だがそれ以上に、学生らしく夏にバーベキューに一緒行く様なキャピキャピと浮かれた友人が、優一にも存在していたということがおれには解せなかった。仏頂面で頭はたわしで、おれより愛想が無いくせに。  

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           大学の講義というものは非常に奥ゆかしく、おれにとってはただただ眠たいばかりであった。それは教職課程の講義に於いてもさして変わりは無かった。    一年次からずっと、二年に上がってからの今日に至っても、教育指導要領を教材に、もっぱら教育基本法についての講義。 「第一条 教育は,人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を……」いつもこの辺りで、おれは読むのをやめてしまう。  何も力尽きてしまう訳ではない。馬鹿ら

          ストロベリー・スモーキー(全15話) 1

          あらすじ やや自堕落で、何となく充足感の無い日々を過ごしていた大学生の川嶋竜也。モラトリアム真っ只中の大学生。その日常と心情の動きを切り取ったヒューマンドラマ。 ーーーーー  カーテンの隙間からベッドに差し込む日が、顔をチリチリと焼く鬱陶しさで目を覚ました。    時計の針を見ると、九時二十五分といったところ。大学の講義は九時三十分から始まるので、今日も完全に遅刻コースまっしぐらだ。どうして寝坊というのは、こう絶妙な時間に目が覚めるのだろうか。  今から急いで行けば、

          ストロベリー・スモーキー(全15話) 1

          野良猫学級 第16話 追い出し

          ――緞帳を巻き取る機械音が止まり、静まり返った体育館で、おれはそっと目を開けた。  ステージ中央に置かれた指揮台の前に立つ環菜。下手には、奥から引っ張り出してきたピアノと、その前に立つ杏子。ステージ後方にはひな壇まで段取りしており、桃果、百合……皆が並んで立っている。文化祭のそれが目の前でそっくり再現されている。髪やら化粧やらといった奴らの風貌はあの日とは違い、いつもの見慣れた十三組の野良猫共だ。 「何だよお前ら。おれのために歌ってくれんのか?」 「ほうよ!わざわざアタシら

          野良猫学級 第16話 追い出し