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論文購読

3年生の課題演習(ゼミの一歩手前)では、ひたすら論文を読んで発表するという活動をしてもらうことにしている。

4年生で卒論のテーマを選ぶわけであるが、それまでにあまりたくさんの日本語学に触れているわけではない学生さんに、4年生になったからテーマを選んでね、というのも無理がある。というわけで、ひたすら論文を読んでもらう。


くるりとhomecomingsが好きで、彼らのラジオを聴いているが、彼らは彼らが好きな音楽を紹介する。そのことによって、彼らが目指している音楽であったり、彼らのテイストに近い音楽を知ることになって、彼らの音楽に対する理解が深まったりもする。そして、自分が好きな音楽のタイプというものが見えてくる。


論文を購読するというのもそういうもんだと思っている。堤のゼミに来るかどうかを検討するときに、堤のゼミでできる研究はどのようなものか、それは、堤の研究分野で行われている研究を知ることから始まるように思う。そのことによって、日本語学に対する理解が深まるといいなと思っている。


毎週、3人の学生が各自選んできた論文をパワポにまとめて発表する。その論文のすごいところはどこなのか。著者はどのような人なのか。その論文を、自分はどのように読んで、どのような問題点を見つけてきたのか。プレゼンテーションの練習でもあったりするし、良い論文、そうでない論文、そういうものを見分ける目の涵養であったりもする。


聴衆は、その論文を読んでこなくてもいいことにしている。発表者の話だけで、だいたいその論文がどのようなものかを、聴衆に知らせる説明能力が求められている。聴衆はそれを聴いて、その場でそれなりのコメントをする瞬発力が求められている。なかなかの活動である。毎週3本ずつ紹介されるので、学期が終わる頃には40本くらいの論文を「読んだ」気分になる。もちろん、興味を持った論文があれば、改めて各自読んで勉強すれば良い。


自分がこれから「入っていく」ものについては、入り口のところで、できるだけ浅く広く知っておく必要がある。くるりが好きなら、くるりまわりの音楽から、チャイコフスキーが好きならチャイコフスキーに近いテイストの音楽から。文学でもそれは同じで、そうやって自分の好みが分かってくる。そんな中で、聴きたい音楽がない! と思った人が、自らそれを作り出すのだろう。読みたい作品がない! と感じた人が、自ら小説を書くのだろう。


学問も同じなのではないかと思う。というわけで、3年生には今学期はがっつり、他人の論文をひたすら読んでもらう。日本語学の世界でいま何が話題になっているのか、どんなことがよく研究されているのか。


当然僕にも分からない論文があるし、読んでないものも多い。僕自身も、「ほぉ~そんな論文がありますのか」と思うことも多い。


奥へ入ろうと思うと、入り口は広めにしておく必要があると思う。

奥へ入りながら、入り口を広げていく。

「深める」とはそういうことなのだろうと思う。

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