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【連載小説】封事屋のひとひら帳 12

「その通り。通報者は十二時半ごろに現場を通って図書館に向かってるんだけど、そのときはなにもなかったって」
「通報者の方の証言どおりならば、その後、何者かによってなにかがおこなわれ、手と血を残して去っていったってことになりますけど、まったく目撃者がいないというのは不自然ですよ」
 というのも、公園は見晴らしがよく、そのうえ図書館からも一望できる。いくら真夏の暑い時間帯とはいえ、だれも通らない、見ていない、というのは考えにくい。
「できないこと、ないっしょ」
 亜衣はにんまりとしてふたりを見る。暁子は苦虫を噛み潰したように顔をしかめて、おもむろ口を開く。
「封事屋が関わってるって言いたいわけ?」
「いやいや、このやり口は『ヘグイ』でしょう……っていうか、封事屋だったらそれこそ問題でしょ」
「どっちもどっちよ」
「ちょっと待ってください!」
 湊が割り込む。
「そもそも封事屋やヘグイが関わってる案件じゃないかもしれないじゃないですか」
「じゃあ、現場に残された手は?」
 亜衣が問う。
「それは……なんか、そういう加工技術があるとか」
「まあ、まったくあり得なくもないか。じゃあ、目撃者がいないのは?」
「発生から半日ですよね。まだおおやけにもなっていないなら、申し出ていないだけかもしれませんよ」
 それだけではない。
「防犯カメラとかも調べれば、なにか映っているかもしれませんし」
「それを待ってからでもいいんだけど、もっと手っ取り早い方法があると思ってきたんだけどなあ」
 それには暁子が、
「そうとも限らないんじゃない?」
「ふたりがそう思いたい気持ちはわかんなくないけど、訊いたほうが早いし、すっきりするって」
「他人事だと思って」
「そんなそんな。情報屋こっちとしてもお仕事ですから」
 暁子は重々しくため息をひとつ、
「湊、ひとひら帳」
「……本当に訊くんですか?」
「いいから持ってきなさい」
 ひとひら帳を取ってくる。三人のあいだに開いて置く。
『亜衣ちゃん、ひさしぶり! どうしたの?』
「ちょっと訊きたいことがあってね」
 亜衣はそういって、湊に目で促す。


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