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雲間から射す光を見て、「あそこから天使が降りてくるんだよね」と彼女は言った。わたしは一瞬絶句した。そして内心冷ややかに思った。天使だって、何言ってんの。いるとしても、いると信じているとしても、それを口に出すのは違う、と。

中学校の帰り道だった。四人の間に沈黙が降りたから、他の二人もわたしと似たようなことを思っていたのかもしれない。小学校高学年の頃から、周りの人の暗黙の要望に敏感になっていたわたしは、同級生たちに過剰に同調していた。お互いに通じ合う話題以外を話すことは極力避けていた。なのに彼女は、天使、と言った、衝撃だった。そんなことを話していいのか。あまりの衝撃で、そのあとの会話を覚えていない。おそらく彼女は、あれは天使の梯子という名前だから、天使が降りてくるのだと続けたように思う。わたしはその日家に着くまでずっと、天使という言葉に打ちのめされていた気がする。

当時、あまり話がかみ合わなくて少し疎ましくもあった彼女のことを、わたしはあの日心底羨んだのだと思う。わたしが同級生と話を合わせることに汲々としている間に、彼女は自身の内なる世界を豊かに保っていたのだから。周囲の反応を気にせずに、話したいことを話していた、すごい人だった。きっとあのピュアなまま大人になったのだろうと思う。わたしは屈折しすぎて遠回りしたけれど、いまは天使とか精霊とかの話をこうやって書いている。あの日のわたしが見たら笑うだろう、怒るだろう、泣くだろう、そんなこと書いていいの、と。書いていいのだ。もう大丈夫なのだと、あの日のわたしに言ってあげなくては。

今日の天使の梯子を見て、思い出したこと。

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写真は昨日の天使の梯子。光芒、薄明光線とも。

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