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0819

四時四十四分に目が覚めた。カーテンを開けて窓も開け放つと、ひんやりとした空気が入ってきた。東の空はやわらかい薔薇色で、西の空のすうっと走った雲もほんのり同じ色に染まっていた。空気はまだ少しうすあおい。建物の影が、伸びた稲の上にくっきりと濃く浮かぶ。

閉め切っていても聞こえていたのだけれど、窓を開けたとたんに、音は質感を持って部屋に流れ込んできた。虫が鳴いている。田んぼのいたるところで、いっせいに翅を震わせている。薄暗い部屋で横になって、音を追っていた。すぐ近くで鳴いている一匹一匹の声。離れたところの声は塊になって聞こえる。塊はいくつかあって、それぞれがちょっとずつずれながら、盛り上がっては静かになるのを繰り返していた。

この虫の音は、どんな波紋かなと思った。水底からぷくぷくと湧き出る小さな気泡が浮かんだ。稲の隙間から無数の泡が立ち昇ってくるのを想像した。その泡に囲まれる自分も。音と泡に包まれているうちに、わたしは眠りに落ちた。


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