🈞 彼の事
私が彼を亡くしたのは 19の時でした
彼は3つ上の22歳でした 結婚する筈でした
雨上がりの高速をドライブ中 タイヤがバーストし
反対車線に飛び込み 対向車が目前に迫った時
彼は私を庇い私に覆い被さり フロントガラスから
上半身飛び出し 即死でした 私は左顔面を
したたかドアに打ち付け 以来 左耳の聴力を失いました
でも私が失ったのはそれだけ あとは全部彼が
フロントガラスの向こうに 持って行きました
以後私は 男の人と会うと右側に陣取り
聴こえない左耳は 一切の言葉を聞きませんでした
それでも 心配し 勇気づけ 愛してくれる人に巡り会い
望まれるまま 結婚しました でも6年半が限界でした
私は全く彼を 忘れていなかったのです
その後も3回結婚しましたが 結果は同じ事でした
離婚の理由を相手の束縛と書きましたが 要は
彼を忘れ得ない私への どうにもならぬ嫉妬心でした
私は結婚するべきでは無かった 今更ながら想います
もしも彼が生きていて一緒に暮らしていたのなら
もしかしたらずっと前に 壊れていたかもしれません
でも 消えるという事は 永遠の想いを残します
私を庇って逝ってしまった彼を 私は忘れない
忘れたくても 消し去りたくても それは許されない
1人生き残ってしまった私への それが罰なのか
一生苦しめという制裁なのか それは分からないけれど
今でも私は 夢でも逢えない彼を 待ち続けています