第155講 二十世紀から二十一世紀へ
155-1 様々な人権の広がり
Keyword
1:女性解放運動
2:ウーマン・リブ
3:フェミニズム
4:世界女性会議
5:女性差別撤廃条約
6:男女雇用機会均等法
7:サーリーフ
8:緒方貞子
9:国連難民高等弁務官
10:化学兵器禁止条約
11:対人地雷全面禁止条約
12:核兵器禁止条約
はじめに
1948年に採択された世界人権宣言や、1966年に採択された国際人権規約を基礎に、20世紀後半、さまざまな分野で人権尊重する国際的な取り組みがすすめられた。ここでは女性問題と平和問題を取り上げる。
女性解放運動
19世紀末から20世紀前半、「女性解放の第一の波」がおこり、各国で女性参政権が実現した。
20世紀後半、より広汎な分野で女性の解放をめざす「1:女性解放運動の第二の波」がおこった。
ヴェトナム反戦運動やプラハの春など民衆が様々な事柄に声をあげた1960年代後半、女性が主体的な生き方を実現するための社会変革をめざす2:ウーマン・リブが再燃した。合衆国では、公民権運動やヴェトナム反戦運動と呼応して2:ウーマン・リブ運動Women's Liberationがおこり各国に広がった。
男性中心の価値観を批判する女性解放運動を3:フェミニズム運動という。女性が主体的に生きるため意識改革をおこない、隷属状態からの解放を可能にする社会的・文化的・制度的な変革をめざした。
1975年、メキシコで133カ国が参加して4:世界女性会議がひらかれた。男女平等についての国家の責任と性的役割分業の変革が協調された。これを第1回とし、世界各地で継続して開催されている。
「女性解放の第二の波」を受けて1979年、国連総会で5:女性差別撤廃条約が採択された。締約国に、女性差別を禁止する立法や適切な措置をとることを求め、1981年に発効した。日本では、1985年、中曽根内閣が6:男女雇用機会均等法を制定しこれに応じた。
1979年サッチャー政権が誕生し、世界各国で女性首相や大統領が誕生した。
リベリアで内戦終結後にアフリカ初の女性大統領となった7:サーリーフ(任2006~2018)は2011年、ノーベル平和賞を受賞した。
1976年、日本初の女性国連公使となった8:緒方貞子は、1990年から3期10年、9:国連難民高等弁務官をつとめた。
平和な世界を求めて
冷戦後、繰り返し起こる地域紛争、難民の増加など、化学兵器による大量虐殺や対人地雷など、様々な問題が表面化した。
1993年調印、1997年発効した10:化学兵器禁止条約は、化学兵器の開発・生産・貯蔵・使用を禁止し、廃棄を決めた。過去に遺棄した化学兵器の廃棄も義務づけた。
1997年調印、1999年発効した11:対人地雷全面禁止条約は、保有地雷の4年以内の廃棄を義務づけた。
2017年12:核兵器禁止条約が国連総会で採択された。発効には50カ国の批准が必要。*条約は2021年発効したが日本は批准していない。
155-2 環境問題への国際的な取り組み
Keyword
1:レイチェル=カーソン
2:沈黙の春
3:国連人間環境会議
4:国連環境計画(UNEP)
5:持続可能な発展
6:緑の党
7:シュレーダー
8:「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)
9:リオ宣言
10:アジェンダ21
11:気候変動枠組条約
12:京都会議
13:京都議定書
14:コペンハーゲン会議
15:パリ協定
環境問題の萌芽
地球規模ですすむ環境破壊は、主権国家の枠をこえて対応しなければ解決できない。70年代以降、環境問題に対する国際的な取り組みがすすめられ、世界史の新しい潮流となった。
アメリカの海洋生物学者1:レイチェル=カーソン(1907-1964)は、1962年の主著『2:沈黙の春』で、農薬による食物の汚染や人体への害、農薬の蓄積による生態系の破壊を警告した。自然環境の保護をはかるエコロジー運動の意識を覚醒させ、1972年の国連人間環境会議のきっかけとなった。
1972年に、スウェーデンのストックホルムでひらかれた3:国連人間環境会議は、環境問題について議論された国連の会議で、114カ国が参加し、「人間環境宣言」を採択した。
同72年に、国連人間環境会議の成果を実施するために、4:国連環境計画(UNEP)というプログラムが設立され、事務局をケニアのナイロビに置いた。
1980年代以降の環境問題への取り組み
1987年に「国連環境と開発に関する世界委員会」で、環境保全と開発の両立をめざす「5:持続可能な発展」というキーワードが提起された。92年の地球サミットで合意された9:リオ宣言に盛り込まれた。以後環境問題に取り組む上で基本的な立場となった。
1980年に西ドイツで結成された6:緑の党は、環境保護をかかげ、既成政党を批判し、ほかの欧州諸国にも勢力を拡大した。東西ドイツ統一後の1998年には、社会民主党の7:シュレーダー政権で連立与党の一員となり、ドイツの環境政策を環境保護重視に転じさせた。
*「千と千尋の神隠し」が表彰された?
1992年、ブラジルのリオデジャネイロで8:「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)が開催された。9:リオ宣言や10アジェンダ21計画、11:気候変動枠組条約などが採択され、「持続可能な開発」を目指すことがうたわれた。
9:リオ宣言は、環境保全の原則を示した。
10:アジェンダ21は、21世紀に向けて作成された環境保護のプログラム。
11:気候変動枠組条約は、1994年に発効した、温室効果ガスの排出量削減に関する条約。二酸化炭素などを削減し、締約国会議が審査することが決められた。
1997年、京都で、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開催された(12:京都会議、地球温暖化防止会議)。二酸化炭素など温室効果ガス削減の数値目標と、取り組みに対する法的拘束を決めた13:京都議定書を採択し、排出権取引の制度を定めたが、大量排出国の合衆国が批准を拒否した。
2009年、デンマークのコペンハーゲンで、気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)が開催された(14:コペンハーゲン会議)。京都議定書にかわる議定書の締結をめざしたが、かなわなかった。
2015年、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)がパリで開催され、15パリ協定が採択された。
155-3 進む地域間の連携と新しい主権国家の誕生
キーワード
1:グローバリゼーション
2:反グローバリズム
3:外国人労働者問題
4:アジア太平洋経済協力会議(APEC)
5:ASEAN自由貿易圏
6:ASEAN+3
7:東アジア共同体構想
8:アジア=ヨーロッパ会合(ASEM)
9:環太平洋連携協定(TPP)
10:北米自由貿易協定
11:南米南部共同市場
12:マーストリヒト条約
13:欧州連合(EU)
14:欧州通貨制度
15:単一欧州議定書
16:欧州中央銀行
17:EU憲法
18:リスボン条約
19:EU大統領
20:ユーロ危機
21:EU離脱
地域間の連携
冷戦の終結によって、2陣営の対立を軸にした国際関係が転換し、世界の一体化が加速する1:グローバリゼーションの時代を迎え、各大陸・地域で関税の撤廃や貿易の自由化が模索された。一方、地球規模での環境破壊や貧富格差の増大をもたらすとしてグローバル化そのものに反対する2:反グローバリズムの動きもおこった。貧しい地域から豊かな地域に労働者が流入する3:外国人労働者問題は、フランスやドイツ、合衆国など多くの先進国で国論を二分する問題となった。
1989年にオーストラリア・ニュージーランド・米・加・日・韓とASEAN6カ国の12カ国によって結成された4:アジア太平洋経済協力会議(APEC)は、「開かれた地域主義」をかかげ、貿易・投資の自由化を目指した。
ASEAN諸国は、1993年に5:ASEAN自由貿易圏を結成した。域内経済協力を進めるための貿易圏で、域内関税の引き下げなどを行った。
6:ASEAN+3は、ASEAN諸国と日本・中国・韓国で構成される地域協力の枠組みで、マレーシアのマハティール首相や日本の小泉首相によって協力推進が提案された。
ASEAN諸国と日本・中国・韓国で政治経済共同体を目指す構想を7:東アジア共同体構想という。2005年、東アジアサミットが開催され、インド・オーストラリア・ニュージーランドの首脳も参加した。
1996年に発足した8:アジア=ヨーロッパ会合(ASEM)は、ASEANとEUの協力を進めるための会議で、2年ごとに開かれ、2013年現在、46カ国と欧州委員会・ASEAN事務局で構成されている。
9:環太平洋パートナーシップ(TPP)協定は、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国及びベトナムの合計12か国で高い水準の、野心的で、包括的な、バランスの取れた協定を目指し交渉が進められてきた経済連携協定。2015年10月のアトランタ閣僚会合において、大筋合意に至り、2016年2月、ニュージーランドで署名された。日本は2017年1月に国内手続の完了を寄託国であるニュージーランドに通報し、TPP協定を締結した。
その後、2017年1月に米国が離脱を表明したことを受けて、米国以外の11か国の間で協定の早期発効を目指して協議を行った。2017年11月のダナンでの閣僚会合で11か国によるTPPにつき大筋合意に至り、2018年3月、チリで「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」が署名された。
2023年には、英国の新規加盟が承認された。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/index.html
10:北米自由貿易協定(NAFTA)は、アメリカ、カナダ、メキシコ3カ国が1992年に調印し、1994年に発効した自由貿易協定。相互の関税を撤廃することで合意し、貿易を促進させた。2017年に就任したトランプ大統領はNAFTAの解消を訴え、加盟国によるNAFTA再交渉の結果、2018年10月にNAFTAを米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に置き換えることに合意し、2020年7月のUSMCA発効によりNAFTAは効力を失った。
11:南米南部共同市場(MERCOSUR)は、1995年、ブラジル・アルゼンチン・パラグアイ・ウルグアイが参加して発足した共同市場。域内関税の撤廃、共通関税を進める。2006年にベネズエラが加盟。
EUの発展
1992年、ネーデルラント(オランダ)で12:マーストリヒト条約が調印され、翌1993年、13:欧州連合(EU)が発足した。欧州市民権を創設、共通通貨の導入、共通安全保障政策、司法・内政分野の協力をうたった。
EUへの準備として、1979年に共通通貨制度である14:欧州通貨制度が発足した。加盟国の為替レートを安定させる目的で、加盟国間の為替変動を2.25%の幅におさえるよう、各国の中央銀行が介入するとした。1987年には15:単一欧州議定書がEC12か国間で合意され、92年までにヒト、モノ、サービスの自由移動を可能にするとした。
EUの単一通貨ユーロは、1999年から決済通貨としての使用がはじまり、2002年より参加12か国の通貨として流通を開始した。2014年現在の導入国は18か国。
1999年、ユーロの発行権をもち、管理運営やユーロ圏の金融政策を策定・実施するために16:欧州中央銀行が設立された。本部はドイツのフランクフルト。
2004年には、EU大統領の選出など、政治的統合を進める17:EU憲法が条約として採択されたが、翌2005年にフランスとネーデルラントが批准を拒否、発効しなかった。
2007年12月に調印され、2009年に発効した18:リスボン条約は、条約から「憲法」の言葉を廃し、共通の旗や国歌の規定を削除した。議長が半年ごとの輪番だった理事会の継続性を求め、EU理事会(EUの最高意思決定機関)を主催する 19:EU大統領が新設された。任期は二年半。
2009年、ギリシアの財政危機が共通通貨ユーロの信用を脅かし20:ユーロ危機がおこった。
2016年英国の国民投票で21:EU離脱が可決され、2020年ジョンソン首相のもとEUを離脱した。
ヨーロッパ連合(EU)加盟国
1957年(EUの前身、欧州経済共同体設立時)
ベルギー
フランス
イタリア
ルクセンブルク
オランダ(ネーデルラント)
西ドイツ(ドイツ連邦共和国)
1973年
デンマーク
アイルランド
グレートブリテン(2020年にEUを離脱)
1981年
ギリシア
1986年
スペイン
ポルトガル
1995年
オーストリア
フィンランド
スウェーデン
2004年(東欧拡大)
キプロス
チェコ共和国
エストニア
ハンガリー
ラトビア
リトアニア
マルタ
ポーランド
スロバキア
スロベニア
2007年
ブルガリア
ルーマニア
2013年
クロアチア
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