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封事屋のひとひら帳 連載中(2024/08/05~)|更新は月・水・金の6:00予定

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封事屋のひとひら帳 連載中(2024/08/05~)|更新は月・水・金の6:00予定

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  • 【連載小説】封事屋のひとひら帳

    封事屋のひとひら帳 連載中。更新は月・水・金の6:00予定

最近の記事

【連載小説】封事屋のひとひら帳 18

 ほどなく女が戻ってきた。 「こちらを」  と、お守りを差しだしてくる。それは神社や寺で授かるお守りと一見同じだ。 「肌身離さず持っていてくださいね」  あと、と女は続ける。 「決して中は見ないように。開けてしまったら、その瞬間に効果は消えてしまいますから」  しかしながら、 「願いが叶ったら、開けてもかまいませんよ。なにもないことに驚くかもしれませんが、それは願いが叶った証拠」  それには翔磨が口を開いた。 「そもそもなにも入ってないってことですか」 「いいえ。願いを叶える

    • 【連載小説】封事屋のひとひら帳 17

      「それで願いがひとつ叶うのか」 「ふたつあるなら、ふたつ買えばいいんじゃない?」 「え? 授けてくれるのはひとつだけじゃないのか」  里果は首を横に振る。 「ほしいだけ買えるって話だよ」 「ほしいだけって……」 「ひとつに選びきれないもんね」 「で、何個買うつもりなんだ」 「んー、ふたつ? 翔ちゃんは?」 「俺はいいって」 「ホントに? だって願い事、叶うんだよ?」 「……神頼みで叶うような願いなら、とっくに叶ってるよ」  そこへ、女子高生風の二人組がお守り屋からでてきた。興

      • 【連載小説】封事屋のひとひら帳 16

        2  日差し厳しい昼下がり、翔磨と並んで歩くのはひとつ下の幼なじみである立花里果。涼しげなワンピースに日傘を差す。  ふたりが向かっているのは、駅にほど近い雑居ビルだ。 「ここみたい」  里果はスマホの画面と見比べる。  一階はチェーンの居酒屋で、その脇に二階への階段があるのだが、三組ほどの年齢さまざまな女性たちがすでに並んでいた。翔磨たちもその最後に並ぶ。 「ここが、その、お守り屋だって?」  翔磨は階段の先を見る。これといった看板もなく、薄暗く雑然としている。 「どんな

        • 【連載小説】封事屋のひとひら帳 15

          「でも、ここ来る前はなにも言ってませんでしたし、大丈夫かなって思うんですけど、どうでしょう?」 「わたしたちに訊くんじゃないわよ」  と、暁子はため息をつく。そして続ける。 「知ってると思ってるほうがいいでしょうね。下手に隠したりはぐらかしたりすると、あとでろくな事にならない」 「ちゃんと話したほうがいいってことですか」  そう言う湊の声音は承服しかねている。 「事実だけをね」 「事実、ですか」 「ヘグイが関わっているかとうかは、まだはっきりしていない。今、話していることは全

        【連載小説】封事屋のひとひら帳 18

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        • 【連載小説】封事屋のひとひら帳
          18本

        記事

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 14

           応えたのは暁子だった。 「できるかできないかっていうのなら、できるわよ」  しかしながら、 「封事屋なら、やらない」  それも、 「人体に施すとなれば、禁忌に触れることになる」  もし、禁忌を犯せば、 「その瞬間、封事屋ではなくなる。追われる立場になる。ヘグイとしてね」 「それってちょっと厳しすぎない?」  亜衣はそう言ってチョコレートを摘まみ、続ける。 「別にひと殺してるわけでもないんだし、永遠にその効果が続くわけでもないでしょ」 「やれるってことが問題なのよ。ヘグイにい

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 14

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 13

           湊は諦めて問いかける。 「今日なんだけど、坂、開いたかな」 『今日? 開いてないけど』  ひとひら帳は続ける。 『昨日の、封じたやつじゃなくて?』 「それじゃなくて、別に開いたのあるかなって」 『ああ、一瞬だけ開いたやつ?』 「それはいつかな」 『ちょうど坂封じてるときかな。でも、本当にすぐ開いて閉じちゃったから。そういうのよくあるし』 「それって、どこかな」 『ちょっと待ってよ』  文字が滲んで消える。次に浮かび上がってきたのは地図だ。バツ印がつくそこは雪里公園だった。

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 13

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 12

          「その通り。通報者は十二時半ごろに現場を通って図書館に向かってるんだけど、そのときはなにもなかったって」 「通報者の方の証言どおりならば、その後、何者かによってなにかがおこなわれ、手と血を残して去っていったってことになりますけど、まったく目撃者がいないというのは不自然ですよ」  というのも、公園は見晴らしがよく、そのうえ図書館からも一望できる。いくら真夏の暑い時間帯とはいえ、だれも通らない、見ていない、というのは考えにくい。 「できないこと、ないっしょ」  亜衣はにんまりとし

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 12

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 11

          「やっほー、湊」 「いらっしゃい、亜衣さん」  店へと湊が先導する。ドアを開けて先に通す。亜衣は迷いなくカウンターについた。 「なんにする?」  と、暁子も慣れた様子だ。 「じゃあ……スネーク・バイトといつもの」 「かしこまりました」  キッチンにオーダーをだし、グラスを用意しだす暁子に、亜衣はカウンターに腕を組んで身を乗りだす。 「ちょっとおもしろい話あるんだけど」 「なあに?」 「市立図書館のとこに公園あるでしょ」 「雪里公園?」 「そこで血の海になってるって通報があった

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 11

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 10

          『オッケー! 昨日、坂が開いたのは……』  湊はパントリーへと向かう。荷物を置いてフロアに戻る。まずはそうじからだ。それが終わったら……と頭のなかで段取りをしながら進める。  ちら、と暁子を見る。真剣な表情でひとひら帳を見つめている。時折、ひとひら帳に近づいては離れたりしているものだから、つい、 「老眼ですか?」 「そこまで年食っちゃいないわよ。あんたの呪が読みづらいだけ」  藪蛇だった。  キッチンに引っ込もうとするが遅かった。 「練習、ちゃんとしてるんでしょうね」 「あー

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 10

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 9

          「ご機嫌斜めなところ申し訳ないんだけど、今日もおでかけ、いいかな?」 『えー……』 「今日はぼくが持っていくからさ」 『どこ行くの?』 「暁子さんのとこ」 『それを先に言いなさいよ! オッケーに決まってるじゃない』  すぐに出掛けようという勢いに、湊は少し早いが支度を始める。  顔を洗って、寝癖のついた頭を直す。左目だけ黒のカラーコンタクトを入れてから眼鏡をかける。  部屋に戻って着替える。左腕を染め上げる黒は肩にも達している。首までいこうかというところで今は止まっている。

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 9

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 8

          「お、警察まできてんじゃん。見にいこうぜ」 「いってこい」 「付き合いわりぃなあ」  裕希は駆けていった。  三時をまわったところで、翔磨は帰路につく。まだまだ日は高く、自転車とはいえ汗が噴く。  自宅は住宅街にある古いアパートだ。二階建てで四戸が入る。  階段下に自転車を止める。二階に上がって奥の部屋の鍵を開けた。 「ただいま」  入ってすぐは台所になる。奥の襖の向こうから、 「おかえり」  と、湊の声がした。  翔磨は冷蔵庫から麦茶をとると、グラスになみなみと注ぐ。ぐい

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 8

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 7

           それでも家でなく図書館まで出向いているのは、 「起こしたくないんだ」 「湊さんか?」  翔磨は頷いて返す。しかし裕希は怪訝そうに、 「静かに読んでるだけなら大丈夫だろ」 「気配でもだめなんだ」 「そんなんでよく昼間、寝てられるよな」 「今はだいぶ慣れたって言ってるけどな」 「けど、なんかイメージしにくいんだよな。湊さんてさ、けっこうのんびりしてるじゃん? マイペースっていうの?」 「そこは同意だな」 「だからさ、どこでも寝れそうな感じしててさ」 「おまえじゃないんだぞ」 「

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 7

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 6

           平日だか、夏休みとあって図書館は賑わう。とはいっても静かなもので、紙をめくる音すら大きい。  翔磨は頬杖をつきながら、古い和本に目を落としていた。 「なに書いてあんの、それ」  頭の上から声が降ってくる。 「てか、読めんの?」  と、覗きこんできたのは、小学校からの腐れ縁の近藤裕希だ。裕希はとなりに座った。 「古文とかさっぱりなんだよなあ」 「理系なら問題ないだろ」  と、声を落としながら返しても、同じ机でノートを広げる学生たちの視線が痛い。翔磨はため息をひとつ、席を立った

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 6

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 5

           そう無邪気に問う男は若い。二十代前半といったところか。月明かりに透ける淡い髪も血に濡れる。 「え? 手? ああ、手首で切っちゃっていいんだね」  男は胴から切り離された右腕を踏んで転がす。手のひらが天を向く位置で止めると屈んだ。そしてズボンの後ろポケットに挿していた筆をとる。  筆先を、血にまみれた手首へと走らせる。黒で記される呪は血に混じることなく、くっきりと残る。  筆先が肌から離れた瞬間だった。呪は青い炎を上げる。手首を包み込み燃え上がったのも束の間、炎は消える。そこ

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 5

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 4

          「ひさしぶりって、そんなに経ってる?」 「前に封じてから一ヶ月は経ってますね」 「月一回あるかないか、か。封事屋稼業もあがったりね」 「そのくらいがちょうどいいですよ。そんなそこかしこで『坂』が開いたら、それこそ問題ですよ。暁子さんだって、本業が大騒ぎになりますよ」 「本業は店よ」 「なに言ってるんですか、組合長」 「押しつけられただけよ」 「なにをおっしゃいます。師匠の実力は誰もが認めるところですよ」 「口ばっかり上手くなるわね、うちの弟子は」 「事実ですって。現役退いてる

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 4

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 3

          「帰りは楽だな」  というのも、この神社、高台にある。  一気に下る。風を切れば少しは涼しいかと思いきや、蒸し暑いものはどうやっても暑い。 「この季節はきついな……」  襟元に手をやる。一番上までしっかりボタンは留まっている。  坂を下りきるころには住宅街へと入る。明かりの落ちる家がほとんどで、外灯がやけに眩しく見える。そこから閑散とした大通りを一本越える。駅が近づいてくると、ひとの姿が目につきだす。  足早に帰宅する姿や、吸い込まれるようにコンビニはいってゆく人。すっかりで

          【連載小説】封事屋のひとひら帳 3