上司とラストオーダー20分前の焼き肉屋に滑り込みで入店したときの話
注意:この記事は若干愚痴にも似た内容になっております。気分を害される方もいらっしゃるかもしれませんので、その点ご了承ください。なお、この記事を読んで感じてほしいことは「こんな人間許せない!駆逐してやる!」といった進撃の巨人的感想ではございません。「こんな人もおるんか、世の中広いなぁ。一応頭の隅に入れておこう」くらいに留めてください。小生は別に争いを生み出したいのではありません。ただ腹立つのは事実なので、もし仮に燃えたときはガソリンもって暴れます。
また、中の人がずる向けですので、悪しからず。傲慢の罪担当野々村あこうではなく、中の人のお話です。
週末の残業
小生は、あまりホワイトとは言えない会社に勤めている。先月の残業時間はざっと70時間を超えた。しかし、上司は口をそろえて言うのだ。
「俺が若い頃はもっと大変だった。家に帰れればむしろいい方だ。会社に寝泊まりするなんて当たり前だぞ。この程度で音を上げるようではまだまだ一人前にはなれねえな」
ある種洗脳じみた言葉の羅列に、日々精神をすり減らしているのが現状である。
さて、そんなある日の夜だ。今日もまた、定時の5時を過ぎても一向に帰れる気配がなかった。隣に座る上司が、あれよこれよと新しい仕事を持ってくる。このご時世に仕事がたくさんあるのは確かにいいことだ。うれしい悲鳴とも言えよう。不景気真っ只中にも拘らず、こちらは休む間もなく働いている。これでもう少し給料がよければ文句はないのだが。
その日の仕事内容は、一ヶ月ほど前に上司が行った会議の議事録作成だった。その日のうちにメモを取ってまとめていたそうだが、そのメモを失くしてしまったらしい。ということで急遽小生が当時の録音を遡り議事録作成することになったわけだ。その間上司はまた別の仕事に追われている。計画性は皆無と言っていいだろう。
議事録の内容についてここで触れるつもりはないのでざっくりと飛ばしてしまうが、録音自体は4時間もあった。しかもスマートフォンで撮った音声のようで、上司の声はクリアに聞こえるにもかかわらず周囲の発言は籠っていて訳が分からない。
何とか議事録をまとめつつ、時計を見るともう23時になっていた。小生は上司に問いかける。
「そろそろ帰っていいですか?」
「あ? お前もうできたのか?」
「いやぁ、明日土曜日に出社して続きやりますよ」
「いやいや、それだと俺が部長に怒られちゃうんだって。分かった分かった。いったん飯休憩してまたやろう」
ということで、小生と上司は急遽筆を止めて飯を食べに行くことにした。とは言ってもこんな時間。いくら週末金曜日とはいえ、空いているのは24時間営のチェーン店か飲み屋くらいだろう。食後にまた仕事が待っているわけだし、車で移動するわけだし。飲み屋に入ることだけは避けたかった。とは言っても、チェーン店に上司と二人もそれはそれで嫌だ。
同じ感覚を彼も抱いていたらしい。明かりの消えた街並みを見ながらつぶやく。
「牛丼はさすがに嫌だなぁ」
「あはは、そうですね」
早く帰りたい。とは口が裂けても言えなかった。
それからしばらく車を走らせていると、偶然まだ経営してそうな焼き肉屋を見つけた。肉寿司まで取り扱っているらしい。上司はそれを見つけるや嬉しそうに言った。
「肉食いてえな」
というわけで、小生たちの車が焼き肉屋の駐車場に入り込む。
入店、そして横暴
「まだやってますか?」
私が扉を開けると、がらんとした店内の奥から一人の青年が顔を見せた。今どきの髪形をしていて、少しチャラさを感じる。しかし、店内の雰囲気や店員の服装はむしろ重々しく、高級店のような印象を受けた。
「ラストオーダーがあと20分なんですが、よろしいでしょうか?」
店員の問いかけに、上司はいいよいいよと返事しながら勝手に席へ腰かけた。
「オーダーお願い!」
「え、あ。はい!」
まだメニューも見ていないのに、急に言い放つ上司。小生も店員も思わず反応が遅れてしまった。それに対して苛立った様子で机をたたく。
「ラストオーダーまで時間内んだろぉ? 早くしろ」
「「あ、はい」」
小生と店員が、今度は同時に動いた。
「んで、どれがいいんだ? お、コースメニューあんじゃん。じゃぁこのコースの一番安いやつ2つ。早く持ってきて」
「か、かしこまりました」
店員はメモも取らずに慌てて厨房に戻っていく。その姿を目で追いながら、小生はよろしくお願いします。と付け足した。
「ここの肉美味かったらいいけどな」
上司はまだ何も来ていないにもかかわらず笑う。
「そうですねぇ」
適当に相槌を打ちながら、仕事の話を始めた。
途中、店員が戻ってきて飲み物を聞いた。これから仕事があるのでお酒は飲めない。二人してコーラを注文すると、店員はまたすぐに帰っていった。
それから5分くらい待っただろうか。店の様子は、もうすでに椅子も上がっておりフロアはモップ掛けが済んだようだった。以前飲食店で働いていた小生は思う。クローズ作業が終わった直後に現れる客って面倒くさいのが多かったんだよなぁと。
まさか、その面倒くさい客になってしまうとは思ってもいなかった。お持ち帰りで一品だけ注文してくれるならいいものの、作るのが面倒くさい料理を注文してくっちゃべられると店が閉められなくて大変迷惑した過去を思い出す。
店員が、お通しの枝豆と前菜のナムルを持ってきた。それを見て上司が一言。
「なんだこれ、小さいな」
「あ、はい。すみません」
「これっぽっちなのか?」
「はい、一番安いコースは、お試しコースのようなものですので」
「なんだそれ聞いてねえぞ」
聞いていないお前が悪いだろうとは言えない。
「だぁ、仕方ないな。ラストオーダーまであと何分だ?」
「10分ほどでございます」
店員が頭を下げると、上司はメニューも見ずに言い放った。
「よし分かった。ユッケジャンクッパ追加しろ」
「あ、当店ユッケジャンクッパはやっておりません」
「はぁ? 使えねえなぁ。ユッケジャンクッパないの? 焼き肉屋なんだろお宅」
「え、えぇ。ユッケジャンは取り扱っておりますが、クッパはございません」
「ライスは?」
「へ?」
「ライスだよライス。米くらいあんだろ?」
「ございますが」
「んじゃそれでいいよ。ユッケジャン一人前にお米混ぜて持ってきな」
店員が少し考えてからメニューを読み上げる。
「ユッケジャンとライスを一人前でよろしいでしょうか」
「おう。混ぜて持って来いな。あと、一人前を二つに分けて持ってきてくれ」
「えっと、それはどういう?」
「見てわかんないか? 客は二人いるだろ? ユッケジャンクッパ一人前を二つの皿に分けて持って来い」
「あぁ、えっと。はい。分かりました」
店員は諦めたように厨房へ戻っていった。まさに横暴のそれである。
「ユッケジャンクッパ追加したけど足りるかなぁ」
上司は次の料理が届くまで退屈そうにメニューを眺めていた。
「もし足りなかったらどうするんですか?」
「そんなん決まってるだろ」
上司はにやりと笑う。
「駄々こねるんだよ」
こんなことを堂々と言う上司を、どう信頼しろというのか。
結局
なんだかんだあったが、メニューはどれもおいしかった。最初苛ついていた上司も、想像以上の肉に感動したのか、最後は笑顔で会計を済ませた。店員もほっとした様子だ。ラストオーダーギリギリだったにもかかわらず、対応してくれた彼には感謝の思いでいっぱいである。
さて、仕事に戻ろう。いつの間にやら日付の変わっていたその日、小生と上司は職場に戻ってPCを開いた。
早く転職したい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?